第151話 ぷつん
「まずはヒースさんからでいいですかね」
「ああ、もちろん」
場所はカレドニア家の裏庭。そこにヒースとティティが、向かい合うようにして立つ。ブリアは2人から少し離れて見守っている。周囲には綺麗に手入れされた花壇があり、その外側には高い木が屋敷の壁に沿うように立ち並んでいる。うんうん。少し少ないけど、花有り、木々も元気である。
いいね。
「失礼します」
いつものようにヒースの両手をとって目を瞑る。
「最初は少しづつ、徐々に増やしていきます。苦しいとかあったら、言ってくださいね」
「了解した」
最初の頃は人の体内に聖力を入れるのに、抵抗があった。
痛みや吐き気など、不調がでるのではないかと。
魔力を他人の体内にいれると反発があると聞いていたからである。
それが全くなかった。逆に身体が調子がいいくらいだそうだ。
聖力はやはり癒しの力なのかもしれない。
だから聖力を大量に流し込んでも大丈夫だろうと、この方法に踏み切ったのだ。
「じゃあ、行きますね」
<スヴァもいいか?>
足元にいるスヴァにも確認をとる。
<ああ>
スヴァまでティティに影響しないことを祈りたい。
「行きます」
「お願いする」
そうして、ティティは、聖力を動かす。
目を閉じるとすぐに感じる。
ティティの体内には2つの道がある。
1つは魔力が通る道。
もう一つは聖力が巡る道。
相対する力なのに、喧嘩することなく、2つの力はティティの体内を周っている。
その1つ、聖力に意識を集中する。
聖力を集める。
両腕に、両手に、両の指先に。更にその先、ヒースの両の指先、両手に、両腕へと。
体中の聖力を集中させていく。最初は細く、徐々に聖力を強める。
「どうですか?」
「ああ、身体全体にレディの聖力が巡っている、すごいなすごい量だ」
ヒースの身体に変調は見られないようだ。
「どうですか。何か掴めそうですか?」
「ああ、何かそう、身体の周りに優しいとてもやさしいものを感じる」
何かを掴みかけているだろうか。それなら。
「もう少し、行きますよ!」
かなり、しんどいが、ここで掴んで欲しい!
「ああ!!」
ヒースが短く叫んだ。
目を開けてみると、ヒースの身体が微かに光っている。どうやら、身体からティティが流し込んだ聖力が漏れているようだ。
「ヒースさん、私の聖力を使って、聖素を引き込めませんか?」
「やってみる!」
ヒースの長めの髪がまるで風に吹かれたように舞っている。
<ティティ! もうやめろ!>
スヴァがストップをかける。
「もう少し!」
ここでやめる訳にはいかんだろっ!
せっかくヒースが聖素を掴みかけてるのだ。
ああ、でも。くそ! もう限界が近い。いや、もう限界だ。
目がかすみ、頭がガンガンして来た。
<やめろ! 切れ!>
スヴァの叫びを最後に、ティティは意識を失った。
ティティ、頑張りました。