第112話 いつから?
「「「「なっ!」」」」」
誰もが眩しさに目をつぶる。
<<さがりゃ!! 愚かな人間どもよ!! 我の愛し子にこれ以上の無礼は許さぬ!>>
それは厳しくも懐かしい声。
目を開けると、そこには焼け焦げた絨毯とゴールデンシープ。
<<我の愛し子が、この地を救わんと助言を与えたと申すに、それをあだで返すとは何事ぞ!!>>
「国守さま?!」
ティティが驚きで叫ぶ。
<<そうじゃ。黙って見ておったが、もう我慢がきかなかったわ。もうよい! お主の慈悲がわからぬこやつら、この地など、滅んでしまえばよいのじゃ>>
国守さま、どうやらティティの行動を見守ってくれてたらしい。もしかしてティティが今持ってる、シルバーシープからもらった空間魔法がかかった鞄を支点にしていたのかもしれない。そしてティティが危なくなったところでゴールデンシープも助っ人によこしてくれたのか。
ゴールデンシープがティティに寄りそうように頭を擦り付けてくれる。
ドレスには合わなかったけれど、お守り代わりにと肩掛けカバンを持って来てよかったのかもしれない。まあ、国守さまはティティを認識してれば、何もなくても降臨くらいできそうだ。なんてったって御使い様だし。ちなみになぜティティが国守さまと呼ぶかというと、御使いさまと呼ばれるのがあまり好きではないようだからである。だからと言って、御名を呼ぶのも恐れ多い。なので、国守さまと呼ぶことになったのである。
「ゴールデンシープ!? ティティルナが申す国守さまとは、もしや我が国の御使い様、アマノリア様か?!」
神は人間に直接は慈悲を与えない。神の言葉はすべて神の使徒である御使いが代行する。
その為、この国、この大陸の東では、御使い様が信仰されている。
ブルコワが事の成り行きに青ざめている。
「まさか、ティティルナの話は、御使い様から聞いた話であったのか?!」
なんか勘違いしてくれてる。元魔王さまより聞いたと言えないから、沈黙を守ろう。
「そうか。そうだったのか。最初からそう申してくれれば、こんな無礼は働かなかった」
「少し考えればそして調べれば、私の人となりはわかったのではないですか? 親に捨てられ、この街に着いた時には、私はぼろぼろだった。それをこの街の人が色々助けてくれた。だから、助けたかっただけ。なのに」
一番触れて欲しくなかったところに触れた。
国守さまの介入で、少し平静にはなったが、やっぱりブルコワの発言は許せない。 ティティは領主を睨みつけた。
領主は深々と頭を下げた。
「申し訳なかった。謝る。どうか、もう一度話す機会をくれまいか」
「父上!」
美人さんが叫ぶ。
領主がこんな子供に頭を下げるのは、異例なのだろう。
だけど、違う。
私の言葉を信じたのじゃない、国守さまを信じたのだ。
そしてその庇護を受けているから、謝った。
ああ、なんか心が殺伐としている。ひねくれて考えてしまう。
<殺すか?>
スヴァが足元で怒りの籠った低い声で問う。
ゴールデンシープも身体を低くする。臨戦態勢である。
ティティは身体の両脇でぎゅっとこぶしを握り締めてから、力を抜いた。
「いい。誤解は解けたから」
スヴァとゴールデンシープの頭を撫でる。ここで争っても仕方がない。
本当は話し合いなどしたくないけど、街の優しい人たちは助けたい。
だから、少し我慢する。
そう思ったティティの頭をふわりと何かが撫でた。
<<いいこね>>
「国守さま」
見えぬ先を見つめる。きっと彼女は優しい顔をしているに違いない。
うん。争っても仕方ないよね。
<<近いうちに尋ねておいで。我が愛し子よ>>
それに頷くと。
ふっと、部屋を支配していた、力が遠のいた。
いつの間にかゴールデンシープも消えていた。
痕跡は焦げた絨毯の後だけだった。
ところで、私いつから、国守さまの愛し子になったのかな?
山場でした。国守さまお怒りの回。