第104話 おお! 少年っ!
カミオに連れられて向かった食堂は、冒険者ギルドにほど近い、こじんまりした食堂だった。
そして特徴的なのが、圧倒的に女性客が多い。
その為か、店の中が小ざっぱりして、さほど気を張らずにリラックスできる雰囲気をしていた。
店自体男子禁制ではないのであるが、店を開けた途端、男ならあまりの居心地悪さに、思わず回れ右をしてしまうだろう感じである。
ティティはもちろん子供であるし、女子なのでなんの憂いもなく、カミオについて、テーブル席についた。
するとすぐに元気のいい女子店員が近づいて来た。
「いらっしゃい! 今日はいいアマコが入ってるよ! どうだい?」
「わあ! それはよいですね! ティティちゃん、とてもよいお魚が入ってるようです。それでどうですか?」
「はい。大丈夫です。店員さんおすすめなら間違いないですから」
「おや、嬢ちゃんわかってるね! 後悔させないよ! 少し待ってなね。すぐに持ってくるから」
店員のお姉さんは、ティティにウインクすると、厨房に注文を伝えるべく、カウンターに引き返していった。
初めて入った店。カミオもいるので、気負いなく周りを見回す。
「あ!」
と、壁に一人の少年の肖像画を見つけて、ティティは思わず息を飲んだ。
その声に、カミオがティティが見ている方へと目を向ける。
「あんまりカッコいいから、思わず見とれちゃったかな」
「えっと。はい。あの、彼は?」
「ライアン=マクドーニ様よ。魔王を討伐した英雄様なの。ティティちゃんは聞いたことないかな? 勇者が不在の中、弱冠11歳で討伐隊に加わり、魔王を倒した立役者よ」
「ふへ。そうなんですね」
なんか変な声出てしまった。ジオルが死んだ後、そんな風な話になってんのか。
「お元気ですか? 立派になってますか?」
「もちろんよ! どうしてそんな事を聞くの?」
やばい。変な質問だったか。つい一番気になった事が口をついてしまった。
だって、ジオルの心残りだったから。どうか生きて、生き延びて欲しいと死ぬ寸前まで思っていたのだから。
「あの、魔王を討伐したって言うから、お怪我とかしなかったかなって考えちゃって」
「大丈夫! ライアン様は今でも、魔物討伐を続けられていて、王国を守っているわ」
「そうなんですか」
あまり危険なことをしてないといい。結構頑固者で無茶をする真面目な奴だったからな。
ともあれ、元気で生きているとわかって一安心である。
7年経ってジオルの年を飛び越えてしまったか。
ティティはそんな思いを込めて、壁の肖像画を見つめた。
どんな大人になっているのか。
間違いなく美青年になってるだろうな。
できれば、一目会いたいものである。
「お待たせしました~!」
その声とともに、ティティの前にパン、具だくさんのスープ、焼き魚、根菜の煮物がどんとおかれた。
足元にいるシヴァの大皿、椀にも同じものがのせられている。
「ふおおおおお!」
思わずティティの口から感嘆のため息が漏れる。
なんと素晴らしい眺め! そして香りだ!
「さあ、いただきましょう!」
カミオの前にもティティと同じものが置かれている。
「はい!」
その声に元気に返事をして、まずはスープを一口。
「ふああああ!」
身体に染みわたるうまさである。
優しい味だ。
次はすかさず焼き魚へと手を伸ばす。
表面はぱりっとやけているが、身はほっこりしている。
「それは湖でとれるアマコよ。さっぱりしていて美味しいでしょ?」
「はい!」
「以前はアマコもよく採れたんだけど、今はめっきり取れなくなってしまって。今は国境のキシュミール湖でしか採れなくなってしまって。今日食べられたのはラッキーだったわ」
「そうなんですね」
植物スライムの影響がこんなところまで現れているのか。
このアマコが自由に食べられないなんて辛すぎる。
これは早急に改善しなくてはならないだろう。
ああ、この根菜の煮物も味が染みていて旨い!
「気に入ってくれたみたいね」
「はい! 大満足です!」
今いる食堂は、冒険者ギルドにほど近い。何より嬉しいのは、客層が圧倒的に女性であること。
その為、夕方でもティティ1人でも入れるかもしれない。
「うふふ。よかったわ。ここはわりとヘルシーなメニューが多いから、女性客が多いの。それに店のマスターが元冒険者だから、荒事が起きても素早く対処してくれるわ。ティティちゃんも安心して来られると思うわ」
なんと! やはりカミオは天使だった。
そこまで考えて、この店をセレクトしてくれたとは。
「ありがとうございます! また来たいと思います」
本当ありがとう!
「こちらはテイクアウトもできるでしょうか?」
「多分大丈夫だと思うけど、これだけじゃ足りない?」
「いえ! 今は十分なんですけど、私、お腹すくの早くて。できれば夜食に買って帰りたいなと」
「あはは。そうなのね! 大丈夫! 食べてる間に作ってくれると思うわよ」
おお!! やった!
「わかりました! すみませーん! おねえさーん!」
ティティは元気よく店員を呼んだ。
そしていそいそと鞄から大きな容器を取り出すと、店員に渡した。
スヴァ! これで夜食もうまいもんが食えるぞ!
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