第134話 遠い。でも行く!
短めです。
「西の辺境領ですかあ」
「遠いぞ。行くのか?」
こことは反対側の魔王領との境界を守っている領地である。
ティティの足ではかなりな日数をようするだろう。
だがそれでも、答えは決まっていた。
「はい。特に行きたいところもなかったので、英雄様に会うという目的ができたのが嬉しいです」
「だが、道中長い。危険だぞ。もう少し大きくなるまで待った方がいいのではないか?」
「ご心配ありがとうございます。でも、できれば早く会いたいのです」
そう。思い立ったが吉日ってね。ずっともやもやしたまま、過ごしたくはない。自分の目で元気な姿を見て、安心したい。
ジオルが死ぬ直前まで気にかけていた少年だ。
それで一つ肩の荷が下りる。
「わかった。では、私が西の辺境伯に紹介状を書こう。折角行くのだ。見るだけでなくお会いするといい」
「ええ?! いえ、そんな! 相手は大貴族さまですよ! いいです! そこまで望んでませんから!」
ティティは両手を激しく振った。
平民のティティには不相応である。
「これも、今回の褒賞と思ってくれてよい。ただし、ライアン様次第だ。西のから話があれば、断りはせんとは思うが」
褒美と言われれば、ティティに断るいわれはない。
むしろ嬉しい。
たとえジオルとして会えなくても。
<甘えればいいだろう。我も我らが消失した後の事が気になる。詳しく聞ければなおよし>
そっか。そうだよな。スヴァの言葉に頷く。
「ありがとうございます! お言葉に甘えます!」
「うむうむ。やっと笑ってくれたな」
「え?」
「城にいる間、ティティルナはいつも難しい顔をしているから、ここが嫌いになってしまったのかと思ってな。まあ、仕方がないのだが」
そこでしょんぼりする、ごついおっさん。
まだ気にしてたのか。
ま、それだけの事を、私に言っちまったもんな。
私もまだちょっともやもやしてるしな。けど。
「嫌いにはなりませんよ。ただ、植物スライム除去が成功するか心配だったのもあるかと」
だって、私の話を元に、大それた作戦が決行されてんだから。実は違ってましたではすまされないだろう。
<最初に、推測と言っておいたのだから、問題ないだろう>
スヴァがしれっと言う。
<ばっ! そうもいかんだろう!>
これだけ人も物も動かしたのだ。すごい金がかかってる。
弁償しろと言われても、できる筈がない。
<だから、領主が裏付けをとったんだろうが。それでゴーサインを出したなら、それはもう領主の責任だ。お主が責任を感じることはない>
<まあそうだろうけども>
うわ。元魔王様。すげえきっぱりだな。流石だ。
「そんな心配をしておったか。ティティルナの助言を受けて、有用と判断したのはわしだからな。そこまでティティルナが心配することはないぞ」
<ほらみろ>
「ありがとうございます」
やっぱ、上に立つ人は違うなあ。
「田畑の様子はこの後様子を見んことにはわからんが、今日の作業は後少しで、終わる。ティティルナの心配事も少し消えるな」
「はい」
「もう少しここに居られるなら、田畑が元気になる様子もわかるかもしれんぞ。そうすれば、憂いなく旅立てるかもしれんな」
憂いなく。
その言葉にティティの心に影が差す。
ああ、本当憂いなく、旅立てればいいのに。
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