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第111話 ああ、やっぱりか。くそっ

 領主ブルコワが軽く咳をして、ティティたちの前のソファに座った。麗しの君はそのソファの後ろに立つ。ヒースとブリアは扉付近に立っている。

 ブルコワは正装したティティを見て、少し目を見開いたが、すぐに顔を改め、口を開いた。

「私がここの領主ブルコワ=ガンデールだ。其方が此度の情報提供者か?」

 ティティは両手で軽くドレスの裾を持ち上げて、軽くお辞儀をする。

「はい。拝謁恐縮でございます。ティティルナと申します」

「うむ。其方はまだ子供だ。堅苦しい言葉遣いは無用だ。座れ」

「ありがとうございます」

 その言葉に騙されないぞ。

 堅苦しくなくてよいけれど、できるだけ丁寧にして間違いはないとイリオーネも言っていたからな。

 カシミールとイリオーネもティティに合わせて腰を下ろす。

「さて、今日呼んだのは、有用な情報をもたらした其方に直接褒賞金を渡したいと思って、ここに呼んだ」

「ありがとうございます」

「うむ。だが、その前に、人を通さず、直接其方から改めて話を聞きたいと思ったのだ。人伝(ひとづて)だと、漏れがある場合があるのでな。よいか?」

「はい」

 何をいまさら。拒否させてくれなかっただろうと言ってやりたいが、ぐっと我慢である。これも褒賞金の為だ。

「お主がこの街に来て、それほど日が経っていないと聞いている。そんな短い期間で、お主は冒険者となり、街やその周辺を見て回っただけで、この街が数年悩まされて来た大きな問題の解決の糸口を易く掴んでしまったらしいな。なぜ、わかった?」

 おいおい。前置きなしでいきなり核心かよ。

 この領主は実直で遊びがないらしい。

 うーむ。ジオル時代にここには一度来ているから、街の様子が変というのはすぐにわかったけど、なぜわかったのは、元魔王のスヴァの助言があったからだ。だが、それを言う訳にはいかない。口が裂けても言えない。

 これは、子供という強みを最大限にいかして逃げ切るしかないだろう。

「それは偶然としか言えません。冒険者として街の周りや湖の近くを歩いていた時に、ふと思い出したんです。知人が話してくれた魔物、植物スライムの事を。植物スライムは水中で水や大地を通してエネルギーを吸収する。その魔物がここの沢山ある湖にいたら、きっと草木が元気がなくなっていくだろうなって思ったんです」

「それで、確かめる為に、湖に潜って確かめてみたと?」

「はい」

「カシミールから聞いた話の通りであるな」

 だろう。それで納得してくれよ。マジで深い話なんてないんだからさ。

「して、その知り合いの名はなんという?」

「言えません」

「なぜだ?」

「その人と約束したからです。自分の事は誰にも言わないで欲しいと」

「その人物がこの騒動を引き起こした犯人につながる手がかりを持っているやもしれぬ。ティティよ。名を告げよ」

 ブルコワは事前に話した時のカシミールと同じ顔をしている。

 元々湖に植物スライムがいるのを知っていたのではないかと。つまりはティティを疑っている。

 それでもカシミールはティティが7歳の子供だからと、その疑問を飲んで動いてくれた。

 逆の立場だったら、ティティだって疑ってしまうだろう。

 説明した内容は、ほとんど真実である。ただ、気づいたのは、スヴァなだけ。

 ブルコワが言う通り、犯人につながる手がかりである人物をスヴァは知っている。けど、それは言えない。それを話せば、スヴァが元魔王であることなど話さなくてはならない。そちらのほうが信じられない話だし、収拾がつかなくなる。それに、犯人を調べるのは、お上の仕事だ。

