第180話 どうしたらいいか。
「ノア‥‥」
宿のベッドで荒い息を吐くノアを見つけて呟く。
元々ノアは身体が丈夫な方ではなかった。
慣れない旅で疲れと砂地での遊びではしゃぎすぎたのかもしれない。
もっと考えて行動すべきだったと、ノアの看病をしながら、ティティは肩を落とす。
丈夫な子でも小さな子が旅をするのは、とても大変だ。
況してやノアはまだ4歳である。
「ティティもあまり身体は丈夫ではないわよね? もう少しノアが大きくなるまで、拠点を決めて冒険者として活動する方がよいのではないかしら」
ティティが座る椅子の後ろから、ブリアがそっと助言をする。
「やっぱり、そうなのでしょうか?」
それはもっともな意見で。
7歳のティティでも、夜は疲れてぐったりなのだ。
親がいるならともかく、頼れるのがチビの姉だけとなれば、ノアも気が張っていたのかもしれない。
それはそうだ。
守ってくれる親がいない。
それだけで十分な不安だったに違いない。
それに思いいたらなかった自分がなさけない。
なまじ前世のジオルが孤児だったのも、気づけなかった一因かもしれない。
これはブリアの意見も考慮に入れるべきだろう。
「それならば、この視察が終わったら、やはり私の街に拠点を儲けたらよろしいでしょう」
いつの間に入って来たのか、ルミエールがそう言う。
ルミエールにしたら、国守さまの愛し子が地元にいたら、それはラッキーだろう。
言う通りにするのは悔しいが、今のティティの知り合いが一番多いのはゴルデバ街なのは確かで。
「西の領都ブリストンに着いたら、考えてみます」
旅をして暮らすか。はたまた、ノアがある程度大きくなって旅に耐えられるくらいになるまで一か所に定住するか。
旅をするのは決まっている。だって、色々なところを見て回って、美味しいものを食べたいんだから!
難しい顔をしていたティティに不安になったのか、ノアがベッドの中から手を出して、ティティの袖をひっぱる。
「ねえね、熱をだしてごめんちゃい」
「謝ることなんてないよ! ねえねこそ、疲れてるの、苦しいの気づかなくてごめんね」
熱で潤んだ瞳で、ノアは懇願する。
「ねえね。おいてかないで。ノア、すぐにげんきになるから」
「おいてかないよ!」
「いなくならないで」
「いなくならないから安心して! ほらもう寝な。一緒に寝てあげるから」
ノアの横にティティがもぐりこむと、ぎゅっと抱き着いてきた。
それで安心したのか。
ノアは間もなくして眠りについた。
「後で様子を見に来るわね」
ブリアがそっと呟いて、ルミエールを促し部屋を出て行く。
それに頷き、ティティもそっと目を閉じる。
どうすればいいのか。
<今は考えずに、眠れ>
ふいの心話にベッドの足元に目を向けるとスヴァが丸くなっていた。
<まだ旅も始まったばかりだ。様子をみてもよいだろう>
<うん。そうする。ありがとう、スヴァ>
<いいから、眠れ>
照れ隠しのようなスヴァの台詞に、微かに笑うと目を閉じた。
それからしばらくして。
ふっとティティは目を覚ました。
真っ暗な中、手探りでノアの額を触る。
熱さましが聞いたのか、額も熱くなくなっていた。
呼吸も安定している。
「よかった」
それを確認して、ティティもまた眠りについた。
新たな問題を頭の隅に置きながら。
少しシリアスな回でした。