第200話 ノアへの説得
ノアを説得するしかない。
ティティの腕の中にいるノアは不安から涙を浮かべて、下唇を震わせている。
ティティはしゃがみこむとノアの肩を掴んだ。
「ノア」
「やっ」
ノアは聞きたくないと首を振った。
「ノア、今の国守さまのお話きいてただろう?」
それでもいやいやと首を振る。
ノアは4歳でも頭がいい。
これも精霊の祝福のせいなのか。
はたまたそういう子に精霊が祝福をするのか。
「ノア、もう苦しい思いをするのはいやだろう?」
「ねえねといれば、くるしくなんないも!」
「でも、これからもしかしたら、ねえねと離れることが出てくるかもしれない」
「や! ねえねとはなれるのはやっ!」
「うん。ねえねもずっとノアと一緒にいたいし、いるよ。でももし、もし離れることがあった場合に、ノアが元気をなくして、ねえねが探しに行く前に倒れたらって心配するの、ねえねつらいよ」
「ふえ」
ノアの瞳にぶわりと涙がもりあがる。
「万が一離れることがあって、ねえねが探しに行く間、ノアが元気でいてくれたら、ねえね、ノアを探すだけに集中できるよ」
「ふうぅぅぅ」
「それになにより、ノアが毎日元気に過ごせるようになって欲しいと思う。だからね、ちょっとの間、国守さまといてくれないかな」
「うー」
ノアはぼろぼろと涙を流す。
ぎゅっと両手を身体の脇で握って、一生懸命耐える姿を見るのはとてもつらい。
もういいよ。一緒にいようと言いたくなる。
けれど、ノアには長生きして欲しいのだ。
ノアが決断するのを待つ。
「わあった」
ノアは顔をぐしゃぐしゃにしながら、それでも頷いてくれた。
「ありがとう、ノア」
「ねえね~!!」
ノアはぎゅっとティティにしがみついた。
本当は離れたくない。離れたくないのだと。ひしひしと伝わってくる。
「どうやら納得したようだの」
「はい。国守さま、ノアのことをよろしくお願いします」
ノアを抱き上げながら、頭を下げる。
「まかせておけ。ちゃんと調整しておいてやる」
国守は力強く頷いた。
それに合わせゴールデンシープが進み出て、背中を見せる。
そこにノアをそっと乗せた。
「さあ、そろそろ帰えりゃ」
「はい、あ、待ってください」
もう少し、もう少しだけ一緒にいたい。
何か、何かないか。そうだ。
「あの、国守さまから貸してもらった、収納袋もこの場でお返しします」
そう言いつつ、ゆっくりと肩から外す。
「いや、それも持っておけ。我とのつながりにもなるからの」
「そ、そうですか。ありがとうございます」
これでもうここにいる理由がなくなってしまった。
「では、気を付けて行くがよい」
静かな声で国守さまが別れの宣告をする。
ビクリとノアの身体が揺れる。
「ねえね~! ねえね~!」
ノアは必死に手を伸ばす。
が、わかっているのか、ゴールデンシープの背中から降りようとはしない。
目に一杯涙を浮かべながらも耐えている。
「ノア、用事を済ませたら、迎えに来るからね! それまで国守さまのいう事をよく聞いてね!!」
俺が告げられるのはそれだけだ。
無力感が身体を襲う。
くそっ!
どうしようもねえ。
「ねえね!」
ノアはぼだぼたと涙を流しながらも、頷く。
「弟のことは心配するな。妾がしっかりと安定させておく。其方は西の地にいる2つの魂に会いにいけ。そして救ってやれ。その間に我は其方と小魔王の魂の救済方法も考えておいてやる」
「ええ!? それってどういうことでしょうか!?」
ちょっ! 国守さま! 別れ際にそんな意味深な言う?!
「国守さま、もっと詳しく!」
そう思えど、国守さまとゴールデンシープ、シルバーシープ、そしてノアの姿が小さくなっていく。
空間が閉じて行く。
「ねえね~!!」
ノアの叫びを最後に、ふつりと見えなくなった。
ティティとスヴァは静まり返ったアーリデアルトの森の中に佇んでいた。
「ノア‥‥‥」
ティティの目からぽろりと涙がこぼれた。
記念すべき200話目は、姉弟の別れになってしまいました。
偶然です。ノア、がんばれ~。




