第128話 ふう。話し合い終了。クッキーも終了。
<我にもだ>
またも足をつんつんされる。スヴァもクッキーを気に入ったようだ。うまいもんな。
<ん>
大盤振る舞いで2枚進呈する。
「力の性質はわかったけれど、どうやって、この聖力を練ればいいのかしら?」
ブリアが顔に手を当てて、考え込む。
「魔力を練るのと同じようにやればいいかと」
力は力だし。それでいいんじゃないか?
スヴァも何も言わないし。
「問題はティティが言う聖素、陽のエネルギーの取り込みだな」
ヒースが難しい顔で呟く。
「ええ。聖力の感触はわかったけれど、そこから聖素を感じなくてはならないのよね。厳しいわ。ティティは聖力を練る前の聖素を私たちに送ることはできない?」
「無理です。私、無意識に聖素を取り込んでいるようなので、私も意識して練習しないと難しいですね」
「そうか。それでも私たちよりも聖素の感触を掴むのはきっと早いだろう。ティティ、聖素を掴む練習をお願いできないかな?」
「あー、はい。そうですね。やっといた方がいいかもですしね」
ここまで乗りかかった船だ。やってみよう。
<うむ。訓練に付き合おう>
<うん>
だが、スパルタは勘弁しろよ。
<にしても聖素、陽のエネルギーって、本当つかみどころがない感じだな>
<お主は魔素もわかってないではないか?>
そう言われちゃうと、ぐうの音も出ない。
<私は天才肌なんだよ!>
<天然ではあるな>
<なんだよ!>
<いいから、話を進めろ>
ちぇ。しかし言う通りなので、意識を2人に向ける。
「お2人も聖力からもイメージして、何とか聖素を大気から取り込む練習をしてください。森や山など緑が多いところで行うと感じやすいかもしれません。一度こつを掴んでしまえば、こっちのものです」
「逆にいえば、掴むまでが大変ね。掴めるのかしら? いや、やらなくてはね! せっかく希望が出て来たのだから」
「ああ! それに聖力が練れれば、自分だけでなく、他者を癒す事もできるかもしれないな!」
他者を癒す力、一気に怪我などを治してしまう力、聖女が使う力か。使えるようになるのか? 聖力はその一つ前の段階だ。自分の身体を自然に修復してくれる。自己のメンテナンスには十分有用な力、それで十分だと思うけど。
どこまでも向上心があるというか。
<スヴァ、もし2人が聖力を操作できるようになったら、聖女様と同じように癒しの力を使えるようになるのか?>
<難しいだろうな。元々魔力の通り道を借りて聖力を回すのだ。それを更に癒しの力として変換して体外に放出したら、逆に身体に負荷がかかる。下手をしたら、魔法が使えなくなるかもな>
<ええ!?大変じゃねえか!>
<そうだな。大変かもしれぬな>
冷静に同意してんじゃねえよ!
2人に注意しておかないと。
「あの、大変申し訳ないんですけど、元々聖力の回路がないお2人が更に癒しの力を使おうと無理すると、魔法自体使えなくなる可能性があります。だから絶対やめてくださいね!」
「そうなのか」
「そうなのね」
あ、2人ともしょんぼりしてしまった。
でもだめなものはだめだ。
「私は2人に元気でいて欲しいから。聖力の事をお話しました。聖力が身体を健康な状態にしてくれるそれだけでも十分じゃないですか?」
「そうね。欲張りになってしまったわ」
「そうだな。つい」
ブリアとヒースは済まなそうにティティを見た。
「いいえ! それに私が話した内容はあくまでも仮説です。できるかもわからないし、できてもそれで本当にずっと元気でいられるかわからないっていうあやふやな情報なんです。申し訳ないです」
「いや、十分だ、十分すぎるくらいだよ。ティティは私たちに希望をくれたのだから」
ヒースはいつもの大げさな物言いはなりを潜め、真摯な眼差しを向けて来る。
「本当、ありがとう、ティティ」
ブリアも深々と頭を下げる。
「もう! やめてくださいって! いたたまれなくなります!」
「そうか」
「はい」
ヒースはそれから逡巡した後、口を開いた。
「ティティ、図々しいお願いなのだが、その、1度だけだと聖力の感触を忘れてしまいそうだ。もしよければ、また聖力を使ってもらえないだろうか」
「私からもお願い」
「う、わかりました。また機会をみてでいいですか?」
2人からお願いされたら、断れない。
「「ありがとう!」」
2人の笑顔が眩しい。
「忘れないうちに練習したいわね」
ブリアが少しうきうきしながら、立ち上がる。
未知の力であり、自分達を救う力かもしれないのだ。すぐにでも試したいのだろう。
「あ、じゃあ、私もう帰ります」
訓練場も見たし、これ以上いるとまた何かに巻き込まれかねない。
「そうかい? 一緒に訓練してってもいいよ?」
「いえ! 今日は疲れましたし! また今度で!」
勘弁してくれ。もう今日はお腹いっぱいです。
「そうかい? でもそうか、今日は色々あったものな。わかった。それにそろそろ、カシミールたちの話も終わっているかもしれない。聞きに行ってくるよ」
そうして、ヒースは出ていった。
「その間に、このお菓子食べちゃっていいわよ」
「わっ! いいんですか?」
残り数枚になったクッキー。気になっていたのだ。
「ええ。ティティは私たち魔法士を救ってくれる救世主様かもしれないもの」
「ええっ! そんな大げさな!」
「大げさじゃないわよ。それくらいの情報をティティはくれたの」
ブリアはそこで真面目な顔をつくる。
「ティティ、冒険者として自由に生きたいなら、出していい情報とそうしちゃいけない情報とよくよく考えてしゃべりなさいね。でないとすぐに囲われてしまうわ。特に貴族の前では気を付けてね」
「わ、わかりました」
喉に、クッキーが詰まったよ。
はあ、口がすべらないように気を付けないとな。
<お主の口はすべりやすいからな>
スヴァ、うっせえよ!
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