第103話 まだまだ、色気より食い気っす
数時間後。
アルテ率いるお針子たちとそれにカミオも加わって、あーでもないこーでもないとの議論が延々と続き、いつ終わるともしれない忍耐の時間がようやく終わりを告げた頃。
ティティはげっそりとやつれていた。
「ティティちゃん女の子なのに、綺麗な洋服には興味はないのかしら?」
カミオは不思議そうに首を傾げる。
「今まで、そういった機会もなかったですから、とまどいが先に立ってしまって」
「そう? これからはおしゃれを楽しんでいいのよ」
「そうですね。ハハハ」
うん。ティティを可愛くすると思えばいいのかもしれないが、今のところは洋服には興味は惹かれない。
まあ、そのうち身体に引っ張られて興味が出てきた時に楽しめばいいだろう。
今は食い気が優先だ。
あー。お腹空いた。
「私、何を選んでよいかわからなかったので、決まってよかったです。カミオさん、そして皆さん助けていただきありがとうございます」
「いいのですよ! これもギルド職員としての勤めでもありますから! 存外に役得でもありました! ティティちゃんの洋服選びはとても楽しかったですから」
「わたくしどもも、ティティ様のお役に立てて、恐縮でございます」
皆、満足そうに頷いてくれている。
値は張りそうだが、ティティとしても満足できるものが手に入ったと思っている。
「細かい調整が必要なので、出来上がりは明日の夕方になると思います。出来上がりましたら、お届けにあがりますか?」
「できればお願いしたいです」
ティティは宿泊している宿の名を告げた。
こういう時に、高い宿に泊まっていてよかったと思うぜ。
「かしこまりました」
届けてもらうので、服一式の値段に少し色を付けて、支払いした。
結構な出費だったが、これは必要な出費である。
これで気おくれせずに、望めるだろう。
ティティは満足して、カミオとスヴァとともに店を後にした。
「はあ」
店を出た途端ティティの口から思わずため息がもれた。
それを聞いたカミオがくすりと笑う。
「緊張しましたか?」
「はい。こんな立派なお店に入るのは初めてだったので」
「それにしては落ちついているようにみえましたよ」
「おっしゃる通り、見えただけです」
ジオル時代に1回くらいはこういった高級なとこに入ったが、やっぱ緊張するよな。
おまけに、着せ替え人形になっていたので、特に疲れた。
本来のティティならば、この状況を楽しめたのだろうか? 女の子だしな。
それにしても。
ティティはお腹に手を当て、視線を落とす。
はーらーが減った。
ちらりと更に下に視線を落とす先で、スヴァと目が合う。
少し眦が下がっているように見える。
彼もまた同じ思いのようである。
うむ。一刻も早く腹を満たさねばなるまい。
そして折角カミオと外出しているのである。
この機会を逃す訳にはいかない。
そう! 夕方であってもカミオが一緒ならば、食堂で夕食しても大丈夫だろう!
いや、まてよ。
カミオも可愛いから、逆に危ないか? いやいや、かりにもカミオもギルド職員である。ある程度の護身術を身に着けているに違いない。
そう信じるぞ! 揺るがなく100パーセントで!
だって、もうお腹が我慢できないのだから。
ちなみに馬車は返してしまったので、帰りは徒歩である。
「カミオさん、この後、急いで帰らなければなりませんか?」
まずはカミオの今後の予定を確認する。念のためだ。急ぎギルドに戻らなければならないのなら、断腸の思いで諦める! くう!
「冒険者ギルドに戻って報告しなくてはなりませんが、急ぎではないですね。疲れたなら、どこかで休んでいきますか?」
なんと! カミオは天使か?!
「はい! あの私すごいお腹がすいてしまいまして、できれば、夕食をお付き合いしてもらえないでしょうか?」
お願いだ。うんと言って欲しい。
「まあ。緊張してたと思ったら、今度はお腹がすいてしまったのですか?」
カミオがコロコロと笑う。
「えへへ。できれば、カミオさん、おすすめの食堂を教えてもらえたら、嬉しいです」
本当頼むよ。
「私、昼間は採集で街にいないし、夜はちょっと危ないかなっと思って、あまり食堂に行った事がないんです。今日はカミオさんが一緒だから今からでも行けるかなって思って。だめですか?」
頼む。いいって言ってくれ。
「いいに決まってるじゃないですか! わかりました! 私が良く行くおすすめの食堂に行きましょう!
カミオは一瞬へにゃりと眉を寄せた後に、力強く宣言してくれた。
「ありがとうございます!」
やった! 喜べ! スヴァ! うまいもんにありつけるぞ!
ティティは先程の疲れが吹き飛んだように歩き始めた。
さあ、いざいかん! 癒しの食堂へ!
洋服買うのって、体力要りますよね。