第130話 あれ? 自分のせい?
「それでは、父上。始めたいと思います」
領主の別嬪息子ことルミエールが、恭しく片手を胸にあて、ブルコワに最終の許可を伺う。
それに対し、テフラ湖の湖岸に設置された一段高くなった台の上で、豪奢な椅子に腰を下ろした領主が大仰に頷いた。
「うむ! 速やかに遂行せよ!」
「はっ!」
短い返事とともに、ルミエールはティティには目もくれず、指示を出しに湖に駆け出していく。
いや、無視してもいいよ?
でもね? なぜに私はここにいるのよ。
そう今ティティがいるのは領主が座る横。
そう領主の椅子の横に、ティティの席が設けられ、植物スライムを処理すべく動き回る騎士たちを見ているところだ。
「なんでこうなった」
小さく漏らす声を拾ったのは、足元にいるスヴァだ。
<お主が、諾の返事をしたからであろう>
<いや、だって、領主からの要請なら、応えない訳にいかないだろうがよ>
それにこの植物スライム退治が無事終了するか、進言した手前、見届けねばなるまいという気持ちもあった。
<きっと騎士さんたちは、領主の横にいるちんまい娘は誰だって思ってるんだろうなあ>
ブルコワには自分の事を、国守の愛し子だという事は、内緒にして欲しいと頼んである。
領主をはじめ、他の貴族にも利用されるのはまっぴらごめんだからである。
けれど、こうして領主の隣にいたら、目立ってしょうがない。
<やっぱ。早めにここを出ようかね>
<その方がいいだろうな。余計な詮索をされないうちに>
<せっかく街のみんなと仲良くなったのになあ>
<今生の別れでもあるまい。しばらくしたら、またくればいいだけだ>
<そうだな!>
そうだ、なにせティティはまだ7歳なのだ。時間はいくらでもある。
<それにしても、領主さまは即行の人だな>
騎士たちが慌ただしく準備しているのを眺めながら、心話で呟く。
領主のブルコワはティティとの話し合い後、すぐに植物スライムの退治の準備をギルド長のカシミールの協力を得ながら、とりかかった。
植物スライムの大きさを考えてどのように除去するかを話し合い、計画を立て、それを実行する為に、王都と連絡をとり、特別な道具を使う許可を得た。それと同時に、ティティの言の検証、植物スライムの性質、その身体が本当に大地の力を活性化させる力があるのかどうかを確かめた。
王都の許可はすぐにとれ、また植物スライムの身体はティティの告げた通り、確かに植物を活性化したのである。
植物スライムの身体が有効活用できるとわかった時点で、ブルコワは甕、足の速い馬、馬車などできるだけ多く用意した。
植物スライムの本体と切り離された身体は、時間とともに、空気中に霧散していく。
その為、急いでその体を必要なところに運び、撒く必要があるからだ。
ちなみに甕の出所は、酒蔵や酒屋からだ。この地方は冬寒さが厳しいため、寒さに耐えるために飲酒率はかなり高いのそうだ。単に酒好きが多いだけではないかとも思うが、それは突っ込まない。
そのおかげか、植物スライムを運ぶ甕がたくさん用意できたのだから、よしだろう。
木の樽も使用するとの意見があったが、スヴァが木は加工されていても微かな生命力があるから、エネルギーを吸収してしまう可能性があるかもしれないと呟いたので、それをブリアにそのまま伝えて、樽使用は却下になった。
そんなこんなで、ちょろちょろとヒースやブリアを通じてアドバイスをしていたのもあり、領主より作戦当日までのアドバイザーを正式に頼まれた。
もちろん、別に報酬も出すとのことで。
お金が増える分にはありがたいので、どうせならと、ギルドに指名依頼の形式をとってもらえたらと欲をだしたら、快く受けてくれた。
底辺のランクに異例の指名依頼だったが、ギルド長権限発動で、無事依頼を受けられることになった。
この依頼を受ければ、ワンランク上がる事になる。
これで受けられる依頼も増え、稼ぐ機会も増える。
両方ウインウインである。
<あれ? もしかして、こうなったのは自分のせいか?>
<自業自得だな>
<ぐう。なんも言えねえ>
そうしてここ数日の出来事をつらつらと思い出しているうちに、どうやら準備が整ったようである。
さあ、いよいよ植物スライム退治の始まりだ!
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