第109話 見てろっ!
「うわあぁ。お城ですねえ」
「なんだ?その感想は」
カシミールが首を傾げる。
いや、王城よりは小さいとはいえ、やはり、辺境伯の住まいは城だ。その城、馬鹿デカい。
もっとよくみようとティティは馬車の窓にへばりつく。
優美さはかけらもない堅牢な城だ。流石国境を守る要の城である。
「そんなにへばりつかないで。顔に変な跡が付くでしょ」
イリオーネから注意が飛ぶ。
<遅かったな>
スヴァが呟く。
遅かったか。どうか城に着くまでにとれますように。
にしても、この城の主とこれから渡り合わなければならないのか。
無理でしょ。7歳の少女に何させるねん。
情報が確かなんだから、それを素直に受け止めてくれればいいじゃん。
犯人は別よ。ぶっちゃけ、この会合無駄なんだから。
そう内心で愚痴っている間に馬車は城の入り口に着いた。
「待ちなさい」
「ふえ?」
止まったと同時に席を立とうとすると、イリオーネにとめられる。
「今日は貴方が主役なんだから、一番最後。ゆったりと出るの。昨日の所作覚えているわね」
そう言いつつ、イリオーネの目がぎらりと光る。
「はい!」
イエッサー隊長! と叫びたくなるのをぐっと堪える。
それに苦笑しつつ、カシミールが先に出る。
ついでイリオーネ。ちなみに2人の服装もギルドの制服のお貴族さまとの対面用の服だ。つまりは正装に近い。カシミールはグレイのパンツに白いシャツ。それに丈の長いグレイのジャケット。イリオーネは上下揃いのグレイのパンツスーツである。
「ティティ」
カシミールに呼ばれて、席を立ち、馬車の入り口に立つ、下に視線を向けると、カシミールが手を差し出している。
その手にそっと自分の手をのせて、しずしずと降りる。
その後ろでスヴァが地面に飛び降りる。
なんか、場違い。早くも帰りたい。顔の跡取れてるよね。
と、そこで、その気持ちをぶった切るような能天気な声が響いた。
「やあやあ! これはまた素敵なレディに大変身だね! 姫君と呼んだほうがいいかな?」
その声に視線を上げると、そこには一昨日知り合った魔法士の2人。
ヒースとブリアである。
知り合いの顔を見ただけで、ティティの肩から少し力が抜けた。
「先日はお世話になりました」
「いや! こちらこそとても有意義な出会いだったよ。姫君」
そう言って、ティティの片手をとって、口を近づける。
その気障なしぐさが似合う。
「ごめんね。結局来てもらう事になってしまって」
その隣で生真面目なブリアが小声で謝ってくれる。
「いえ」
この2人は最善を尽くしてくれたはずだ。
元はといえば、自分が蒔いた種である。
自分で摘み取らなくてはならないという事だろう。
「せめて緊張がとけるように、ご領主さまの元までエスコート役を買って出たのさ! 見知らぬ者が案内するよりかはいいだろう?」
どこまでも明るいヒースがウインクをしてよこす。
「はい」
「うむ。僕らも君との話し合いの場に同席を許されたから、安心しておくれ」
「許されたというより、ダダをこねたの間違いでしょ?」
ブリアがぐさりと差す。思わず笑ってしまった。駄々をこねるって、子供に使う言葉じゃないのか。
軽く茶化して言ってくれてるけど、無理してくれたんじゃないだろうか。
胸がほわっと暖かくなる。
そうだ。イリオーネだって、カミオだって、マージだって、皆手を尽くしてくれている。自分も出来る限りのことはしよう。
そしてこんな思いをさせた、領主から、自由とそしてできるだけ沢山の褒賞金をもらう。
ティティはここに固く決意した。
見てろ!領主め。
お城ってよいですよね。