第107話 ヘルプっ!
みっちりと礼儀作法を仕込まれたティティは、クタクタで宿に辿り着くと、夕飯を食べてベッドに倒れ込んだ。
翌朝。いつものティティであれば、夜明けとともに目が覚めるのだが、精神的疲労からか全く目覚める事がなかった。
そんなティティの耳に鋭いノックの音。
「誰だよ、ティティはまだ寝てます」
と、無視して布団をかぶっても、ノックは鳴りやまない。
「おい、出た方がよいぞ」
スヴァにも促され、渋々ベッドから出て、誰何したところ、カミオとマージだった。
慌ててドアを開けたところ「お邪魔しますね」の言葉とともに、2人はずかずかと部屋に入って来て、うむを言わせず、ティティを風呂へと連行した。
「あ、あの!これはいったいどういう事ですか?!」
目を白黒しながら、ティティは叫ぶ。
その間も、マージが腕まくりして、ティティの服を引ん剝く。
「ふふふ。完璧な淑女に仕上げてこいとのイリオーネさんからの命令なの。覚悟してね?」
腕まくりしたカミオが、お湯を用意し、何やら持ってきた小瓶を並べ始める。
なんか、いやな予感が。
「私たちにすべて任せるにゃ! ティティはじっとしてればいいにゃよ!」
確かに、領主に会うのにみすぼらしい格好をしていたら、引け目を感じて、交渉もうまくまとまらないだろうとの思いから、上等の服を買った。
けれど、ここまでする必要はないだろう。
ティティは抵抗を試みた。
「カミオさん、マージさん、大変、たいっへん!ありがたいんですが、ここまでする必要はないかと思います! 私は貴族令嬢ではありません! 平民の女の子なんですからっ!」
浴室で泡だらけにされながらも、叫ぶ。
「何を言ってるのですか! ご領主さまにティティちゃんの良さを分かってもらう為には、全力を尽くすべきです!」
「そうにゃ! 尽くして損をすることはないにゃ!」
どうやら、2人はある程度、ティティの置かれている立場をわかっているらしい。
それで、一文の得にもならないのに、こうして朝早くから来てくれている。
ありがたい! が、逃げたい!
<スヴァ! 助けてくれ!>
風呂場をそっと覗いているスヴァに縋るような視線を向ける。
スヴァはそっと視線を外す。
<諦めろ。こうなった女性には、歯向かえないのだ>
なんとも実感の籠った言葉だ。
と、そんなスヴァを見つけたマージ。
「あ、スヴァちゃんもしっかり洗っておめかししないとね」
そういって、マージの手がスヴァに伸びる。
<!>
一瞬で毛を逆立て、逃亡を試みるスヴァだったが、一歩遅かった。
がっしり前足を掴まれ、ずるずると洗い場に連れて行かれる。
<ティティ! 助けろ!>
<スヴァよ、先にお前に告げられた言葉を贈ろう。‥‥‥諦めろ>
こうしてティティとスヴァは、女性2人にしっかり磨かれ、ギルドの馬車が宿に迎えに来るまで、完璧に支度を整えられたのだった。
チーン。
おしゃれは大変ですよね。