第149話 いいよって言いたいけどもっ
「ダメ」
「いーやぁ」
「ダメったらダメ、ちゃんと大人しく寝てなさい」
「やぁ、ねえねぇ」
「そ、そんなウルウルお目々で見上げて来ても、ダ、ダメです」
<思いっきり動揺してしているではないか>
「うるさいわっ」
しょうがないだろう。弟がベッドの上で、ぺたん座りをして、可愛らしくおねだりをされたら、つい、うんいいよ、一緒においでと言ってしまいたくなる。
けれど、それはノアの身体によくない。
食事もろくに取らずに、放置されていた小さな体はまだまだヨワヨワなのだから。
ノアは、ティティとの再会した後、目覚めてからずっと、ティティにずっとへばりついている。
新しい環境とまた姉がいなくなってしまうかもしれないという不安から、それは仕方がないだろう。
ただ、この4歳の小さな体はまだまだ休養が必要な訳で。
食事もまだ消化のよいものを少しずつ食べている状態なのである。
だから、ベッドで休んでなさいと言っているのに。
<くく。姉も大変だな>
もう。スヴァは黙ってて。
ベッドの横で、指を振りつつ、少し怖い顔をしてティティは続ける。
「もうノアを置いて行ったりしないから。安心して寝てなさい。メイドさんもついていてくれるから」
「うー‥」
それでもいやいやをするノア。
くっ! 心が折れそうである。
「ノア、今からお姉ちゃんはね、お仕事するのよ。そのお仕事はノアと一緒にいる為にどうしてする必要があるの。わかって欲しいな」
ノアはベッドの中で、下唇にきゅっと力を入れている。
「このお屋敷の中にはいるし、ノアに何かあればすぐに飛んでくるから」
幼児にとって、家の広さなど関係ないだろう。
姉の姿が視界から消える、ただそれだけで不安なのだから。
「わあった」
ノアは小さな手できゅっと毛布を握りしめると、こくりと頷いた。
「ありがとう。ノア」
ティティはノアの額にキスを落とすと部屋を後にした。
くっ。後ろ髪引かれるよう。
お姉ちゃん頑張って来るからね。
弟のわがままに耐えるお姉ちゃんでした。