第162話 午後は買い物だなっ
「ふう。美味しかったなあ。んじゃ、午後は買い物だな」
店を出て、ノアは大丈夫かと手を繋いだ先を見下ろすと、目をしきりにこすっている。
「ノア、まだ歩けるか?」
「ん。だあいじょうぶ」
そう返事を返すも、もう瞼が綴じそうである。
午前中は沢山歩いたし、昼ご飯を食べてお腹いっぱいになって眠くなってしまったのだろう。
ノアはまだ4歳。お昼寝が必要なお子様である。
旅をするのに、長時間の移動は厳しいかもしれない。
西の辺境に行くにはかなり時間がかかりそうである。
まあ、急ぐ旅でもないのでゆっくり行くか。
「ノア、だいじょぶ! かいものしゅる!」
ティティが黙ってしまったのに、不安になったのか、ノアは無理やり目を開けて、叫んだ。
「無理しなくていいよ。まだノアはちっちゃいんだからな」
「‥‥‥ノアをおいていったりしない?」
「!」
ああ、そうか。くそ親父に捨てられたのだが、ノアはティティが自分を置いて行ってしまったと思ってるのか。
誤解を解いてやりたいが、あれはノアの父親でもある。
悪くいうのは忍びない。
「もう、置いていったりしないから大丈夫だ」
「ほんと?」
ティティはしゃがんで、ノアに視線を合わせてしっかり頷いてやる。
「本当だ」
「うん!」
ほっとしたように、ティティに抱き着く。
「でも、私といると母さんや兄さんたちに会えないぞ。いいのか?」
「それはしょんぼりだけど、ねえねとはなれるのはもっと、や、なの!」
なぜにそんなにティティを好いてくれているのか不明だが、そこまで言ってくれる弟を突っぱねるつもりはない。
「そっか。なら一緒に旅をしような」
「うん!」
「楽しいことを一杯しよう」
「うんうん!」
「じゃあ、それの第一歩だ、今日はお貴族様御用達の果物屋さんに行くぞ」
そこでノアに背を向けてすっとしゃがむ。
「ねえね?」
「少し遠いからな。おぶってやる。その間、寝な」
「ノア、あるけるよ?」
「わかってる。でも今日はたくさん歩いたから、少しねえねの背中で休憩しな」
「うん!」
やはり眠かったのだろう、ノアは背中に飛び乗ってきた。
おっと。この体ではちとつらいぞ。できればそっとのって欲しかった。
「よっと」
ティティは立ち上がると、歩き出した。
<国守への土産か>
<ああ、そうだ。国守さまには今回色々助けてもらったからな。上等なものを持って行きたいんだ>
ゴールデンシープやシルバーシープが好んでいた果物、ネクタールである。どうせならいっぱい食べてもらいたいので、お金の許す限り沢山買いたい。
<質より量のほうがいいか?>
自分だったら、多少質が落ちても量を食べたい。
<質も量もあった方がいいだろう>
<そりゃそうだけど! 無茶言うなよ! こちとら、7歳のガキなんだから!>
ティティは少し考えて、下町広場に足を向けた。
あればめっけものである。
量も質も両方に挑戦してみようではないか。
そう勇んで、来てみたものの。
30分後。ティティはがっくり肩を落とした。
その肩にはすっかり熟睡したノア柔らかい寝息がしている。
ネクタール、下町の露店にはやはりなかった。
「そう上手くはいかないよな」
仕方ない。少なくても質で勝負だ。
ノアを軽く背負いなおすと、ティティは貴族街に足を向けた。
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