第106話 ハーブ採りの方がいいっ
ティティの乾燥ハーブ作りはどうやら延期になりそうだった。
翌日の早朝、宿に冒険者ギルドから使いが来て、冒険者ギルドへと連行された。
そして今いるのは、ギルド長の部屋である。
目の前にはカシミールとイリオーネだ。
カシミールが重々しく口を開いた。
「明日、城に出頭することになった」
「誰がですか?」
「お前だ」
わかってます。そう睨まないでいただきたい。
ちょこっと確認しただけじゃないか。
「そうなんですね。やっぱりさけられなかったですか」
「すまんな。私も粘ったのだが、やはり、お前の名前を出さずにはすまなかった」
カシミールの隣に座るイリオーネは苦虫を噛んだような顔をしている。
「はあ。仕方がないですよね。それも報酬分と割り切るしかないですか」
「そうだな。そう思ってくれるとありがたい」
「それで領主さまの感触はいかがですか?」
やっぱり私を犯人の仲間と疑ってるんですか?
と直接に聞きたいが我慢する。
「うむ。領主さまはとても聡明ではあられるが、この件については少し固い」
「喜んではくだされなかったんですか?」
「もちろん、最初はお喜びになられた。けれど、話が進むうちに、難しい顔をされてな」
あー、これは、悪い方向へと転がってるな。
「なんか、行きたくないです」
「行かないですませられん。余計に疑われるし、強制連行される」
「あー、そこまでなんですね」
やっぱ、言うんじゃなかったかなあ。でもなあ、みんな困ってたし、知ってて黙ってるの辛かったしなあ。
「わかりました。それで、いつ連行されればいいんですか?」
「明日の午前中だ。褒美を渡す前に、話を直接聞きたいとの要望だ」
報酬を盾にとられたか。
「ものは言いようですね」
「そう言ってくれるな」
「すいません」
そう言いつつも、ティティの口が尖る。少しぐらい愚痴らせてもらってもばちは当たらないよね。
「決まってしまったものは仕方ないわ。昨日早めに動いておいてよかったわね。貴方の服は今日の夕方出来上がってくるとの事だから、間に合うわね」
イリオーネが口を挟む。
「そうですね。すぐに動いてよかったです。あ、イリオーネさん、助かりました。昨日お礼を直接言えなくて、すいません」
「いいのよ。そんな事は」
「服? なんの話だ?」
「はい。実は昨日話した感触から、呼び出しになる可能性がかなり高いなあと思いまして、新しい服を新調したんです。ほら、領主さまに会うなら、ある程度体裁を整えた方がいいかと思いまして」
「なるほどな。小さいのにそこまで頭が回るか」
カシミール、なんか口調が褒めてない。だって、格好で引け目を感じたら、対等に話せないだろう。見かけで判断するのが大方だからな。特にお貴族さまはな。あ、この考え方が7歳の考えじゃなかったか。もう面倒臭いな。
ギルド長にまで気を配ってらんないよ。話を変えよう。
「それにしても、どうして呼び出しが今日ではないんですか?」
話しの雰囲気からしてすぐに出頭してこいっていいそうなのに。それほど、急いでないのかな?
それであれば、事態は深刻ではないのかも。
「お前の話の裏付けをとるのに、一日時間を取ったんだろう」
「なるほどですね」
ちぇ、違った。
「それはこちらとしても、丁度良かったわ。ティティ貴女今日、これからの予定は?」
「えっと、森へ行こうと思ってました」
スヴァに聞きながら、色々なハーブを採ろうと思ってたのだ。味変。これ大事。
「それは依頼で?」
「いえ、私個人で欲しいものがありまして」
「なら、それは後回しね」
「は?」
な、なぜだ。私には重要なのに!
「ティティ貴女ドレスは着た事ある?」
「ないです」
ジオル時代もない。当たり前だ。男だったんだからね。
「なら、ドレスでの歩き方や、所作、ご領主さまへの挨拶など、即席だけど、今日一日みっちりと仕込んであげるわ」
「ひい!」
イリオーネの顔が怖い。
「あの、それは大変ありがたいですが、忙しいイリオーネさんのお手を煩わせるのはいかがと思いますので。私平民ですし、まだ7歳ですし、そこは適当でも‥」
お断りをと言いかけたところで、
「これも武装と思いなさい。どうせなら、とことんよ」
ぎらりと目を光らせ、うむを言わせず畳かけられた。
「はい!」
隊長殿! 思わず敬礼したくなりそうになった。
楽しいハーブ採集の一日が、みっちりと行儀作法の訓練に変更になった瞬間だった。
礼儀作法って身につけておくといいですが、大変ですよね。