第101話 ならば、武装しよう
再び冒険者ギルドに戻って来たティティは、すぐにイリオーネの姿を探す。
カウンターにはイリオーネの姿はない。ギルド長が城に行っていて不在の為、忙しいのかもしれない。けれど、相談できそうなのはイリオーネしかいない。
カウンターにいたカミオに、本日2度目の呼び出しをお願いする。
すると、カミオはギルド内に素早く目を走らせると、カウンターを開けて、ティティを中へと通した。そして、ティティを連れて奥へと歩いて行く。
なるほど、先程イリオーネが先回りできた理由がわかった。
上に通じる梯子があったのだ。
カミオに続き、スヴァを頭にしがみつかせて、上へと昇る。
「今、イリオーネさんは、ギルド長のお部屋でお仕事をしているのです」
3階まで登り切ると、そこは少し狭い部屋の片隅に出た。
どうやら、物置部屋のようである。
そこから出て、ギルド長の部屋へと向かう。
「1日に2度も表の階段を使って上の行くのは目立つので、職員用の梯子を使用しました」
「気を使ってもらって、ありがとうございます」
「いえいえ。お気になさらず」
カミオは何も聞かない。プロである。
程なくギルド長の部屋に着くとカミオがノックをして、中へと入る。ティティもそれに続く。
イリオーネはギルド長の席に着いて、書類をさばいていた。
やはりまだギルド長は帰って来てないようである。
そりゃ、まだそれほど時間も経ってないしね。
「副ギルド長、ティティちゃんが、御用だそうです」
「あら? また何かあった?」
一瞬の鋭いまなざしが怖いです。
「いえ、ないですが、ちょっと相談したい事がありまして」
「それでは、私はこれで」
カミオはすぐに引き返していく。
「そちらに座ってちょうだい」
イリオーネはさっきまで使っていたソファを示す。
それに促されるまま、ソファに腰を下ろす。
何気に上座に座らされた。ヒースとブリアが座っていた側である。
落ち着かない。
聞く事聞いたら、さっさと退散しよう。
「それで? 相談て何かしら?」
笑っているようで、笑ってない。恐い。
「あの、イリオーネさん、何か怒ってます?」
「いえ、怒ってないわよ?」
そうは見えないけど、本人がそういうなら、突っ込むところではないかもしれない。
「わかりました。では」
「ああ、もう! 押しが足りないわね! そう怒ってるわ! でもあなたにじゃないわよ! あなたの置かれた状況に腹が立ってるの!」
「は?」
「ティティ! 貴方、自分の身が可愛ければ、植物スライムの事を私たちに話すべきじゃなかったわよ! どれくらい自分の身が危険にさらしたかわかる?」
「はあ、わかりますけど」
「わかってないわね! 子供だし! 仕方ないんだけど!」
「わかってますよ! 犯人扱いされるかもってことでしょ!」
「そうよ! それがわかってるなら、言うべきじゃなかった!」
「でも! 情報を持ってきた人をすべて犯人扱いはしないでしょう?」
「ほら、わかってない! 貴女は街の様子を見て、すぐにあたりをつけた。そしてそのあたりがあたった。そんな都合のいい事ってある?」
「まあ、ちょっと出来すぎでしたかね」
「そうよ! 情報を提供するなら、もう少し工夫が必要だったのよ! 犯人と思われないように。もっとこう偶然見つけたとか。自分の推測で湖に潜ったりしてる場合じゃなかったんだから!」
そうかもしれない。ちょっと、用意周到すぎたか。
<盲点だな。軽めの情報でよかったのか>
金貨五枚もらうからにはしっかりした情報でないとと、意気込んだのがまずかったか。
2人とも反省だね。
「そっか。湖に落ちて偶然へんなものを見つけたってすればよかったかな」
「そうよ。それだけでよかった。まったく、貴女は頭がいいのか悪いのかわからないわね」
ソファの背にどさりと身を預けるイリオーネ。
「それでも、植物スライムの情報はこの街にとって朗報なのは確かで、副ギルド長としてはありがたく思わなくていけないのよね」
「イリオーネさんは、私が犯人の一味だとは思わないんですか?」
「思わないわね。貴方が魔法士だって知ってるのもあるし、その手の関連の知り合いから聞いた話だと推測はつくから。それに何より、馬鹿正直に話すあなたが悪事を働くとはまったく思えないもの」
うん。信用されてんだな。
心配もしてくれてるし。思わず顔が緩む。
「おばか! 単純すぎるのよ! 子供だから仕方ないけど! 子供よね?」
どきりとしたけど、ティティは間違いなく子供である。
たとえ、中身が17歳の男子であっても。
「そうですよ」
疑わし気な目、やめてくださいな。
「ああ、カウンターにいれば、私だけで話聞く事できたのに。本当おバカなんだから!」
そこで、イリオーネはデコピンをしてきた。
「いて!」
だけど、その痛みが嬉しい。
「もう! 笑ってないで、要件をいいなさい!」
おっと。にやけてる場合じゃないか。本題本題っと。
「実は服屋を紹介してもらえないかと思いまして」
「服屋?」
「ええ。やめて欲しいとお願いしましたが、多分十中八九お城に呼ばれるかと思うので、武装しようかと思いまして」
そう、今の格好はまるきり下っ端冒険者である。冒険者の格好が悪いとは言わないが、領主と会うなら、もう数ランク上の服が必要なのである。気おくれしない為にも。
「なるほど。それは必要ね」
イリオーネもすぐに気づいてくれたようだ。
「資金はあるものね」
「はい。なんとか出せると思います」
「ならば、貴族御用達の店ね。私が一緒に行きたいところだけど、仕事があるからカミオに付き添いを頼みましょう。今紹介状も書くわ。少し待ってなさい」
この街で、イリオーネと会えた事は最大の収穫だろう。
きっと、イリオーネは副ギルド長としてだけでなく、魔法を使える仲間として、最後まで味方してくれるに違いない。ありがたい。
机に向かうイリオーネを見つめつつ、そう思った。
ありがとう! イリオーネさん!
女の子の戦闘服って必要ですよね。