第102話 ひい! お手柔らかに!
「いらっしゃいませ」
貴族が多く住む街区に入り、少し馬車で進んだところにその店はあった。
今のティティの服では、到底一人で入るには尻込みしそうな店構えである。
ジオル時代でも、高級服店など縁がほとんどなかった。ジオルは孤児であり、城から招集がなければ、王族や貴族などとは付き合いなどなかったであろう。
けれども、その経験があるからこそ、今逃げ出さずに踏ん張れているのである。
そして心強い味方、ギルド職員のカミオが一緒だからである。
そのカミオも、冒険者ギルドの受付にいる時の制服よりもワンランク上の制服で着ているっぽい。
見た感じギルドの制服だが、見栄えが数段上がっている。
おそらく領主や貴族と対応する際に着る制服なのだろう。
「こんにちは、パリオールさん、今日はこちらのお嬢様の服を買いに来ました」
ティティが何か言う前に、カミオがずいと前に出て、店主と対応してくれる。
ありがたい事である。
「こちらの小さなレディのですか?」
バリオーニさん、グレイの髪を後ろになでつけたスマートな紳士である。
「ええ、まずはこちらをお読みいただければと」
カミオがイリオーネが書いた書状を渡す。
「拝見いたします」
パリオーニがその場で目を通す。
「なるほど、かしこまりました。お任せください」
パリオーニが力強く頷く。
「ありがたいです。服は明日明後日にと早急に必要になりますので、一から作る時間がありません。この子の身体に合う、既成の服で、かつこの子の力になるような服をお願いしたいのです」
カミオも大体事情を聞いているらしく、更に説明を加えてくれる。
「それはまた難しい注文でございますな」
「イリオーネさんは、貴方ならばと見込んで、ここに来たのですけれど、無理でしょうか?」
「いえ、そのようなお言葉をいただいて、できないとはこのパリオーニ、申せません。何とかしてみましょう」
「ありがとうございます」
カミオがにっこりと笑う。
どうやら、交渉は終わったようである。ティティが説明する必要が全くなかった。イリオーネ万歳。
ティティには細かい注文などない。
ジオル時代でも服には頓着がなかった。
可愛い恰好の女の子、スマートなカッコいい人を見るのは大好きだが、自分がそうしようとは思わないのだ。平々凡々な自分を知っていたからである。
領主の前で物おじしない服であれば、文句はない。
そうティティが考えている間、パリオーニはじっとティティを吟味している。
ごめんな、パリオーニさん。俺はティティ可愛いと思うけど、客観的にみて、ティティの顔は平凡である。着飾らせがいがないかもしれない。
それでも頼むよ。領主に圧し負ける訳にはいかないのだ。
「アルテ」
パリオーニの後ろに控えていた女性が一歩近づく。
「はい」
「聞いていたね。こちらのお嬢さんに必要な服を」
「かしこまりました。さあ、お嬢様こちらに」
「えっ、ええ?」
さりげないエスコートで、奥へと連れて行かれる。
助けを求めて、後ろを振り向くが、そこには手を小さく振るカミオとその横にちょこりと座るスヴァが。
どうやら一人で立ち向かわなければならないらしい。
覚悟はしていたが、もうすでに逃げ出したい。
「さあ、お嬢様。まずは身体の寸法を測らせてくださいませ」
奥の小部屋に連れ込まれたティティの前には、アルテのほか、2人のお針子がメジャーを持って、ティティを見下ろしていた。
ひいいいい。
思わず顔がひくりと引きつる。
しばらくは忍耐の時間が続きそうな予感。
ティティは軽く絶望した。
ああ、どうか、どうか。早くおわりますように。
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