第110話 入り、間違えたっぽい
ヒースとブリアに連れられながら、城の廊下を進む。
わあ、やっぱ場違い感、半端ない。
ちらりと隣を歩くスヴァを見ると、堂々としている。物おじしてない。
まあね。魔王城の元主様だもんね。
お城なんて慣れていらっしゃるよね。
カシミールもイリオーネも平然としている。
ここで舞い上がってるのは、ティティだけである。
うう。いじけてなんかないッ!
そんなどうしようもない事を考えている間に、どうやら会談が行われる場所に着いたようだ。
扉の前には、ガタイのよい騎士が2人。
それに頓着する事なく、ヒースはノックを一つして部屋へと入る。
それに続き、ブリア、カシミール、イリオーネ、ティティ、スヴァが後に続く。
「わあ」
思わず声が出てしまうほどにゴージャスな部屋だ。
無駄に広い。何人で話し合いすんだよって思ってしまうくらいの広さだ。
ちゃんと来客を迎え入れる為の部屋である。この部屋を見ると、犯人扱いはされてないのかなと思う。
領主さまは部屋にはいなかった。
そっか。偉い人は最後に登場ってやつか。
納得して、促されるままにソファに座る。
ちなみに3人掛けのソファに奥からカシミール、ティティ、イリオーネの順だ。
スヴァはティティに足元にちょこりと座る。
ローテーブルを挟んだ同じく3人掛けのソファに領主さまが座るんだろう。
しっかし、座り心地抜群の布製のソファ。刺繍ががっつりでお高いんだろうなと思う。
お貴族様はやっぱ金持ちだ。
間違っても、お茶を零さないようにしないと。
絨毯もふっかふっかで靴が埋まるよ。
よかった。新品の靴だからね。汚すことはないよ。
弁償なんてできないからね。
<お主、余裕だな>
ティティの思考を読んだのかシヴァの心話がぼそり響く。
<あ! 無断で考えを読むなよな!>
<ふん。読むつもりでなくても駄々洩れてくるのだ>
<そうなの? なら仕方ないか>
魂が繋がってるらしいから、そういう事もあるのか。
<お主、騙されやすいと言われた事はないか?>
<なんだよ! うそかよ!>
<さあな>
そんなやり取りをしていると、扉が開いて2人の人物が入って来た。
1人はごつい体つき顔つきの壮年の男だ。目つきも鋭い。強面の顔に口髭顎鬚があるため、余計に怖い。おそらくこの男が領主のブルコワ=ガンデールだろう。国の盾でありつつも、領民のことにも心を砕く、貴族には珍しいよい領主で知られているらしい。その後ろについて来るのは二十歳前後の青年。長い艶やかな黒髪はハーフアップに結われ、少し細身の肩に流れている。どこか異国を感じさせる切れ長の深い海色の瞳は神秘的で。その尊顔は傾国の美姫といってよいほどに麗しい。
「うわああ! すごい美人さんだ!」
時も場所もわきまえず、思わずティティは叫んでしまう。
途端、部屋の温度が急激に低下した。
な、なんだ。寒気が。そして褒めた相手から向けられる、極寒にいるとされる白いクマの魔物さえも凍るような眼差し。
これは。アウトかもしれない。いや、完全にアウトだ。
<あう。俺やっちまったか?>
麗しの君は完全に不機嫌で、敵意さえも感じる。
領主さえも、顔が強張っている。
「これは、お褒めいただき、ありがとうございます。とても私の顔が気に入ったようですね」
「あ、いえ、あの」
美人さんの冷えた笑みを見るに、ティティは最初の一歩を完全に間違えたようである。
どうすれば、この凍てついた雰囲気を回復できるのか。
口は禍の元。それが分かっていても治らない。
「敵を増やしてどうするの! そのおバカなお口を閉じてなさい!」
イリオーネがそう囁きながら、すっと立ち上がる。
それに倣い、慌てて立ち上がりながら、冷や汗ぼたぼただ。
なんだよ! あの兄ちゃん、容姿にコンプレックスがあるなんてわかんないっての!
そんな重要なこと言っといてくれないと! 美人になんの不満がある!
ティティというか、ジオルは可愛いもの、綺麗なものは大好きだ。それは人間も含まれる。男女関係なくである。
それを素直に表現しただけなのに。
子供の言う事だぞ。さらりと流してくれよ。
ティティの視線の先の青年の瞳は氷点下である。どこまで下げるつもりだ。
助けを求めて、ドア付近に立つ、ヒースとブリアを見やるも、軽く首を振られてしまった。
処置なしか。
ああ、もう別嬪さんとはお近づきになれないか。
まあ、いい。
ここに来たのは、褒賞金を貰いに来ただけなんだから。
さあ、ここから仕切り直しだ!
うん、できるよね?
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