第205話 3人寄れば文殊の知恵 3人より多ければもっといいよね
これは話すかどうか迷った。
けれど、協力してもらったほうがいいとの判断で話す事にした。
息をすって、吐き出す。心を落ち着けてっと。
さあ、いくぞ!
「国守さまにノアを預かるって言われて、それなら私もしばらく国守さまのところに留まるって言ったんです。ノアを1人で残して西に行くなんて心配でできそうになかったから」
「そうでしょうね」
ルミエールが頷く。
「けれど、国守さまはそれを許してくれませんでした」
「それはどうしてですか?」
うん。ルミエール、当然の疑問だよね。
「どうやら、私はできるだけ早く、西の辺境に向かう必要があるらしいのです」
「小さなレディ、どういうことだい?」
ヒースも黙っていられなくなったらしい。
ルミエールの横から口を出して来た。
「私が残るか否か迷っていた時、国守さまがおっしゃったんです」
「其方は西の地にいる2つの魂に会いにいけ。そして救ってやれ」
何とも抽象的な言葉だ。もっと具体的に誰を助けろって言ってくれればいいのに。
<それもお主への課題なのだろう。食えない奴よ>
スヴァ、国守さまを奴呼ばわりはダメだって。
でも、国守さま、そんな課題なんていらないよ。
あ、もしかしてノアを助ける代償に働けってことか?
それなら文句言えないか。
うん。こうして誰かと話していると、気づかなかったことが浮き彫りになってくるね。
覚えておこう。
さて、話の続き続き。
「私が西の辺境領へ行く途中なのは、国守さまは当然知っておりました。そこで私にやるべき役割を果たせと命じられたのです」
うん。嘘は言ってないよ。多少脚色してるかもしれないけどね。
「私が西に向かうのは恐れ多くの英雄様にお会いする為です」
「となると、救う魂の1つは英雄様であるのかしら?」
ブリアが試案深げに呟く。
「わかりません」
ティティは首を振る。
そうであれば、解決は早くなるが、あの少年が苦しんでいるとしたら、複雑な気持ちである。
それに英雄とまで呼ばれているライアンが、助けを求めているなんてあるだろうか。
<英雄ならではの悩みもあるのではないか?>
<うーむ。そういうものか>
スヴァの助言に首を傾げる。
だって、英雄さまだよ? 欲しいものは何でも手に入りそうだし、やりたい事もできそうじゃない?
<祭り上げられれば、それだけ制限も出来る。その立場の悩みもあるだろうよ>
<なるほど>
元頂点に立っていた男、スヴァ。説得力あるね。
「私の目的が彼に会うことである以上、可能性は低いかもしれないですが、除外はしないで考えたほうがいいかもしれないです」
「魂を救えですか。随分と大仰ですね」
ルミエールは顎に拳をあて、思考する。
「人と限定していないところから考えると、違う生物の魂というのも考えられるか?」
ヒースも、考え考え呟く。
「そうね。その可能性もあるかもしれないわ」
ブリアも賛同する。
「え!? どういうことですか?」
なんだよ。救えっつー魂は人間じゃないのかよ。
「例えば、動物、植物? 精霊? あるいは魔物か?」
ヒースが思いつくままに挙げていく。
「えっ! 魔物ですか?!」
「例えばの話だよ。ほら、人に使役されている魔物だっているんだから、可能性はあるのではないかな」
「なるほど」
そっか。かくいう私もテイマーだった。人に味方している魔物っているもんね。ヒース、頭が柔らかいな。
「となると、魂を探す範囲はかなり広いですね。そもそも西の辺境地というのは領都であるブリストンだけを差すのでしょうか?それとも西の辺境伯ヘクタ様が治める領土全域を探す必要があるのでしょうか?」
ルミエールが更に言葉を重ねる。
「うわあああ!」
国守さま、ヒントをください。
指令が漠然しすぎてます。情報が少なすぎっす。
これは是が非でも協力してもらわなければ。
「あの! 国守さまからの指令というか、試練は、立ち向かわなければなりません」
うん。拒否るのはできないよね。するつもりもないけど。
「私だけでは難しい試練です。なのでできる範囲で構わないので、お知恵を貸していただければと思います」
そこでティティは頭を下げた。
試練をできるだけ楽にクリアするには、私だけでは無理だよ!
「もちろんだとも!! 私の持てる限りの知恵と力を貸そうじゃないか!」
ヒースが立ちあがって、いの一番に諾の返事をくれる。
「ありがとうございます!心強いです!」
「なんの! 当然のことだよ!」
ヒースって本当貴族らしくない。いい奴だよね。
「当然、私も、力になるわ」
ブリアがテーブルにのっていたティティの手をぎゅっと握り、頷いてくれる。
「そうして、早くノアを迎えにいきましょう」
「!」
そうだ。当初は英雄様に会うだけで、私の用事はすむ筈だった。
それだけならすぐに終わるはずだった。
けれど、国守さまの指令が加わった。
すぐに滞在を引き上げる事が出来なくなってしまった。
みんなの力を借りて、できるだけ早く事を解決しなくちゃいけない。
ノアにいつまでも寂しい思いをさせる訳にはいかないもんね。
「はい!」
ティティもブリアの手を握り返す。
「わかりました。私も微力ながら、力を貸しましょう。」
おっ。ルミエールまで快諾か。嬉しいね。権限ありそうだし、助かるね。
「ルミエールさままで。ありがとうございます」
ティティは深く頭を下げる。
「尊きお方の導きですからね」
だよねー。
私の為じゃないよねー。
わかってた。わかってたよー。
でもいいよ。1人よりも、2人、3人の力を合わせたほうがいいに決まってるもんね。
<我も手伝うぞ>
スヴァが、てしっとティティの足を叩く。
<忘れてないよ。頼りにしてる>
一番頼りにしてるよ、相棒。
<ふん>
そこで少し胸を張るスヴァ、可愛い。
うん。少し元気出て来たかな。
明日でアーリデアルトの森編終了予定。
本当か!?




