第160話 やったぜ!!
「弱々だな」
今ティティが寝かされているのはギルド長の部屋のソファだ。
気づいたら、ここにいた。
「ねえね、だいじょぶ?」
ノアが涙をうるうると浮かべて心配そうに顔を覗き込んでいる。
「大丈夫だよ」
頭に乗っていたタオルを片手で押さえつつ、起き上がって座り直す。
ノアはティティの横にちょこりと座って、ぺったりとくっつく。はあ、癒しである。だがそれはそれ、先程失礼な台詞を言い放った人物を睨む。この部屋の主、カシミールである。
「ですよ! まだ、冒険者になったばかりですし! 戦闘なんてできません!」
「だな。だが、どのくらいやれるか見ておきたくてな」
「なんでですか?」
「それはだな、お前をランクアップさせるか迷ってるからだ」
「は?」
「本来なら、色々経験を積んでからランクを上げるんだが、今回お前は植物スライムの駆除の件で、この地に大いに貢献しただろう。だから、冒険者ギルドとしてもそれに報いるのに報酬だけでなく、ランクも上げるかという話が出てな。Eランクに上がったら、金になる依頼も増えるからな」
「マジですか?! 嬉しいです! ぜひにお願いします!」
やっぱ、そうなったか。嬉しいぜ!
Fランクは本当しょぼい依頼しかないのだ。ランクが上がれるならぜひにお願いしたい。
「だが、ここで上げて、おまえにあっさり死なれちゃ、本末転倒だろう。だから、どのくらいお前が身を守るすべがあるのか見てみたかったんだが、全くだめだな」
「そんな!」
「さてどうするか」
カシミールがソファに座って顎を撫でる。
「最初にそう言ってくれれば、もっと気合いれたのに! 不意打ちなんてひどいですよ」
「戦いは、突然起こるもんだ」
「ぐっ! それはそうですが、そもそも私はテイマーで自分で戦うのではなく、テイムした魔物や動物に代わりに戦ってもらうんですよ」
「その代わりに戦うのは、そこにちんまり座っている子犬か?」
「スヴァです! スヴァは強いんですよ!」
「本当か? そうは見えないが」
くぅ!スヴァを馬鹿にされるのは悔しい。
これは見せつけてやらねばなるまい。それにEランクには上がりたいのだ。
<スヴァ!おまえちょっと威嚇してやれよ! さっきみたいに>
<なぜ?>
<おまえ、ちんまい奴だと馬鹿にされたんだぞ!>
<確かに今の我は小さいからな。正しい見方だろう>
<そのうえ、よわっちいと思われてんだぞ!>
<思う者には思わせておけばよい>
<お前、無駄に心が広いな!? いいからギルド長を威圧してみろよ、元魔王様の威厳で! じゃないとEランクにあげれないだろ!>
<やれやれ最初からそう言えばよいのに>
<うっさいわ! あ、魔力は使うなよ!>
<了解だ>
スヴァはすっと立ち上がると、とことことギルド長の足元に近づいた。
「なんだ? かみつく気か?」
そこで、スヴァの圧が放たれた。
「むう!」
ぎりっとギルド長の顔が変わった。
はっはあ! ざまあみろ。てか、怖すぎるよ。俺もちびりそうだ。
「ねえね、こわいー!」
ノアはティティにしがみついて震えている。
<スヴァ! もういい!>
刹那、すっと威圧が引く。
<ふう。流石元魔王さまだな>
<ふん>
スヴァは、とことことまたティティの足元に戻り、伏せた。
「どうです? スヴァはすごいでしょ」
「確かにな、食い殺されると思ったわ。こやつただの魔物じゃないな」
ぎくり。
「あはは。そ、そうですか?」
「ああ、歴戦の騎士のような殺気だったぞ」
騎士じゃなくて最恐の魔王様でした。
「大丈夫ですよ! 私がちゃんと手綱を握ってますからね。今のも私が頼んでやってもらったんですから」
「うむ。ちゃんと制御できているのか。それはそれでお前もすごいな」
そこで、カシミールはしばらく考えてから、頷いた。
「よかろう。お前はてんで弱っちいが、スヴァがいれば、ある程度の防御は可能だろうからな。お前をEランクに昇格する」
「やったああああ!!」
ティティは両手を挙げて喜んだ。
「ったあああ!」
ノアもまねて、万歳だ。
うん。今回色々あったけど、結果的にすべていい方向にむかったんじゃないか。
終わりよければすべてよしってな、よし。冒険者ギルドにも顔出したし、後はノアの買い物をしてヒースの屋敷に帰ろう。
1月足らずでEランクかあ。ラッキー!
ランクアップ!!