第161話 旨いものを食べると幸せだあ
「ねえね、お腹空いた」
タグカードを書き換えてもらって、冒険者ギルドを出た後、ノアがティティのそでをつくつくと引っ張った。
<我もだ>
隣を歩くスヴァも便乗してくる。
「そうだね。結構歩いたしね、ご飯を食べようか」
「わーい!」
その後ノアの服や靴など買わねば。できれば市場も見たい。
ならば、昼ご飯は近場で済ませよう。
と、なれば、カミオおすすめの食堂である。
冒険者ギルドから徒歩ですぐ。
お鍋が冷めない距離がありがたい。
「いらっしゃい! 空いてる席にどーぞ!」
食堂に入ると、昼時を少し過ぎているのに、混みあっていた。
きょろりと見回すと、出入り口のすぐ近くのテーブルが空いていたのでそこに座る。
メニューはわからない。
こういう時は、これだ。
注文を聞きに来たお姉さんにすかさず頼む。
「本日のおおすすめを3つ!1つは弟の分なので、少し少なめで!」
「3つ? 2つではないの?」
お姉さんが首を傾げる。
「3つで! 1つは私の相棒の分なので」
足元を指さしながら、スヴァの皿を差し出す。
「あ、お皿はちゃんと彼専用のものに移し替えますから、ご心配なく」
「ま、用意がいいわね、それならそのお皿をかして。すぐに持ってくるわ」
お姉さんはウインクして厨房へと戻っていった。
今日はカミオと来た時と違うお姉さんだ。どちらにしても美人である。この街美人さんが多いな。
「おすすめ、楽しみだね、何が出て来るかな」
「うん、ノアもたのしみ」
「そういえば、ノアは嫌いなもの、食べられないものってある?」
「んーわかんない」
「だね」
娘を捨てるぐらいの超貧乏な家だったから、好き嫌いなど言ってられなかったから、気にしてなかっし、ぶっちゃけ腹が膨れればまずくても食べてたよな。
「よし! これからは美味しいものたくさん食べさせてやるからね」
「うん!」
にこにこと笑うノア、マジ天使だ。
このまま大きくなれ、ノア。
<これがブラコンという奴か>
あんだと! とすごんだところにご飯がやってきた。
「お待たせ~!今日は豚のトロトロ煮よ」
そう言ってテーブルに置かれたのは、ワンプレート。そこには今お姉さんが言ったテラリと光った豚の煮込み、そこに添えられた温野菜、こんもり盛られたご飯だ。
後は小さめの椀に野菜がうっすら入ったスープ。
「わああ、旨そう!!」
思わずよだれが垂れそうである。
ノアも視線が釘付けである。
「ノア、食べていいぞ!」
「うん!」
ノアは許しがでるや否や、スプーンを持って、豚をすくって口に運んだ。
ノアの分だけ、食べやすいように適当な大きさに切られていた。
きっと気を使ってくれたのだろう。
「ねえね! おいち!」
目を輝かせて報告するノア。
本当に美味しいようで、幸せそうだ。
「よかったな。いっぱい食べろ!」
「ん!」
ノアは返事をするいとまがないほど、懸命にスプーンを口に運んでいる。
これは期待できる。
<スヴァはどうだ?>
<うむ。美味だ>
お姉さんが置いてくれた皿からスヴァも一口食べた後、皿に顔を突っ込むようにして食べている。
お気に召したらしい。
「私も食べるか」
ティティはスプーンを持って、角煮にスプーンを当てる。
すると、すっとスプーンが何の抵抗もなく、角煮に入って、一口が簡単に切り取れた。
それをはむりと口に入れる。
「んん~~!んまい!!」
口の中に入った途端、ぼぐれて溶ける肉。塩と酒のシンプルな味付けも絶妙である。
肉のうまみをよく引き出している。
「これは肉を米に乗せて食べたら」
大きな口をあけて、またあむり。
「ほわ!」
なんとも言い難いうまさだ。肉汁が米にしみて、まさに至高の味である。
これは米にしおたダレだけで、何杯でも行けそうだ。
もう言葉はいらない。
ティティは一心不乱に角煮、米、角煮、米、ときどきスープを食べた、食べきった。
「ふう。美味しかったあ!」
「ノアも! ノアも!」
<うむ>
2人と1匹が満足で、最高である。
この街を出る時に是非とも、ここの料理を持って行きたい。できれば大量に。
そういえば、旅に出る際に、市場で食材を大量に買いたいな。
亜空間があるから、腐らないし、持ち運ぶのに荷物になることはない。
今日、このまま買って帰りたいが、大量に買った荷物を、今もっている鞄に次々に入れていったら、流石に収納袋とバレるだろう。
それは避けたい。
狙われ、攫われ、売られてしまう。
収納袋も、ティティも、ノアも。スヴァはまあ大丈夫だろう。
<おい>
お、つっこみどうも。中々人間世界に馴染んてきてるスヴァである。
<しかし、お主の心配もわかる。ヒースの屋敷に届けてもらえばいいのではないか? さすれば、怪しまれる事もあるまい>
<だな。ただ、それには予めヒースさんの許可を取らないとな>
じゃあ、今日はノアの服を買っただけで帰るか。
それだと、時間がもったいないな。
「うむ」
ティティは一瞬考え込んだがすぐに、ぽんと手を打った。
「よし!帰り道、あそこに寄ろう。お土産を買わなければならないからな」
豚の角煮、うまいっす。