第156話 また行くの!?
「がはは! 待っておれ! すぐに持ってくる」
デルコは店の奥へと引っ込むとすぐに、戻ってきた。
「ほれ、見てみろ」
「うわああ」
手に渡されたそれは、まさにティティの望む形の水筒であった。
薄い円盤のような形で、腰に沿うように全体的に内側に少し丸みがついている。
そして何と言っても、注ぎ口兼、飲み口が秀逸である。
「すごいよ! デルおじ! らせん状に溝を付けてピタッと蓋が閉まるようになってる! これ水入れてももれないんじゃない?」
「あたりまえだ! 洩れたら使い物にならんだろうが」
「うわあ。それにこの鉄の水筒を包んでるカバー、何かの魔物の皮? 滑りがいいね」
「ああ、それはピータイルの皮じゃ。水辺に住む魔物で、その皮は、熱に強いし、ある程度保温効果もあるぞ」
「えっ!じゃあ、熱した水筒を包んで持ち歩けて、なおかつある程度温かさを保ってくれるの? 完璧じゃないか!」
「がははは! もっと褒めろ!」
「すごいよ! デルおじ!」
そんな2人のやり取りにノアが割って入った。
「す、すごい! デルおじちゃ!!」
わからないながらも、ティティがデルコをほめているのだけわかったらしく、自分も便乗したらしい。
「お前にも、わしのすごさがわかるのか?」
デルコがノアの顔を覗き込む。
「ねえねが褒めてたから! だからおじちゃ、すごいの!」
「そうか、そうか。ありがとな」
デルコはくしゃくしゃと少し乱暴にノアの頭を撫でた。
「えへへ」
ノアは嬉しそうに、ティティを見上げた。
男の人にこうして頭を撫でられるの、ノアは初めてかもしんないな。
「デルおじ! ありがと!」
「おう! まあ、武器とはちと違うが、まあ、色々新しい発見もあったし楽しかったぜ!」
いや、礼はノアに優しくしてくれたことに対してなんだけど、まあいいか。
「その、水筒はいくらかな? 今日貰っていってもいい?」
「ああ、金は要らん。その代わり、商業ギルドに付き合え」
「え」
いやだ。またあのベルナルディに会わねばならんのか。
「この前のは仮の申請だったからな。今日この足で、行くぞ」
「この水筒は、デルコだけで登録してよ。私はこの現物だけで十分だからさ」
「だめじゃ。お前のアイデアで生まれた品だ。責任を持て」
「う。私、もう少ししたら、この街を出るからその準備もあるし、また今度で」
「街を出て行くのか?」
デルコが表情を改め、尋ねる。
勢いで告げてしまったが、よい機会だったかもしれない。
「うん。ほら、この街、私の生まれた村からも人が来るかもしれないから、遠くに行こうと思って」
くそ親父には絶対会いたくないし、私が生きていると村に知れたら何かと面倒である。
何かあれば、領主さんが助けてくれるとは思うけど、できるだけお世話になりたくない。
「そうか‥、またここには来るんだろう?」
「うん。この街の人にはみんな優しいし、お世話になったから会いに来るよ」
「そうか! そんときには、ここにも寄れよ!」
「もちろんだよ!」
「よし! しかしならよ、余計に商業ギルドに行ったほうがいいぜ」
「なんで?」
「ほら、この坊主、身分証がないだろう?」
「あ」
身分証がなくても、旅はできるが、引き換えに、街に入る時に入場料が取られる。
「冒険者ギルドは7歳からしか登録できないが、商業ギルドには年齢の制限はない」
「年間費は払わにゃならんが、旅をするんなら、入場料をいちいち払うよりも安いだろ」
そっか。身分証か。すっかりそのことを忘れてたよ。
「じゃ、そういうことで、これから商業ギルドで、いいな」
デルコは決まったとばかりに、ノアを抱き上げた。
「わあい!!」
最初の怖がりがうそのように、抱き上げられたノアは、キャッキャと楽しそうである。
「ほら、行くぞ」
これでは行かないとはいえない。
「わかった」
観念していくしかない。
<スヴァ、何かあったら助言頼むぞ>
足元にいるスヴァにそっと呟く。
<気が向いたらな>
「なんだよそれ!」
「ティ! 何やってんじゃ早くしろ!」
扉を開けたまま、デルコが不機嫌に叫んだ。
「ごめん! 今行く!」
ティティは急いで後を追った。
くそ! 私の味方はいないのか!
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