第178話 ハサラ~の砂地!
翌日。
いつもなら、朝早く宿を出て、一路わき目も振らずに、西へと出発するのである。
西とは言っても最終目的地である辺境伯領のブリストンではない。
まずは国守さまが住まう森、アーリデアルトの森に向かうのである。
アーリデアルトの森は西の辺境伯領に向かう途中、北のリスコウム連峰の中央部の麓にあるので、たいして遠回りにはならない。
それはおいておいて。
今日はまだ西には向かわない。この村ヨハネ村を観光するのだ!
昨日のパチパチクリン丼に引き続き、ヨハネ村でどうしても寄りたかったところがある。
が、その前に、下準備としてまずは目的のスポットで採れたものを売っている販売所へとティティたちは向かった。
この販売所は村の中にあって、すぐに見つかった。
迷わず入店。
そして見やすいように並べられた棚をのぞき込む。
「ねえね! きえいねえ!」
ノアがはしゃいだ声を上げる。
棚の上の浅い箱に並べられた、宝石のようなそれ。黄色、桃色、赤、青、緑と色とりどりなそれ。
大きさも大人の親指大のものから、子供の小指のさきくらいの小さなものまで。
バラエティー豊かにあった。
「うわあ。綺麗だな~」
値段もピンキリである。
最高級のものは、なんと魔石のような役割をするらしい。
それを使うと、明かりの燃料になったり、物を冷やす役割をしたりするらしい。
けれども、だいたいはアクセサリーとして愛用されるものが多いらしい。
宝石よりも安価であるからである。
今ティティたちが見ているのは、この村のはずれにあるハサラ砂地からとれる樹脂が固まったもの。
ハサラ砂地は昔は木々が生い茂っていた林だった。
そこの林には特殊な樹脂が取れる木々が植わっていて、その樹脂は固まると、それはそれは綺麗な黄金色の石になり、高い魔力が詰まった魔石として村の資金源になっていた。
だがある日、何者かがその林を傷つけ、木々をすべて切り倒して、砂地に変えてしまったらしい。
誰だろうね。そんな馬鹿な事をする奴は。
村人はなんとか残った新木を増やしつつ、大事に育ている最中らしいのだが、成長が遅くなかなか育たない。
村としては一番の収入源を失ってしまい悲観にくれていたが、ある時、その砂地から小さいながらも綺麗な石が取れるようになった。黄金の石はとれなくなったが、何かとまじりあってできたのか、小さな色とりどりの石がとれるようになった。
とはいっても、形も歪なもの、本当に小さなものが多く、村を支えるような資源にはならない。
何より砂の中から石を探すのが大変らしいのだ。
それに魔石に変わるような、また宝石のような石は滅多に採れない。
そこで村長は考えた、砂地を村おこしに使おうと。
この村に立ち寄った旅人に、遊びがてら石探しをしてもらおうと。そして見つかったら、それを自分のアクセサリーとして加工してもらえば、村にも金が落ちると。
採れなくて残念だった場合、ハサラ石販売所で、アクセサリーを旅の記念で買って貰えばよいと考えた。
これがなかなかどうして、ヒットしたのである。
大ヒットではないものの、評判を呼んで、少し名の知れた観光スポットになっているのだ。
とは言いつつも、ハサラ石目当てで来てくれる客は少なく、あくまで旅の途中のお楽しみくらいな流行りらしい。
だが、この話をマージから聞いた時、なにそれすごい楽しそう!と、ティティは胸をわくわくさせていたのである。
絶対行きたい! と、固く拳を振り上げたのは記憶に新しい。
「ノア! これから宝さがしに行こう!」
「たからさがし?」
「そうだよ! ここに並んでいるような石を探すんだ! 見つけたら、ノアのものだよ。どう? 楽しそうでしょ?」
「うん! ノアさがす! そしたら、ねえねにあげるねっ!」
なんて可愛いことをいうのか。うちの弟は!
「私もノアに似合う石を見つけてあげる!」
「わあーい!」
2人でにこにこ笑い合う。
横で同じように石を見ていたブリアが呟く。
「私も頑張って探そうかしら?」
おっ! ブリアも乗り気だね。やはり女子だね。
「これは婦女子に喜ばれそうなアイテムだね! 私もがんばって探さねば! 誰に贈ろうか迷ってしまうなあ! いや、何個でも見つければよいか!」
うん。ヒース、それはブリアの前で、言わない方がいいのでは。
ほら睨んでるよ。睨んでるよう。
ヒース、まったく気づいてない。
ある意味幸せだ。
「ふふ」
人それぞれ思惑違うけど、みんなにこにこ、気分が上がるね!
「そろそろ行きますよ。時間がないですからね」
ほわんとしているところに、タイムキーパールミエールの声。
彼は全然心躍らないらしい。
お貴族様は本物の宝石が買えるもんね。
スヴァ、あくびすんのやめれ!
宝探しって楽しそうですね。