 こちらとしては十分すぎるほどの情報を持ってきたのだから、それで満足して欲しいものだ。

 それ以上は、自分達でやって欲しい。

 そんな気持ちを込めて、返事をする。

「言えません。約束は破れません」

 ティティは譲れない気持ちを込めて、領主から目を離さない。

 どのくらい領主と見つめ合っただろうか。

 ティティの体から脂汗が、じわじわと滲みだす。

 ブルコワが口を開いた。

「それは通らぬ。この地に不和をもたらした人物を逃すわけにはいかぬ」

 あ、これだめか。

 私の知人、スヴァを、犯人扱いしてる。

「私の知り合いは、犯人じゃありません!」

 それは100パーセント違うと言える。

「違うと申すなら、其方に植物スライムについて話したその人間の名を申せ! 私が直接に問いただしてくれるわ! この地に喧嘩を吹っ掛けた事を後悔させてやるほどにな!」

「その物言いはあんまりではないですか!? 私は良かれと思って植物スライムの事をお話したのに!私の知り合いを犯人扱いするなんて! 話した事を後悔させないでください!」

「言わぬと違う意味で後悔することになるぞ!」

「領主さま! 無理にとは聞かぬとのお約束ではなかったですか! これほどに言えぬと言っているのです、どうかご容赦いただければ!」

 カシミールが恫喝するブルコワに、思わず口を挟んだ。

「だまれ! これはこの領地にとって一大事のことぞ! この地に厄災をもたらしたものに天誅を食らわせねばならぬのだ! 口を挟むな!」

 カシミールがぐっと唇を噛む。

「ティティルナ! そなたに植物スライムの事を話したのは誰だ! 言え! 言わなくば、其方も同罪ぞ!」

 横暴! 約束破り! やっぱお貴族様なんて平民との約束なんて守らなくていいと思ってんだな!

「お言葉ですが、同罪とはあまりでございます! 私まで犯人扱いするのですか! 私はまだ7歳でございます! この地に異変があったのは2、3年前と聞いております! その時私は4、5歳です! そんな小さい私に何ができた言うのですか!」

「うるさいわ! 7歳と申すが、これだけ言われて、物おじせずに、反論できること自体が怪しい!」

 あ、しくったか。中身は合計20歳過ぎだからな。それに魔王討伐したせいか、なまじのことじゃブルったりしなくなったんだよな。冷静に対処しすぎたか。

「大方、親にでもそそのかされて、片棒を担いだのだろう! 植物スライムの事は、親から聞いたのか? 親が犯人の一味なのだろう! 親はどこだ!」

「っ!」

「ブルコワ様!」

「領主さま! それはあまりにも無体な言葉でございます!」

 それまで黙っていたイリオーネが抗議の声を上げる。

「‥‥その方がよかった」

「なに!?」

「その方がよかった!! 捨てられるよりも、悪事にでも利用されるほうがどんなによかったか!」

 ティティの目から涙が流れる。

 これはティティの痛み。傷だ。

 それでもジオルの心も痛い。

 痛みで息が止まりそうだ。

 ブルコワはティティから情報を引き出そうとして、わざと親の事を持ちだしたのかもしれない。

 きっと調べて、ティティが親に捨てられたのは知っているだろうから。親の事に触れれば、きっと動揺して情報を漏らすだろうと。

 頭ではわかる。けれど、その方法はあまりにもひどすぎだ。

 ティティはすっくとソファから立ち上がった。

「もういいです。お金もいりません。帰ります」

「このまま黙って帰すと思うか!」

「帰ります! もうここに一瞬だっていたくないっ!」

 床を蹴って、身体を逸らし、ソファの背もたれに手を付いて、ソファの後ろに着地する。ソファの後ろは大きな窓。

「窓から逃げるつもりか。ここは3階だぞ。飛び降りれば死ぬぞ」

「そのほうがましです! これ以上侮辱されたくありません!」

 はったりである。死ぬ気なんて一切ない。引いてくれるかもしれない。それに賭ける!

「やらせるな!」

 ブルコワの叫びに扉の近くに待機していた騎士が動く。

 スヴァが唸る。

 ダメか!

 と、その刹那、轟音とともに、鋭い光が落ちた。

111、ぞろ目。ここまで来ました。

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