第142話 こんなにっ!?
無事、4つの湖にいた植物スライムを退治した翌日。ティティは昨日と同じように登城していた。
違っているのは、もう湖に行く事はなく、応接室に呼び出されている事である。
最後の嬉しいお勤め、褒賞金を受け取る為である。
植物スライムの情報と駆除がスムーズに進むためのアドバイザー料、期待大である。
今いるところは、最初に入った応接室である。
絨毯が真新しい新しいものに変わってるね。いくらかかったのだろう。うん。そっとしておこうか。
メンバーはブルコワと美麗な息子さんルミエールに、ティティ、それとティティの足元に伏せて目を瞑っているスヴァである。ブルコワとは対面に座っていて、ルミエールはブルコワの座るソファの後ろに立っている。
数日前の時のような緊張感も険悪な雰囲気もない。
変われば変わるものである、これも国守さまの介入のお陰であろう。
お土産に、どっさり果物を買って持って行かねばなるまい。
と、ブルコワが最初に口を開いた。
「この数日間非常に助かった。礼を言う」
「いえ。最初にお教えした事以外は、ちょこちょこっとしたアドバイスをしただけですから」
本当、フィジカル的には何もしていない。
ただ、作業を領主さまと見守っていただけである。
「いや、その口添えこそが貴重であったのよ。これでこの地方の収穫も上向くであろう」
「そうなってくれるとよろしいのですが」
「目に見える元凶を取り除けたのだ。よくなるに決まっておる」
そこで、ブルコワはぎゅっと眉を寄せた。
「だが、犯人の目途はまだ立っていない。植物スライムが湖に放たれて、年月が経ってしまった為、聞き取りもままならぬ」
「あー、そうなんですか」
やっぱ、そうだろうな。植物スライムは最初大人の手のひらに乗るくらいの小ささだったろうから、それをぽいっと湖に投げ入れても、不思議に思う人はいなかっただろう。
小石を投げたくらいにしか思われなかったのではないだろうか。
その当時ならともかく、2年、3年と経ってしまった今、犯人特定は難しいだろうなあ。
「だが、そのスパンをかけても、攻撃を仕掛けてくる輩がいる事がわかっただけでも、収穫だ。今後こう言った絡め手がある事を十分に注意をして、この地を守るとしよう」
領主さん前向きだね。うんうん。
それがいいね。
「今日城の者に、植物スライムを撒いた水田を見に行かせたところ、稲が実の重さで頭をかなり下げていたそうだ。他の果樹園や畑なども、驚くほどに実が大きくなったそうだ」
「本当ですか?!」
「ああ。この数日で驚くほどの成長だそうだ。牧草地も草が瑞々しさを取り戻して、それを家畜たちがもりもりと食べているとの報告が上がっている。これで冬への備えの不安が大幅に解消された」
「数日でそんなに効果が出たのですか」
ティティの足元でそれを聞いたスヴァが首を上げる。
<植物スライムの体内で、エネルギー質が向上したのかもしれぬ>
スヴァが考え込むように心話で呟く。
<え。それって植物スライムの特性?>
<いや、我が知っているそれには、そんな効果はなかった。魔力を処分する為の植物スライムであったからな。もしあったとしても向上ではなく減退を付与するはずだ>
それはそうか。魔族たちの魔力を処理する為に作られたのだから、それを増長させるなんてありえない。
<じゃあ、後からその改良がなされたってことかな?>
<わからぬ。改良を持ちかけた奴が、どうあ奴に話したかに因るな。あ奴ならついでに、と、面白がって依頼人には言わずにその特性を付けたとも考えられる。己の欲に忠実な者だからな)
<ぶっ! それってどういう! つか、植物スライムを作った人、知ってるのか!?>
<当然だろう。魔族を統括する魔王が知らなくてどうする>
考えてみればそうか。そこまで考えなかった。
<目先ばかりでなく、もう少し頭を使え>
<しょうがないだろ! まだ子供だぞ>
悔しまぎれに言い訳しながら、口を尖らす。
<中身はちがうだろうが>
「ティティ? どうした黙り込んで。何か気になる事でもあったか?」
「いえ、本当によかったなあと。ははは」
いけない。まだ、ブルコワとの会談中であった。
ブルコワの後ろに立つルミエールが疑わしそうに目を細めている。
何も言わないが、美人のルミエール、ティティをお好きではないようである。やっぱ、容姿がコンプレックスだったのか。最初に突いたのがいけなかったか。
「さて、これが今回の依頼料、報償金である。受け取って欲しい」
ブルコワが後ろに首を向けると、ルミエールがテーブルの上に革袋が載った長方形のお盆を乗せた。
本当ならば、褒賞金や依頼料は冒険者ギルドを通してもらうものであるが、今回依頼人のたっての希望で、城で直接もらうことになったのである。
「ありがとうございます!」
褒賞金は金貨5枚以上、そしてその後の植物スライムの駆除のアドバイザー、この依頼にも色を付けてくれるという話だ。果たしていくら入っているのか。アドバイス料とプラスアルファは願わくば、銀貨ではなく、金貨希望である。
お盆に置かれた袋は重そうだ
期待できそうである。
革袋の紐を緩めて中を覗き込むと、そこには目算で20枚以上の金貨が入っていた。
「こ、こんなに!いいんですか?」
おいおい。マジか。
「それは正当な報酬である。堂々と受け取って欲しい」
くれるっていうもの、遠慮なくもらうけど、いいのか?
後で返せっていってもダメだよ?
「ありがとうございます! 助かります」
本当助かる。これで、西への旅は少し快適にできる。
にやにやと顔がにやけそうになるのを堪えて、ティティは言った。
「田んぼや畑が元気になって、本当よかったです。これでこのまま来年も元気なままでいてくれればと思います」
頼むよ。これだけの大金をもらったのだ。他に原因があったなどとなったら、2度とこの街に足を踏み入れられなくなりそうだ。
とは思いつつも、本当にこの地方の不作が植物スライムだけが原因なのかは、まだわからない。来年の収穫高の動向を注意深く観察していく必要があるだろう。
それにしても、不作が原因で捨てられた私が、それを解決するとは何とも皮肉な話だなあ。ちょっと複雑だ。
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