第140話 ふっかふっか。もっふもっふ。
「ふああ。お腹がきっつい」
ヒースの屋敷、カレドニア子爵家のあてがわれた部屋のベッドにティティは身体を投げ出した。
「行儀が悪いぞ」
すかさずスヴァのチェックが入る。
「少しぐらいいいだろう! 汚さないように風呂に入って寝巻に着替えたんだから!」
ティティは口を尖らせる。
そう気を遣うくらい、カレドニア家の客間は豪華だった。
自由に使ってくれと言われた部屋にはベッドの他に応接セットもあり、勿論書き物をする為の机や椅子もあり、壁には絵画なども飾られてたり。そしてなにより広い。
ジオル時代、孤児院のみんなで寝た部屋よりも広いのではないか。
そして絨毯もふかふかで、カーテンも厚く、これなら夜露もしのいでくれるの間違いなしである。
はあ。金はあるところにはあるんだなあと思う。
それでも、子爵。貴族でも下位である。この上のクラスはどんな暮らしをしているのか。
それに、食事も豪華だった。
熱々のステーキ、幸せなひと時だった。
「スヴァ、食事はどうだった?」
スヴァは一緒の食堂ではなく、炊事場に連れて行かれての食事だった。
「うむ。満足のいくものであった」
「そっか。よかった」
予め、スヴァは人間と同じものを食べますのでよろしくとお願いしていたが、ちゃんと聞き届けられたらしい。
本人は生肉でも食べられると言っているが、魔王化して過ごした中で唯一、読書と食事が慰めだったと言っていたから、やはり好みとしては調理された食事のほうがいいに違いない。
食事もだが、洗濯までしてもらえるらしい。浴室の脱衣籠に入れておけば、してくれるとのことだ。
「至れり尽くせりだなあ」
ここにいれば宿代、食事代が浮く、その上洗濯まで。
少し肩が凝るけど、ありがたい。その分お金が節約できる。
これは頑張ってヒースとブリアが聖力を使えるように力を尽くさねばならないだろう。
そして彼らができるようになったなら、仲間の魔法士たちにも広めて欲しい。
もちろん、ティティの名前は伏せてである。
そこまで考えて、またふっと浮かぶはまたも弟の事。
元気でしてるかな。
「あー‥、お金に余裕があるし、ここを出る前に、チビの様子をやっぱ探ってみるかな」
「弟か」
「うん。私がここを旅立つと思った時に、突然浮かんだってのは、ティティが余程気にかけてたってことかもしれないからね」
「うむ」
「ギルドに依頼を出せば、そういった仕事してくれる人がいるかもしれないから、カミオさんに聞いてみるか」
カシミールやイリオーネは忙しいだろう。何と言っても、2人は冒険者ギルドのお偉いさんなのである。
「ティティが1人減った事で、家計的には少しはましになっただろうが、あのくそ親父、酒好きだしな」
ティティの場合は、ただ山へ捨てたが、少し頭を働かせて、今度は弟を売るなんてことを思いついたら、悲惨だ。
「私と違って、チビは器量よしだからなあ」
ティティが育った集落は、畑や狩りで生計を立てる家がほとんどだ。
はっきり言って学がない。だから、そこまで思いつかないとは思うが。
この地の不作影響が物価の上昇を招いている。
村長あたりが、奉公と称して売り飛ばしを推奨するかもしれない。
今日から植物スライムを駆除しているとはいえ、大地が回復し、作物や薬草、牧草ましてやそれを食べる動物が帰って来るのには時間がかかるだろう。
その間は苦しい時をしのがなければならないのだ。
「もし、チビが窮地に立ってたら、助けなきゃな」
しかし、弟を抱えて旅などできるか。
「ここにしばらく住むっていうのもありか」
「我はどちらでもよいぞ」
「私がやなんだよなあ。なんかあの親からできるだけ離れたいんだよ」
嫌悪もあるが、相対した時に、ティティの気持ちに引きずられて萎縮してしまうのではないか。やっぱ親だから。支配されそうで、少し怖い。
「やっぱ。無理してもここから出たい」
「ならば、そうしよう。お主は1人ではないぞ。我もいる」
その言葉に元気づけられ、、隣で丸くなっていたスヴァをぐりぐりと撫でる。
「そっか! そうだな! 私は1人じゃない! 相棒がいるから大丈夫だな!」
「やめろ!」
「なんだよ! もっともふもふさせろよ!」
そうして2人でしばらくじゃれ合った後、昼間の疲れもあっていつの間にか眠りについた。
朝目覚めた時には、ちゃんと布団をかぶって眠っていた。
メイドさん、迷惑をお掛けしました。
皆さまいつもお読みいただき、ありがとうございます。
少しでも面白いぞっと思ってもらえましたら、どうか評価、ブクマをよろしくお願いします!
励みになりますので~。