第193話 どろんっ
「んじゃ、今度こそ、森へ出発!」
ルミエールとヒースが満足のいく掃除道具を購入して来たのち。
アーリデアルトの森に無事に出発したのでした。
あんまり遅くなると、すぐに暗くなっちゃうからね。
さくさくと行かないと。
馬は宿に預け、徒歩で行く。
歩く順番は、先頭はヒース、次にルミエール、ノアと手を繋いだティティに、最後にブリアの順だ。
スヴァは相棒だから私のすぐそばにいるよ。
アーリデアルトの森は秋の訪れを告げるように、木々が紅葉に彩られていた。
日の光に輝いて、とてもきれいだ。木漏れ日が良い感じある。
森を散策するにはよい季節である。
そして歩く事しば。ティティは、前を行くルミエールに声をかけた。
「あのルミエールさま」
「なんですか?」
ちらりとこちらに目をむけるが、ルミエールはそのまま歩き続ける。
「アーリデアルトの森が別名なんと呼ばれているか知ってますか?」
「迷いの森、不可侵の森」
即答である。下調べばっちりのようである。
「はは。よくご存じなようで」
でも、実際迷子になった場合とかどうするかって話してないんだよね。
信じてないのか、ティティがいるから自分たちは入れる、国守さまにお会いできるって思ってるのか。
うーん。やっぱり、はぐれた時の待ち合わせ場所決めて置いたほうがいいねっ。
一番弾かれる確率高いの多分ルミエールだし。
「あの、ルミエールさま」
再度前を行くルミエールに話しかける。
「なんですか?」
「万が一、万が一ですよ、皆がそれぞれはぐれっちゃった時の待ち合わせ場所、決めておきませんか?」
ルミエールはそこではじめて立ち止まり、顎に手をやる。自然、他のみんなの足もとまる。
「それには賛成しますが、この森に来たのは初めてです。わかりやすい集合場所がどこにあるか私にはわかりかねます」
「それなら、こうしませんか?」
ティティが提案する。
これから向かう小さな祠まで行けて、その先弾かれたら、祠で待つ。祠までたどり着けなかったら、宿で待つ。これでどうよ!
「祠まで行けたら、道がわからなくても、頭に祠を思い浮かべれば、おそらく祠には辿り着ける筈です」
「なるほど」
ヒースとブリアが頷く。
「祠で待機になった場合は、待ってる間、祠の周辺にある薬草などはとっても大丈夫だと思いますよ」
そう付け加えると、3人の目がすごい輝いたよ。
「そうですか。それはいいですね!」
特にルミエールの目が。
うん。そこまで行けるといいね。
てな訳で、これで心置きなく進めるよ。
すぐに弾かれても恨みっこなしっすよ。
私にはどうにもできないからねっ。
「ノア、ねえねのてをぎゅっとしておく」
ノアが不安になったのか、ティティの手を両手でつかむ。
「大丈夫。ねえねも放さないから」
「うん!」
くわっ。弟の笑顔が尊いぞ!
「それでは進みますよ」
くらくらしているティティの耳に、冷静なルミエールの声。
ルミエールには、このノアの可愛さ攻撃は通じないらしい。
ふっ、まあいい。ノアの可愛さは姉の私がわかっていればいいもんねっ。
さ、行きますか。
そして歩く事しばし。
弾かれ脱落したのは、まずルミエールであった。
「ルミエール様!?」
いきなり、ルミエールがふっと消えた!
ノアも驚いて、目を見開いている。
「小さなレディ?!」
ティティの叫びに、急いでヒースが振り返った。
「小さなレディ! ルミエール様は!?」
「消えちゃった!ふっと目の前で消えちゃったの!」
ティティの後ろを歩いていたブリアも目を見開いて、呆然としている。
だよねっ。まさか、本当に目の前から消えるとは思わなかったよねっ。
びっくりしたなあ。もう。
弾かれるってこんな感じなのか。
初めて見たよ。
「私も、その瞬間見たかった」
ヒースがぼそりと呟く。
おいっ。不謹慎!
まあ、その気持ちはわかる。
って、思ったら、スヴァから前足パンチが脛に入った。
地味に痛い。
しかしこれは私が悪い。はい。私も不謹慎でした。
「おそらく森の入り口に戻ったんだと思います」
ルミエールは悪人ではないからね。
ルミエールは東の辺境領の領主の息子で、一度国守さまを怒らせる側であったことから、はじき出されてしまったのかもしれない。
国守さま、まだ怒ってるんだね。
「私も、そうなる可能性があるのか」
ヒースが神妙な顔で呟く。
「まずは祠まで行けるよう願いましょう」
そう言いながら、ブリアはヒースの肩を叩く。
が、顔は固い。
ヒースは顔色も少し悪いか。
なんと声をかければよいか。
「ねえね。こあい。ノア、ねえねとはなればなえになる?」
ノアが震えながら、縋りついてくる。
「大丈夫だよ。国守さまはノアが私の弟だって知ってるから、放したりしないさ」
「ほんとう?」
「うん」
多分ね。
「わ、私たちは?」
ヒースが縋りつくように尋ねて来る。
「‥‥‥さあ、先に進みましょうか」
ノアの手を引き、前を向く。
「ティティ!」
ヒースおもしろいっ。
そんな大げさな。別に殺される訳でないし。
ただ、森の外に出されるだけなんだから。
そんな絶望したっという声ださないでいいと思うよ。
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