第144話 ばか! ちゃんと飯食えっ!
「それともう一つ」
そんなティティに、ブルコワは静かに切り出した。
なんだろうか。すごい、マジな顔してる。
「其方の憂いを晴らして、心置きなく旅立ってもらう為、少しおせっかいをした」
「えっ?」
「植物スライム駆除の初日、お主が弟の処遇を憂いていただろう」
「はい」
それが何か問題があったのかな。
「わしはティティの親について、暴言を吐いてしまっただろう? それで、余計に気になってしまってな。少し、調べさせた」
「えっ!?」
な、なんだって?! どういう事?!
「其方の弟、ノアと言ったか、姉の其方がいなくなった後に、徐々に食事をしなくなったらしい。だが、其方の父親はそのまま放置しろと家族に命令しておったようで、大層衰弱してしまっていた」
「ええ!! すぐに助けに行かないと!」
ティティは即座に立ち上がった。
あのくそ親父が! ティティだけじゃなくて、弟まで殺そうってか!?
「落ち着け。大丈夫だ。其方の父親に幾ばくかの金を握らせ、こちらで保護する旨の書面に署名をさせて引き取って来た」
「あ、ありがとうございます」
ほっとして、膝から力が抜け、ソファにどさりと座る。
あの親父、字が書けたのか。自分の名前だけか。
んなことはどうでもいい。まずは弟だ。
「あの! それで! 弟は今どこに?!」
「ここにおるぞ」
ブルコワが片手で合図を送ると、ドアからメイドに抱かれた弟が入って来た。
「ノア!」
「ねえね!」
弟が短い腕を目一杯伸ばし、求めてくる。
「昨日はあまりに衰弱していたので、会わせる事ができなかった。其方の弟にも明日には姉に合わせる故、食事をとるように言い聞かせ、ミルク粥をとらせた。それで少し回復した」
「ねえね! ねえね!」
ブルコワが説明してくれているが、それどころではない。
腕に収まった弟のあまりの細さに愕然となる。
この半月足らずで、なぜこんなにやつれてしまったのか。
「ばか! なんで、ご飯食べないんだよ!」
「だって、ねえねがいない」
金の瞳に涙をいっぱい溜めて訴える。
「私がいなくても飯は食え!」
「だって、だって、さみしくて、のどがぎゅってなっちゃ」
「無理してでも食わなきゃだめだ! わかったか!」
「うええええん! ねえね! こわい~!!」
そう言いつつも、ティティの胸に必死にしがみつく。もう離れないとばかりに。
この子はティティに不思議なほどに懐いていた。母親よりも。
まさかこれほどだったとは。
これは置いて行けない。
泣き続けるノアをあやしながら、ブルコワに頭を下げた。
「弟を救ってくださり、ありがとうございました」
「いや、ティティの役に立ててよかった。これで、わしの不用意な発言は許してくれるか?」
「はい、もちろんです」
いや、ほんと、これでチャラで!
元々私はそれほど怒りは持続しないのだ。
ずっと恨めしく思っていたら、身体と心に悪いしな。
ちょっとひっかかってはいたけど、これで本当チャラだ。
「あの、弟は私が連れて行ってもよいのですか?」
救ってもらってなんだが、金で解決したのは、少し複雑だ。
あの親、これで味をしめて、今後子供を売り飛ばさないといいが。
「ああ、そのつもりで引き取って来たのだ。それに今の状態から引き離すのは無理だろうて」
確かに。ノアは、引っ付き虫のようにびったりとティティにくっついたままだ。
「其方の家族の動向はわしが見て置く。心配するな。いい意味でも悪い意味でもな」
あ、領主さん、私の心配は見越しているみたいだ。
ありがたい。
「重ね重ね、ご面倒お掛け致します」
本当はお貴族様に貸しを作るようで、すっごい嫌だが、せっかくなので甘えておく。
くそ親父はどうでもいいが、やはり母親と兄弟は心配だからな。
かといって、私がずっと見守れないしね。
私もそこまで人間できてないからさ。
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