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第153話 人間お腹が膨れたら

 メイドさんはすごく優秀ですぐに、食事を用意してくれた。

 今、ティティは自室にと割り当てられた客間のソファに座って、テーブルに所狭しと並べられた食事を手を休めずに食べている。

 とにかくまずは食事である。

 メイドに知らせを聞いたのだろう、ティティの身体を心配して駆けつけてくれたヒースとブリアに一言断りを入れた後、ティティは黙々と食べ続けた。

 そしてもう入らない、いや、デザートなら入るかというところで、やっと少し猶予ができた。

「ふう」

 メイドさんが入れてくれた紅茶を一口飲んで、やっと一息だ。

 今はめまいも治まり、だるさも少し抜けた気がする。しかし、血を大量に流したようなだるさは健在だ。うーん。聖力がないと、こんなに体調が悪くなるのか、覚えておこう。

「小さなレディ? もう話ができるかな?」

 ヒースが遠慮しつつも、ティティに声をかけた。

「あ、はい。すいません。大丈夫です」

 と、言いつつ、目の前に置かれたパンケーキが気になって仕方がない。

 それにヒースは苦笑する。

「食べながらでいいよ。それで、身体は大丈夫かい?」

「今は、なんとか」

 ヒースのお許しが出たので、たっぷりのジャムを付けながら、パンケーキを頬張る。

 おいひぃ。

「驚いたよ。いきなり倒れるから。私の為に、小さなレディに何かあったらと思うと、全身が凍り付いたよ」

 ちゃんと飲み込んでから、返事をするぞ。よし、口はカラだよ。

「驚かせて申し訳ありません。ただどうしても聖素の感じをヒースさんに掴んで欲しくて。もう少しもう少しと思ってたら、意識が飛んでしまったようです」

「そうか。私が不甲斐ないばかりに、小さなレディに無理をさせてしまった。すまない」

 ヒースが頭を下げる。もう何度頭を下げさせてしまっただろう。

「謝らないでください! こちらこそ、ご心配おかけして申し訳ありません。それより、聖素は取り込めそうですか? 聖力循環はできそうでしょうか?」

 落ち込みそうなヒースの気をそらそうと話を変える。

 そうだよ。私も頑張ったんだ、その成果が知りたい。

「聖力の感触は十分掴めた」

「そうですか! 聖素の感触もわかりましたか?」

「すまない‥‥‥。それはまだ」

「そうですか」

 うーん。やっぱりそう簡単には行かないのか。

 すっごく頑張ったのにな。

「だが、今回はいつも感じていた聖力を、より詳細に感じる事ができたよ」

「どういうことでしょう?」

「小さなレディは、無意識に聖力を使っているからか、聖力が完全に練れていないんだ。うーんなんというか、力にばらつきがあるというか。力が一つにまとまっていなくて、小さな力の粒が残ってしまっているというか」

「そうなんですか?」

 まあ、私は魔法士でもないし、きっと魔力もそうなんだろうな。やっぱ訓練しないとダメってことだな。

「力を使う場合、それは無駄な消費につながるから、忌避すべき事なんだが、それが今回よいヒントになったと思う」

「どういうことですか?」

「つまり、その粒粒がおそらく聖素のかけらなんだろうってことさ」

「!」

「小さなレディが倒れるまで聖力を使ったことは無駄にはならなかったよ。いいヒントを貰えたと思う」

「よかった!」

 やったよ! 私! 頑張った!

「聖素を掴むまで、まだ時間が必要かもしれないが、それでも一歩前進した。ありがとう、小さなレディ」

 ヒースが力強く頷いてくれた。

「よかったあ!!」

 これ以上は方法が思いつかなかった。これでダメなら、どうしようかと思っていたのだ。

 そこで、ヒースは居住まいを正すと、頭を深々と下げた。

「本当にありがとう。倒れるまで力を使ってくれて」

「頭をあげてください! すごいよくしてもらってるんですから、当然ですよ!」

 本当、ご飯も、デザートもたらふく食べさせてもらってるんだから。それに弟まで面倒見てもらってる。

「いや、小さなレディが示してくれた希望は、我々には大きな運命への可能性だ。短命という運命から逃れる為のね」

「本当よ。ありがとう」

 ヒースの隣に座るブリアも大きく頷き、頭を下げる。

「ブリアさんまでやめてください! 私も随分お2人に助けてもらっているんですから! そうだ! 感謝は食事の追加でお願いしていいですか?」

「まだ食べるのかい」

 ヒースが驚いて尋ねる。

「今はお腹がいっぱいです。また後でという意味です。あ、でもこのパンケーキは全部いただきますよ。でも、聖力がカラカラになったら、エネルギーが足りないみたいで、補給しないとダメみたいです。とにかく体がだるくて」

 元々燃費が悪い身体である。食べられるだけ食べないと回復しない。

「ブリアさん、申し訳ないのですが、今日はブリアさんにさっきの試みをするのは無理です。この体に聖力が満ちるまで待ってもらえないでしょうか?」

「それは構わないわ! それより、私にもしてもらえるの!?」

「え? もちろんそのつもりですけど?」

 なんで? ヒースにやって、ブリアにやらないと言う選択肢はない。

「だって、倒れたのよ。また倒れるかもしれないわ」

「それでもかまいません。ブリアさんにも是非とも聖素の感触を掴んで欲しいですから!」

 ヒースのいう粒粒の感触を掴んで欲しい。

「ありがとう。感謝するわ」

 またもブリアが深々と頭をさげた。

「もう! それはやめてくださいって! でも、ヒースさんには食費代がかなりかかってしまいますね。それはお願いしてもいいですか?」

「任せて! ヒースに文句は言わせないから」

「ブリアが返事をするのかい!? それに私の扱いがひどすぎるよ!?」

「あははは」

 よかった。いつもの2人に戻ったみたいだ。

 なんだかほっとして眠くなってきた。

「すいません。お腹いっぱいになったら、眠くなってしまいました。失礼して休んでもいいですか?」

「もちろんだとも、お休みレディ」

 そのヒースの言葉に、ティティの重い瞼は完全に閉じた。

 ああ、ベッドに行かなきゃ、でもこのソファも気持ちいいんだよね。

 ここで、寝てもいいかな。いいよね。おやすみなさい。

少し前進かな?

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