第139話 そうだったのか。へえ。
テフラ湖での訓練を終えた後、3人ティティの泊まっていた宿に寄って、引き払う手続きをした後、荷物を持ってヒースとブリアに連れられて、ヒースの家へと向かった。
宿代のキャンセル料少し取られた。けど、これからヒースの家に泊まらせてもらうんだから、結果的にプラスになるから、よしだろう。
そして、着いた先のヒースのお家。
「ヒースさんって、お貴族様だったんですね」
屋敷と呼ぶに相応しい重厚な感じの建物を前に、ティティは口をあんぐりと開ける。
ブリアは確かに言っていた。広い家で食事も用意できると。
そうか。それは金銭面だけの事じゃなかったか。ヒースが食事を作る訳じゃなかった。
これだけの屋敷ならメイドや料理人、きっと執事もいるに違いない。
「貴族と言っても子爵家の3男坊よ。気にしないでいいわ」
「それ、私の台詞だね!? ブリアが言うのかい?!」
ヒースさん、なんか王子様のイメージがどんどん崩れていくような。
その視線に気づいたのか、ヒースははっとしてコホンと一つ咳ばらいをする。
「まあ、ブリアの言う通り気楽に過ごして欲しい」
そう言いつつ、屋敷へと続く道をずんずんと歩いて行く。
門をくぐっても玄関まで距離が結構ある。リュックを背負いなおし、それに着いて行く。
そうして着いたところは、どでかい扉。
ヒースは無造作に開けるとそこには、1人の初老の男。
「坊ちゃま、お帰りなさいませ」
「ああ、ただいま。って、坊ちゃまはよしてくれといつも言っているだろう。セルジオ」
「今のままですと、ずっと坊ちゃまですね。早くこのセルジオを安心させてください」
ヒースさんはなにやら、このセルジオさんを心配させているらしい。
ヒースさん、最初のイメージから随分と違っているね。
心配かけちゃいけないよ。
ヒースはティティの視線に、咳ばらいをして仕切り直した。
「セルジオ、その話は後にしよう。紹介する、こちらの小さいレディはティティルナと言う。しばらく家に泊まる事になった。頼むぞ」
うえっ! それだけ! それだけで大丈夫なの?! いきなり泊まる事になったんだよ! もう少し説明しなくて大丈夫?!
あまりに大雑把な紹介に愕然としたが、それ以上の説明はないようなので、ティティは慌てて頭を下げた。
「初めまして、ティティルナです。ティティと呼んでください。突然押しかけて、申し訳ございません! しばらくお世話になります!」
まさか貴族の屋敷に来るとは思わないから、今日は普段の冒険者の格好のままだ。
一張羅に着替えるべきだったか。うう。
「ようこそおいでくださいました。執事のセルジオでございます。どうぞごゆるりとお過ごしくださいませ」
おお、ヒースさんには厳しい対応だったが、こちらには優しい。
よかったよう。
「詳しくは言えないが、ティティは私の先生なんだ。丁重な扱いを頼む」
「ちょっ! ヒースさん!?」
何言ってくれんだ、この人は?!
「先生ですか」
セルジオが一瞬目を見開い、てこちらをじっと見る。
うおお。気まずい。
「あは、あはは。 ヒースさん、と違った、ヒース様ったら、何を言うのやら」
口が引き攣る。敬語使った方がいいのか?
それより先生ってなによ! くっ。聖力については秘密にしたいから、詳しく説明できないぃ。
ティティは心の中でジタジタする。
「かしこまりました」
深々とセルジオさんが頭を下げる。
ちょっ!
「あの! 普通でいいですから! 私は平民なので!」
セルジオさん、いくらヒースさんの言葉だからって、そこは飲み込まなくていいから!
ヒースはティティの動揺もなんのその、構わず続ける。
「ティティも今まで通り、私の事は、ヒースさんでいいからな」
「あ、はい!?」
いいのか? いいのか!?
「それとティティはテイマーだから、従魔もいる。彼女の足元に座っているだろう?名をスヴァと言う。彼も滞在する。ちなみにこの小さなレディとスヴァはものすごくご飯を食べるようだ。さっきもむすびを4つも食べていた。そこも頼む」
「ちょっ!」
それ、今言う? 言っちゃうかなあ。確かに沢山食べるけどっ!
顔がじわじわと赤くなる。
なんかご飯をせびっているようですっごい恥ずかしい。
<我は1つしか食べてないぞ>
スヴァが訂正する。
そこら辺はいいからっ。
「かしこまりました。料理人にそのむね伝えましょう。きっと喜びますぞ」
セルジオが、顔をほころばせて、大きく頷いている。
子供は一杯食べないとねと言われているようだ。
「それと、知らない屋敷に泊まるのが心細かろうと、なぜかブリアも泊まるらしい」
「世話をかけます」
ブリアがセルジオさんに礼をする。
「かしこまりました」
あれっ。すんなりだ。セルジオさんってすごいな。全然慌ててない。
あ、でも嫁入り前の娘さんが、貴族の屋敷に泊まるのはいかがなものか。
そう思って、ブリアさんの服の裾を掴んで引っ張った。
「あの、私、大丈夫ですよ。ブリアさんにご迷惑をかける訳にいかないので」
それに答えたのはヒースだ。
「ああ、大丈夫だ。ブリアは幼馴染だからな、よくこの屋敷には泊まるんだ。だから、小さいレディは気にしないで大丈夫だ。みんな誤解なんてしないさ」
ブリアとセルジオの視線が一瞬鋭くなり、ヒースを睨んだ。
「坊ちゃまはまだまだ坊ちゃまのままですね」
それに深く頷くブリア。
うーむ。大人の事情は深い。そっとしておこう。
キャラの性格が今一つ不安定。すいません。