第108話 ドナドナドーナドーナー
2時間後。
イリオーネとカシミールを乗せた馬車が、宿に迎えにやって来た。
その頃精神的にかなり疲弊したティティとスヴァがホテルの玄関ホールで椅子に沈んでいた。
これから領主さまと対峙を控えて、この疲労具合、大丈夫か私。
「さ、いくわよ」
その声に促されるように、馬車に乗り込んだティティは窓から、宿の玄関先を見る。
そこには、カミオとマージがやり切った感をありありと出しながら、にこやかに手を振っている。
なにあれ。なんか、すっごい艶々してるんだけど。私とスヴァのエネルギー吸い取られたかって思うくらいである。それでも感謝の気持ちを込めて手を振る。応援してもらってるんだもんね。彼女らに悪気はないのだ。
馬車はそれが合図だったかのように、ゆっくりと動き出した。
「ぐう」
およそ7歳の少女が出す声とは思えないほどの低いうめき声をあげながらティティは、馬車の背もたれに身体を預ける。
「なんなの。その疲れた顔は。これからあなたの正念場なんだから、しっかりなさい! ほら、背筋を伸ばして!」
イリオーネの叱咤が飛ぶ。
「わかってます! 城に行くまでは見逃してくださいよ! ごしごしやられてぐったりなんですよ!」
「だめよ! ドレスを着たら、ピンとしてなさい!」
「わかりました」
確かに切り替えは大事だからな。もう敵陣に向かっているのだ。しゃきっとしてなければならないか。
「ちゃんと朝ご飯は食べたの?」
「食べましたよ! がっつりと! そうでなきゃ、この程度の疲れで済んでませんよ!」
<まったくだ>
スヴァもティティの足元に蹲り、同意を示す。
「そんなに? 綺麗になるの、楽しくなかった?」
「他の女の子が着飾るのを見るのは楽しいですけど、自分だとそうでもなかったです」
「変わってるわね」
中身は男ですからね。
心はまだまだ少女していません。
「ならば、切り替えなさい! カミオとマージが頑張ってくれたおかげで、平民の低ランク冒険者には見えないわ。小さいアドバンテージかもしれないけれど、それが重要なのよ」
イリオーネの隣でカシミールも頷いている。
「わかってます。ですから、この服を買い求めたんですから」
今ティティが身に着けているのは、臙脂のドレスだ。キリッとした雰囲気だが、品もある。
髪は瞳に合わせた金色のリボンが飾られている。
「着られている感はないわね。こういった服着るの初めてなのよね?」
「はい」
ジオル時代は王城に上がるのに、正装した事はある。ドレスではないが。それが役立っているのかもしれない。
「そう。ちゃんと着こなせてる。可愛いわ」
「ありがとうございます」
「さあ、気を引き締めてね。状況は貴方に不利なんだから、それをせめてプラス1に、いえ、贅沢は言わないわ、無害な0にしなくてはならないのよ。覚悟はいい?」
「おい! イリオーネ!」
カシミールが慌てたように叫ぶ。
「イリオーネさん、そこまでぶっちゃけちゃいますか?」
ティティも顔を顰めた。やっぱそうなんだ。
「ここまで来て嘘を言ってもしょうがないでしょう。ちゃんと考えてから話しなさいね」
存外にしゃべりすぎるなと釘を刺されているようだ。
「わかりました。最善をつくします」
まったく7歳の少女にどこまで要求する。
そしてこんな小さい子を疑う領主め。落とし穴に落ちてしまえ!
「イリオーネも私もできるかぎり、お前を守るつもりだ」
「ありがとうございます」
そうそうこういった言葉が必要なのだよ。ギルド長わかってるね。
「通常ギルド長の言葉に耳を傾けてくれる方だけど、この件ではさてどうかしら」
イリオーネよ。なぜそのような不吉な言葉を口にのせる。
「わかりました。しっかり気を引き締めます」
背筋をすっと伸ばした。
「そうよ。かましなさい!」
イリオーネさん、あんたは俺をどうしたいんだよ。
交渉をうまく終わらせたいのか、喧嘩をさせたいのか。
ティティは領主の前に、副ギルド長のイリオーネに頭を悩まされるのだった。
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