第177話 クリンうまし!
そしてやって来ましたヨハネ村。
人口は150人弱。集落と呼んでいいほどの小さな村である。
けれど、ここには知る人ぞ知る名物料理があるのだ。
それはパチパチクリン丼である。
クリンの木は高木でイガイガの殻斗の中に茶色い実を付ける。
この茶色い皮をを剥くと黄色みた実が出て来る。
ふかしたり、焼いたりするだけでも甘みが出て、美味しい実である。
この実とキノコを具にして米と炊いたのがパチパチクリン丼である。
なんだ、ただの混ぜご飯かと言う勿れ。
その店独自、食べる時にかけるふりかけがみそなのだ。
それを振りかけるとあら不思議。
そのふりかけがかかったクリンを口に入れると、パチパチと面白い刺激が来るらしい。
それが何とも不思議で、その上美味しいらしい。
最初はびっくりするが、刺激がくせになるらしいのだ。
なおこの情報は冒険者ギルドのマージからの耳寄り情報である。
お礼に串焼きを進呈したのはいう間でもない。
ああ。どんな味、刺激なのか。
パチパチクリン丼の味を想像している間に、ヨハネ村に到着した。
いつもより早めに村へと到着。その名物を振舞っている店に寄る為である。少し馬を早く走らされた為、尻が痛い。
が、パチパチクリン丼の為だ。文句などない。
早々に宿を決めると、すぐに店へと出発である。早めの夕食、気にならないし。
ティティはノアの手を引き、店へと向かった。その後ろを大人3人が付いて来る。
なお、店の場所は宿屋で聞いて確認済みである。
私に抜かりはないのである。
「いらっしゃいませ~」
夕食には少し早い時間だからか、5人と1匹はスムーズに目的の店で席をゲッドすることが出来た。
店の名前はオロロ亭。
オロロとは芋の一種で、すりおろすとねばねばする栄養満点の芋である。
ただし、かなり長い芋なので折らずに掘り起こすのは忍耐と丁寧さが試される。
店にその名前がついているということは、元はオロロ料理が一押しの店だったのかもしれない。
気になるところだが、余所見はしない。
今日はマージおすすめのパチパチクリン丼ただ一択である。
ティティとノアとスヴァはパチパチクリン丼、大人3人はそれと一緒に副菜も頼んでいた。
そうだね。大人は足りないかもしれないもんね。
そして待つ事しばし。
出て来たのは、待ちに待ったパチパチクリン丼である。
店員は丼を配ると、スプーンでそれぞれの丼に何やら粉を振りかけた。
「おお~!」
思わず、興奮の声が漏れる。
かけたのは、パチパチなる不思議粉か。
食べる直前でかけるとは、持続時間が短いのかもしれない。
早速いただくとしよう。
「ノア、さあ、食べよう!」
「うん!」
「「いただきます!」」
ノアとともに、早速どんぶりを持って、スプーンでいただく。
勿論、一口目にすくうはきのこではなくクリンとほっこりご飯である。
見たところ絶妙に米にたれが染みて、とてもうまそうである。
ティティは迷わず、スプーンを口に含んだ。
刹那、ぱちっと微かな刺激。
「ほわっ!」
それとともに、甘いたれとほっこりしたクリンの味が口に広がる。
口の中が、色々な刺激でいっぱいだ。
「何これおもしろっ」
「ねえね! おくちがパチンってなった! おいちっ!」
ノアも満面の笑みだ。
<うむ。初めて感じる刺激だな>
テーブルの下にいるスヴァはパチパチクリン丼を前に、何やら考えている。
ほっとこう。
「美味しいね! あったかいうちに食べよう!」
「ん!」
ちらりと大人たちのほうに目を向ける。
ヒースは優雅に一口口に含むと、目を見開いた。
「おおっ! 口のなかにパッションを感じる! 作った者のパッションが!」
うん。訳わかんないけど、美味しそうに食べてるから放っておこう。
ブリアを見ると、黙々と食べている顔が緩んでる。
うんうん。美味しいよね。
ルミエールは、表情変わんないけど、ご飯を運ぶスプーンが早い。
そうだね。美味しいものは早く美味しいうちにすべてを平らげるのだ!
ティティは口にはじける刺激を感じながら、パチパチクリン丼を完食したのだった。
「「ごちそうさまでした」」
丼との真剣勝負(笑)を終えて、周りを見ると、大人3人も満足そうな顔をしていた。
よかったよかった。
約1名、顔にあまり出してないけど、私にはわかるよっ!
それに、全部綺麗に平らげていたのだから、文句は認めない。
本当は少しここで休憩した後、村を見て回りたかったが、ここでわがままを言ったら、明日のメインイベントがなくなってしまう可能性がある。
我慢である。
「ノア。お腹いっぱいになったかな?」
「ん! おいちかった!」
よし。弟も満足、私も満足。
これでよしとしよう。
さあ、明日に備えて今日は早寝だ!
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