第115話 気持ちは受け取ってますから
「さあさあさあ、それではまずは我が城がある魔法研究塔へとお連れしよう!」
大げさなしぐさで示しつつ、ヒースは廊下を引率して歩く。
うん。仰々しさ抜群だけど、領主さまを相手にするよりも格段にいいね。
今こうして歩いているのは、ヒース、ブレア、ティティ、そしてスヴァの4人?である。
カシミールとイリオーネは、ご領主さまとまだ話があるそうだ。
まあ、そうだろうね。早急に植物スライムの駆除計画を立てなくてはならないんだから、お城見学に付き合ってる暇なんてないよね。
私はもう、言うべき事はすべて言ったし、後は褒賞金を貰うだけだよ!
そしたら、資金も十分だし、国守さまのところに顔を出した後、王都にでも行こうかな!
ちょっと気になることがあるしね。
そんな事を考えているうちに、魔法研究塔とやらについたらしい。
なるほど、確かに塔だ、何階あるのか不明だ。首をかなり鋭角的に向けるほどに高い。そして各階ごとにあるだろう窓が小さい。明かりとりはどうしているのか。
「さあ、ブリアの研究室に行こうか」
「なぜ、私の部屋? ヒースの研究室を見せたいって言ってなかったかしら?」
「それはあの場ではああ言うのがベストだったからさ! 小さなレディが男性の部屋に入るのはいやだろうから、ブリアの部屋に招待したほうがいいと思ったのさ」
「いや、あんたの研究室が汚いからでしょ」
「それは否定しない」
「ぷ」
ティティは2人のやり取りに思わず噴き出した。
ヒース、否定しないのか。
それほどか。ならば、ブリアの部屋がいいね。
ブリアの研究室は机と椅子それに本棚とすっきりしすぎているほどすっきりした部屋だった。
「ここでブリアさんは、魔法の研究をしているんですねー」
机の上にはいくつかの書類がのっているが、きちんと片付けられている。
部屋を見回しても、おどろおどろしいものは特に置いてなかった。
「もっと、トカゲのしっぽとか蛙の干物とかあるのかと思いました」
なんか少し残念だ。
「ガッカリさせたかな。済まないね。特殊な魔法や魔法陣を使う時の媒体や魔石などは厳重に保管してあるから。ここにはないかな」
「そうなんですねー」
そっか。魔石とかが無造作に転がってたら、危ないのかもね。わからんけど。
そして気になってた小さな窓もちゃんと明かりとりの役割もしているらしく、部屋のなかは割と明るい。
「小さなレディ」
呼ばれて振り返ると、ヒースが真面目な顔で立っていた。
「小さなレディ。とても頑張ったね。そしてすまない。何も力になれなかった」
「私もだ。結局ただ部屋にいるだけだった」
2人とも、ティティに向かって頭を下げる。
「いえ、とても心強かったです」
ティティは知っている。領主に責められた時に、2人は辛そうに顔を歪めていた事を。そしてティティが逃げようとしている時に、どうにもできないと唇を噛んでた事を。
今もこうして、親身になってくれている。ありがたい事だ。
「どうにか、丸く収まってよかったです」
うん。ざっくりだけど。まあ、捕まらなくてよかったね。
「小さなレディ、お城見学だけど、疲れたならここにいてもいいんだよ。どうする?」
「いえ、せっかくの機会ですから、お城の中を見てみたいです」
「そうかい! ならば、僕が案内しよう! まずは魔法士の訓練を見に行こうではないか!」
「はい!」
気持ちの切り替え大事。さっきまでは早く帰りたかったけど、お城の中をみる機会なんて滅多にないし、況して魔法まで見れるなんてラッキーである。
多少疲れたとしても見ておかなくちゃね。
ヒースとブリアはいい人です。