第195話 国守さまと初対面 ティティとしてはね!
少し長めです。
「よく来たね」
国守さまは今は大きな真っ白い牛の姿だ。
国守さまはその時その時で違うお姿で現れる。一番かわいかったのは、白と黒のネコ科の動物で現れた時だ。マジで可愛かった。抱き上げて頬ですりすりしたかった。
もちろん、人の姿もお持ちだ。人の姿はどれも麗しい女人の姿が多い。
でも、私が好きなのは、今のお姿かなあ。
綺麗でいて、とても安心するのだ。
「ほほほ。そんなに褒めるでない」
国守さまは機嫌よさげに笑う。
その声色は軽やかで鈴を転がすような美声。
ブルコワさまに怒っていた時は地を這うような怖いお声だったけど、普段はずっと聞いていたいようなお声なのだ。
国守さまが男性なのか女性なのか未だに不明だ。
しかし気を付けないと。
この地だと、心の声も駄々洩れになっちゃうんだよねっ。さっきみたいにっ。
けど、気を付けようがないか。
考えようによっては、お話しなくても意思が通じるのは便利って思っておいたほうがいいかな。
「ふふ。お主は変わってないのう。嬉しく思うぞ」
大樹のすぐそばにどっしりと座ったまま、国守さまはこちらを見て、笑みを深める。
国守さまの横にはゴールデンシープ、シルバーシープが控えていた。うん。安定のアンニュイな表情だねっ。
あっと。いけない、いけない。
ちゃんと挨拶しないと。
「国守さま、お久しぶりです」
ノアの手を引きつつ、国守さまに近づくと片膝をついた。ノアも真似して両膝をつく。どうやら片膝が付けなかったらしい。可愛っ。
「うむ。久しいの。お主に再び会えたことが嬉しいぞ。また会えるとは思わなんだ」
その口ぶりからすると、自分が亡くなったこと自体知っていたようである。
当たり前といえば、当たり前だ。
魔王討伐は国をいや、大陸を挙げての一大イベントだ。
それをこの国を見守る国守さま知らないなんてありえない。
おそらく、飛ばしている目を通して討伐を見ていたに違いない。
ならば、助けてくれても思うかもしれないが、魔王を倒し、世界の均等を守るのはおそらく国守さまにとって最重要項目であるだろう。
それを危険にさらして自分を助ける、ましてや重要なパーツである魔王を助けるなどはできない相談だろう。
元魔王のスヴァから聞いて事情が分かっているティティは国守さまに思うところは何もない。
自分が勝手にやったことであり、よく何もしないで見守ってくれたなあと感謝したいくらいである。
「私もです。またお会いできてとても嬉しいです」
いや、マジで。会えるとは思わなかったもんよ。これで輪廻転生があるって実感しちゃったよ。
「くくく。それにしても、また随分と可愛い姿になったものだの。もちろん、前の姿も愛い姿だったがの」
男のジオルの姿を可愛いと言われるのは複雑な気持ちである。
が、国守様にとって人間は、みな子供のようなものだろうから、そこにひっかかっても仕方がない。
さらっと流すよっ。さらっとね。
「あはは。私もまさか女の子に生まれ変わるなんて思いませんでした」
正確には主人格である大本のティティルナが親に捨てられて絶望し、魂の奥底に引っ込んでしまった為、一つ前の前世であるジオルの人格が顔を出してしまったのであるが。
その絶望がなけれっば、ジオルの意識は浮上しなかった筈だ。
あのくそ親父!
ろくなもんじゃねえ!
「うむ。難儀よの。だが、それも魂の業かもしれぬな。なかなか平和には過ごせぬ定めの魂よ。その魂の先は妾でも見通せぬ」
「うわああ。そうなんですね! 国守さまでも、人の先ってわからないんですねえ」
「すべての人間の先が見えれば、妾の役目ももっと易かったであろうな」
「そうかもしれませんね。でも、先がわからないから、人生おもしろいって奴かと」
元魔王と魂を融合して運命共同体になるなんて思わなかったもんなあ。
本当、私の運命って、大きく変動し過ぎだと思う。
「って、国守さまは人じゃないから当てはまらないか?」
首を傾げる。
「ほほほ。ほんにお主の言動はいつも妾を楽しませる」
国守さまがコロコロと笑った。
あっと。ノアを紹介しないと。それにお礼もまだだし!
前世がらみの話はその後だ。
「あの、もうご存じかもしれませんが、弟のノアです」
ノアの背中に手を当てて、挨拶を促す。
「ねえねのおとうとの、ノアです!」
そこでぺこりとノアは頭を下げる。
うんうん。上出来でしょ。
「うむ。そなたもよう来たな。ゆるりとしていけ。ゆるりとな」
国守さまが目を細める。
よしこれで、ノアの紹介は終了だ。
次は、お礼お礼っと。
「国守さま。ゴルデバで領主さまとの会談でピンチになった時に、助けていただきありがとうございました」
ティティが親に捨てられ辿り着いた街、東の辺境の領都ゴルデバ。
その街は数年不作に喘いでいた。
その原因の情報を求めて、領主ブルコワが冒険者ギルドに依頼を出した。
それに、ティティが超有力な情報を提供した。
けれど、その情報が超有力かつ、具体的すぎたものだった為、犯人の一味と疑われたのである。
あわや捕まるところを助けてくれたのが、国守さまだった。
ティティは深々と頭を下げる。
それに倣って、手を繋いでいたノアもぺこりと頭をさげた。
「あいがとーごじゃりました!」
可愛いすぎる、うちの弟。
国守さまも溶けてもいいよっ。
「気にするな。せっかく生まれ変わった其方と会えなくなったら、寂しいのでな。つい介入してしまっただけのことよ」
いやいや、そのおかげで助かったのだから、国守様様である。
「助けていただいた、お礼とお土産を兼ねて、果物を沢山持って来ました」
ティティは亜空間から果物を入れた大きなカゴを取り出す。
「おお! ネクタールか! 好物である! その他にも色々あるな!」
シルバーシープが進み出でて、果物が入ったカゴを受け取ってくれた。
「喜んでもらえて、嬉しいです!」
さて、次はスヴァも紹介しないとな。
そう思って、ノアと反対側の隣にいるスヴァを見る。
ん?なんかすごい不機嫌そうな顔してるけど、なんでだ?
ここまでお読みいただき、いつもありがとうございます。
少しでも面白かったよっと、思っていただけましたら、どうかブクマ、評価をお願い致します!
書く励みになります~。