第150話 無理を押してもやるときゃやるよ
「くっ! 小さな姉弟の仲を引き裂く、私はなんと罪深い事かっ」
「本当、情けないわっ」
どうやら、ヒースとブリアはティティの部屋を覗いていたらしい。
部屋を出たところで、そんなやり取りをしている2人に出くわした。
2人とも目頭を押さえている。大丈夫か?
ジオル時代、孤児院でも慣れないうちは、不安だから小さい子は大きな子について歩いている。
それを思うと1人部屋に置いていくのは可哀そうだが、メイドさんもいるし。
仕事を済ませたら、とっとと帰ってくるから、いい子でいろよ、ノア。
「あーしょうがないですよ。時間は限られているので。さ、気分を変えて、訓練しましょう。なんて、迎えに来てもらって、その言い草はないですね」
雰囲気を変えるために、ちょっとおどけたように言ってみた。
「いや、我々が不甲斐ないばかりに、弟君に、辛い思いをさせてしまっている」
「そうまでしてもらっているんですもの、私たちは一日でも早く聖力循環をマスターするわ」
2人は真剣にこちらに訴えてくる。
真面目か。
「力を抜いたほうがいい場合もありますから。それよりも、場所を移動しませんか?」
部屋の前で騒いでいると、またノアが駄々をこねだすかもしれない。
「はっ。そうだな。行こう」
ヒースは華麗に向きを変えると歩き出した。
今まで突っ込まなかったすっけど、ヒース、家でもその口調は変わらないんすね。
ある意味すごいっす。
「本当なら森とかに行ったほうがいいと思うんですけど、ノアが心配なので、お屋敷のお庭での訓練になってしまい、申し訳ありません」
ティティは頭を下げる。
「いや、頭を上げて、小さなレディ。本来なら、訓練の機会は昨日で終わっている筈だったんだ。いわば、今日からはボーナスだ。気にしないで欲しい」
「そうよ。こちらとしては本当にありがたいんだから」
「そう言ってもらえると気持ちが楽になります」
「それで、昨日言っていた、新しいチャレンジってどんなことだい」
ヒースが頭を切り替えたようで、早速尋ねて来る。
いいね。きりきりやりましょう!
「はい。今までは、ヒースさんやブりアさんが訓練を始める前に、私が聖力を2人に少し流して、聖力がどのようなものかを感じてもらって、そこから聖力の素である聖素をイメージして体内に取り込むという試みをしていたと思うんですけど」
本来なら、体内で練りあがった聖力ではなくて、聖素そのものをこういったものだよと、示せればいいのであるが、如何せんティティも無意識で聖力を練り込んでいるため、それができない。
「今日は、ヒースさんやブリアさんに全力で聖力を注ぎ込んで、身体全体で聖力を感じてもらおうと思います」
少しだけより、身体全体で目一杯感じた方が、感触が掴めるのではないかと考えたのだ。
「そんなことをして、小さなレディは大丈夫なのかい?」
「多分?」
ティティは目を逸らす。その先にはスヴァが顔を顰めていた。
「小さなレディ‥」
ヒースも何か言いたそうだ。もちろんブリアも。
実は、このやり方についてはスヴァにも止められた。
今ティティの身体には魂が半分しかない不安定な状態である。本来スヴァの魂と合わせて1つの魂を形作っていたのだが、スヴァが分離して実体化してしまった為、そのような状態なのだそうだ。
これはもちろんスヴァの推測だ。ティティにはそんな小難しいことはわからないが。
まあいわば絶えずエネルギー不足の身体なのだ。
スヴァも同じなのであるが、魔物は小さくても元々体は強いから、ティティよりも安定はしている状態である。況してや元魔王である魂である。普通に過ごしていれば問題ないらしい。
だが、ティティは常にエネルギー不足な為、普通の人間よりも大量の食べ物からエネルギーを補給している状態なのだ。
ただでさえ、不足しているエネルギーを更に消費するような使い方をしたら、ぶっ倒れてしまう。
聖力もティティを支えるエネルギーだ、それがカラッカラになったら、倒れるどころか瀕死の状態になってしまうと、かなりな激しさで止められた。
それでもやりたいとティティはごねた。
こんな親切にしてくれる2人には長生きして欲しかった。
この試みから少しでも聖素の感触を掴むことができれば、その可能性が膨らむのだから。
倒れない為に、限界ぎりぎりまで、朝食を食べに食べた。
もしティティが意識を失って危険な状態時には無理やりにでも起こしてくれるように、スヴァに頼んだ。
一度だけ、いや、ヒースとブリアに一回ずつ試させて欲しいと、スヴァに訴えたのである。
スヴァは渋々頷いてくれた。
だからどうか試させて欲しい。
スヴァの気が変わらないうちに。
ヒースが言葉を重ねようとしたのを、ティティは手で制した。
「多少疲れてるかもしれませんが、今のままでは進展が難しいような気がして。どうか試させてください!」
ここで思いっきり頭を下げた。
屋敷に滞在させてもらって、ご飯もたらふく食わせてもらって、その上、弟の面倒までみてもらってるんだから。
ここで気張らなくてどうする。
「わかったよ。小さなレディ、ありがたく受けさせてもらう」
ヒースが言葉を飲み込んで、頷いてくれた。
「ありがとうございます!」
「礼を言うのは僕たちのほうだよ。君には何の得もないんだからね」
「何を言ってるんですか。ヒースさんたちの役に立てれるじゃないですか。それでいいんですよ」
「ああ、小さなレディ!君の尊い犠牲を無駄にはしないよ!」
いや、死んでないっすから。
「何縁起でもないことを言ってるの!」
ブリアがヒースの頭を叩く。
「ティティ、本当無理しちゃだめよ?」
「あ、はい」
と一応返事をしておく。でも少し無理しないとできないから、後で謝ろう。
ともあれ、ゴーサインが出た。さくさくっとやりましょう。
150話まで来ました!自分でもびっくりです。
これからもよろしくお願いします<m(__)m>