第211話 シスピリア城到着っ
ティティはルミエールの馬に揺られ、城に向かいながら、まだあきらめてはいなかった。
お城についてご領主さまに挨拶を終えたら、街に宿を取りたいともう一度言ってみるぞ!と、拳を握るティティ。
<難しいと思うぞ>
ティティの前にちょこりと座るスヴァがちらりと振り向いて、ぼそりと呟く。
<いや、諦めたらだめだ。チャレンジしなきゃ>
ティティとしてもダメかなあと思うが、やってOKとれれば儲けものである。
心安らかに過ごせるではないか。
そう決意を新たにしている間に、ティティたちはお城に着いた。
西の辺境伯が住む城、シスピリア城。
街の中央にあるその城は東の辺境伯が住む城とは打って変わり、無骨さはなりを潜め、優美さが先行した城であった。
しかしその見た目とは裏腹に、作りは細かなところまで作り込まれていて、守りに易し、責めるにえげつない作りになっており、見る人がみれば、感心するほどの作りになっていた。
「ほわあ。やっぱりお城っていうのはでっかいねえ」
<残念な感想であるな>
スヴァがわかっていたというようにため息をつく。
「なんだよっ!」
それ以外の感想が何かあるっていうのか。
「何を一人で騒いでいるのですか。城に入りますから、大人しくしてください」
「はーい」
ルミエールにぴしゃりと言われてしまった。
スヴァのせいだぞっと、スヴァの背中を睨むもまったく動じていないのが憎らしい。
後で何かやってやるぞとティティは心に決める。
そう考えているうちに、ルミエールは馬を先へと進めた。
どうやら城に知らせが先に来ていたようである。
暗い城壁の通路を抜けて、城の内部へとすんなりと入った。
城壁の内側へと入ると、馬を兵士に預けて、城の中へと入る。
案内人に従いながら、ルミエールを先頭に中へ中へと進む。
そして通されたのは立派な応接室だ。
おおっ!すげえ!と声が出そうになったが、なんとか抑え込んでルミエールの後に従う。
応接室はあったかなふかふかな臙脂の絨毯が敷いてあり、そこの中央にでんと立派な応接セット。
部屋に入った正面には暖炉。その両脇には窓があり、外からの日差しで中は明るかった。
「こちらで少々お待ちください」
そう言って、従者らしき少年が下がっていく。
きょろりと見回せば、部屋の角にはでっかい花瓶に花が飾ってあり、壁には絵が飾ってあった。
うーん。金持ちって感じだね。
しかしなんだな。
ティティの中に目覚めて、まだ2月経つか経たないか。
それなのに、防衛の要と言える二大拠点のお城をもう制覇したって、どうよ?
なんかティティのこれからの未来を反映しているようで、胃が痛くなるゾ。
うーん。平凡な平民なティティがなぜにこんな展開になっているのか。
ティティは応接室で西の領主さまを待ちながら、そっと胃を抑えた。
痛い、かな?
さぐってみたが、痛みは感じてないような。
ティティはぽりぽりと顔を掻いた。
どうやら、自分は思ったよりも図太いのかもしれない。
<なんだ? 腹がへったのか? そういえば、我も少し空いたか?>
<ちげえよ!>
この状況に全く動じない相棒に突っ込みを入れつつも、そういえば私も小腹が空いたかもと思うティティである。
鞄からだして干し肉かじったらだめだろうか。
扉の傍にはメイドさんが1人。クラシカルなメイド服がいいねっ。
尻が沈みすぎるソファに座るルミエール。よく綺麗に座れるな。隣に座っているティティは気を抜くと、背もたれにでれんとなりそうになっているのに。
ヒースとブリアは自分たちが座るソファの後ろに立っている。
うん。メイドさん1人なら、干し肉食べてもいいんじゃね?
スヴァにやる振りをして自分が食べてもいいんじゃね?
ご領主さまが来たら、しばらくは干し肉食べらんないっしょ。
食べられないとなると、今すぐに食べたくなるのが人の常。
よし、そうと決まったら、早速。
と、国守さまからもらった肩掛け鞄こと、収納袋に手を伸ばしたところで、ドアが開いた。
<遅かったな。我も食べたかった>
くぅ。少しの逡巡が明暗を分けた。
がっかりのティティである。
まずは領の一番偉い人に挨拶しないといけません。




