第141話 なんとかできないものか
翌日からティティは、ヒースとブリアに付いて登城する日々が数日続いた。
昨日の第1の湖、テフラ湖での植物スライムの処理に続き、第2の湖コマルナ湖、第3の湖タリオス湖 順調に処理は続いた。
流れとしては朝、登城した後、湖に向かい、植物スライムを魔法陣を使って湖から引き揚げ、それから人海戦術で植物スライムを必要な田畑や牧場などに運ぶ。
作業はスムーズに進んだが、それでも魔法士の魔力も、騎士たちの馬車でのピストン輸送も植物スライムの処理は一日一個体が限界であった。
ティティの役割としては、領主のブルコワとともに、作業を見守るだけの比較的簡単なお仕事である。初日以外は特にトラブルもなく、これでお金をもらっていいのかと思ってしまうくらいである。
魔法士であるヒースとブリアは午後の比較的早い時間に作業から解放される為、帰城する時間まで、ティティと湖に近隣する森や林の中で、聖素を掴む訓練に励んだ。
今日も今日とて、彼らはタリ湖の森で励む。
ヒースとブリアはティティによって聖力の感触は掴めたものの、その基となる、聖素自体が不明な為、大気中からそれを掴むのに大変苦労していた。
聖素がわからないと、聖力を練れない。
それに掴めたとしても、2人には元々聖力を扱う器官がない。そんな2人が魔力を練る器官を使って、聖力を練り、魔力が通る通路に聖力を流そうとしているのだ。それが出来て初めて、魔力を使って痛んだ身体を癒せる。
それができれば、寿命も延びる筈なのだ。
あくまでもスヴァの仮説によるのだが。
道は遠い気がする。
なにせ、最初の聖素を掴むところでつまずいているのである。これも、唯一の手掛かりである、ティティが聖素を2人に示せないからである。
<そう思うなら、お主も聖素を意識して取り込んでみろ>
<やってるよ!? 2人が訓練してる隣で、ほけっとしててもしょうがないから、私も彼らとともにやってみてるんだけど、わっかんないんだよ!>
<むう。魔物である我が魔素を取り込むのと同じで、息を吸うように体に取り込んでいるのやもしれぬな>
<だとしたら、無理じゃないか? 呼吸している物質を意識してみろと言われても無理じゃね?>
<我はできるぞ。だから、魔素がどういうものかもわかる>
<魔物の頂点に立つ、元魔王様のスペックと同じと考えないでね!? 私は凡人だからね!?>
というやり取りをしつつも、ティティもまた聖素探究に努力している。
ちきしょう。こちとら、顔も頭も凡々なんだかんな。
ヒースにしてもブリアにしても、雲を掴むような話なのに、それでもティティの言葉を信じて、訓練に励んでいる。諦めない2人に尊敬である。
できるだけの事はしたいと思う。しかし、その訓練を手伝える時間ももう残り少ない。
第5の湖 キシュミール湖は植物スライムは確認されなかった。
その為、本日、国境側にある第4の湖、タリ湖での植物スライムの処理が済んだ事で、すべての処理が済んだ事になる。
ただ、湖の他に森や林などに植物スライムがいないかどうかは引き続き、確認していくようであるが、とりあえずティティが領主様に依頼されていた植物スライム駆除のアドバイザーの仕事は終了になる。
明日が最後の登城になるだろう。
今日が実質聖素を掴む訓練に付き合える最後になる。
「くっ!」
ヒースが目を閉じ、額に汗をかきながら、懸命に大気中にある筈の聖素を見つけようと神経を集中している。
そもそも聖素がどんなものか触れたことがないのが、致命的である。
ティティが彼らの体内に聖力を流して、それを頼りに体内に聖素を取り込もうとしているのだ。
なかなか無謀な挑戦である。聖力の素となる聖素。聖力の感触から探すというのが無理なのか。
ティティが聖素を意識的に取り込めればいいのであるが、さっきも言ったようにまだまだそれも難しい。ティティの場合、スヴァに言われて身体を探った時にすでに体の中に聖力があったので、どのように聖素取り込んでいるのかまったくわからない。自然にできてしまっているからである。それを人に教えるのは無理だろう。
「はあ」
ティティが見守る中、ブリアもがくりと肩を落とす。
どうやら2人とも今日も聖素を取り込めなかったようである。
もうすぐ日が暮れて来る。
今日これ以上の訓練は難しいだろう。
「もう、時間ね」
ブリアが暗い声で呟く。
「ああ、そうだな」
ヒースもいつもの明るさがない。
ティティはどうすればいいのか。
2人が使えるようになるまで、この街にいた方がいいのか。
<2人がいつ習得できるかわからぬのに、お主は大丈夫か>
スヴァが心話で問い掛けてくる。
<うーん>
ティティとしては弟の様子を確認したら、すぐにでも街をでたい。
まだ冒険者ギルドには依頼をかけていないから、街を出るまで日にちはある。少しは余裕があることを2人には言うべきか。
でもそれもきっと数日だ。ティティだって、街を出るとなったら、色々な準備がある。
「明日、ブルコワ様からの褒賞金を受け取れば、それでティティの仕事は終わりだな。最後の訓練だったのに、不甲斐なくてすまない」
ヒースが軽く頭を下げる。
「そんなことないです! お2人は難しいことを挑戦しているのですから!」
「そう言ってもらえると救われるわ。さあ、暗くなる前に、帰らないと」
「はい」
2人は訓練の延長を申し出ない。
それが余計に辛かった。
何か、何か、方法はないものか。
街へ帰る道で、ティティはずっと考え続けた。
少しシリアスでした。