第119話 うう 緊張するな おい
「あのもしかしたら、魔法士の体質を改善できるかもしれません」
「は?」
「え?」
ブリアはともかく、王子様なヒースの口から初めて間抜けな台詞を聞いた気がする。
まあ、台詞と言っても、一言だけど。
「小さなレディ、どういうことだい?」
すいません、凝視するのやめてもらえませんか。
ブリアも。
「怖いです、2人とも」
「すまない。だが、その、僕も、いや、私もその少し驚いてしまって」
ヒースそうですね。一人称が大変な事になってるね。
「あの訓練はまたの機会にもっと見せてもらうとして、ブリアさんのお部屋に戻ってお話してもよいですか? ここで話すのはちょっと」
うん。誰が聞いてるかわからないしね。内容は漏れても構わないけど、私が話したと知られるのは避けたい。
「そうね、戻りましょう」
お、ブリアの方が先に復活したみたいだ。
「はい、よろしくです」
そうして3人と1匹は再びブリアの部屋へと引き返した。
ブリアの研究室に戻ってくると、ブリアはローテーブルを部屋の真ん中に出して来た。それに合わせるようにヒースも椅子を三脚用意する。
更にブリアは入り口とは別の扉に入ると、程なくお盆に3つカップを乗せて戻って来た。
そして今3人は椅子にそれぞれ座っている。
「それで、さっきの言った事をもう少し詳しく教えてくれないかい?」
「私たちの勘違いだったら、申し訳ないのだけど、ティティが言ったのは、魔法士の寿命についての事で合ってる?」
なんか圧がすごい。
ティティは足元に伏せているスヴァに心話で頼む。
<おい、何か間違ったこと言ったら、ちゃんと教えてくれよ>
<わかった>
スヴァが片目をあけて、返事をする。歩き疲れたのか、またすぐに目を閉じてしまった。
一抹の不安を感じる。そのまま寝ないでくれよ。
「ティティ?」
「あ、はい。合ってます」
ブリアの問いかけに、慌てて返事をする。
2人がはっと息を飲む。ティティもその2人の反応に、緊張が増す。
「教えてもらえるだろうか?」
ヒースが真剣なまなざしをティティに向けて来る。
ブリアもだ。
いや、そうだよな。2人にとってとても大事な事だ。自分の寿命の事だ。私にとっても、せっかく仲良くなった2人にはいつまでも元気で楽しく過ごして欲しい。
そしてここまで真剣に聞いてくれるのは、きっとティティが国守さまの愛し子だと知っているからだ。ティティがこれから話すことは、国守さまから聞いたことだと思っているに違いない。
違うんだ。聞いたのは元魔王様だし、仮説だから。
ああ、なんか、領主と対面した時よりも緊張してきた。
<なあ、本当に効果あるんだろうな? スヴァ?>
ここまで期待させておいて、実はもうそれは知ってたとか。効果なかったとか洒落にならないぞ。
<我の仮説がすでに実践されていたとしたら、謝るしかなかろうな>
<おい!>
<仕方なかろう。我は前世で人間とはあまり接触した事はない。前世において、我もおのれの命について研究していたついでに、人族の魔法使いについても調べた事があった。その知識とお主をこれまで観察して導きだした仮説だ、他の者が同じ答えに辿り着いていてもおかしくはないな>
そうか。スヴァも魔王として生きていた頃、何とか生き残る方法を模索していたのか。その知識を土台にしての仮説だ、話してみる価値はある筈。
どうか。新仮説でありますように。
そう願いを込めて、ティティは話し始めた。
ティティ頑張って説明します。