第99話 マジな話、身の危険あるね
長めです。
「あ、えっと」
ギルド長の目が怖い。
「ずっと前から知ってる人です。信用できる人ですね。それ以上は言えません」
嘘は言ってない。スヴァは昔、7年前から知ってるし、今は一番信頼している相棒である。
「どうして言えない?」
カシミールが少し凄みを効かせて来る。本当のティティだったら、ブルっただろうが、中身は元成人している男である。おどしは聞かないよ。そして言えないものは言わない。
「言わなければ、情報は役に立たないですか? 実際植物スライムがゴルデバ周辺の湖にいる事がわかれば、情報としては有用ではないですか?」
「それはそうだ。今の話が、本当ならばな。俺でも聞いた事ない魔物を嬢ちゃんが知ってるってだけで、まあなんというか、驚いてる。だから情報源を知りたい」
ははあ。やっぱね。そんな魔物いるのって感じだよね。
わかるー。こんな小娘がいう事だしね。信じられないよね。
「情報源は明かせません。けど、植物スライムはいます。私が4つの湖に潜って、いるのを確認してますから」
「なんだと!」
「ティティ?!」
「ええ!? 小さなレディ! また無茶を!」
「おい!」
カシミールが、イリオーネが、ヒースが、ブリアが驚きの声を上げる。
カシミールがこええよ。ビビるから! みんなもやめて。
「だ、大丈夫です! 植物スライムは大人しいですから」
「それはあくまでもその知人から聞いた話でだろうが! あぶないだろう! いいか。今度から行動する時は、俺、もしくはイリオーネでもいいから、相談しろ。何かあってからでは遅いんだからな!」
ギルド長カシミールは少なくとも小さな冒険者の身を気遣うくらいには、まともな大人なようである。冒険者を使い捨てとは考えていないと、この件でわかった。収穫である。だから、ティティは素直に頷いた。
「わかりました」
なるべくそうするね。
「それでどうだった?」
情報源はそれ以上追求しないようだ。原因となる植物スライムの排除が先だと思ってくれたのだろうか。ともあれ、話が流れてよかった。情報源のとこで詰まってしまったら、そこでこの話は終わりにしなければならないところである。
まさか、元魔王さまが情報源とは絶対言えないのだから。言ったら、魔族の手先としてティティ自体が討伐されてしまうかもしれない。
「はい。かなり大きくなった植物スライムがテフラ湖、コマルナ湖、タリオス湖 タリ湖の各湖に1匹いました」
「なんだと!」
「ギルド長、がなるのやめてください。耳が痛いわ」
イリオーネが諫めてくれる。ありがたい。少しうるさかったもんね。
「植物スライムの生まれたての大きさは、私の手のひらに乗るくらいの大きさだそうです。ですが、各湖で見た植物スライムは、この地方の大地のエネルギーを吸い込んで、湖の底でかなり巨大化してぷくぷくでした」
「小さなレディの言う通りの魔物であるなら、この地の衰弱の原因はそいつの可能性が高い。早急に我々で対処しなければならないだろう。 この小さなレディの情報はすぐにでもご領主に報告を上げるべきだ」
あ、この時ばかりはヒースが真面目な口調だ。
できるんだなあ。
「そうね。でなければ、今年の収穫にも影響がでる」
ブリア。そうそう、その通りだよ。
「できれば、嬢ちゃんが直接領主さまにお話ししたほうがいいかもな」
「あ、それはなしでお願いします」
そこでティティはすかさず、否の返事をする。これは想定されてた事なので、驚かない。
「なし?」
「私がご領主さまに直接お話するというのです」
「なぜだ?」
「だって、ギルド長やカレドニア様、サーテス様でさえ、私から聞いた時、半信半疑ではなかったですか?」
顔にはっきり出てたよ。
そりゃそうだ7歳の小娘のいうことだもの。
「皆様は子供でもと聞く姿勢をみせてくれました。それはとても貴重な事だと思うのですがいかがですか?」
普通は子供言う事なんて、あまり聞いてくれない筈だ。きっとカミオやイリオーネからの口添えがあったに違いない。
「7歳の娘、冒険者としてもなり立て、平民、この要素で果たしてご領主さまの私の印象はどうでしょうか?」
皆が顔を見合わせる。そこに応えはあった。
「そう信憑性は限りなく低くなり、それだけならまだしも悪い方向へと転がりそうで私は怖いのです」
「悪い方向?」
イリオーネの顔を見ながら、続ける。
「聡明な皆様には、植物スライムが自然発生したものではないともうお分かりなのではないですか?」
「そうだな」
カシミールが重々しく頷く。
「誰が植物スライムを湖に放したか。何のために? それを探っていくうちに私の存在が、悪く転がっていくのが、怖いのです」
そうなんだよ。そこがスヴァと話し合ってて、一番のネックになった。
身を危険にさらしてでも報告するか否か。金は欲しいが、命あっての物種である。
でもやっぱ原因を知っててこの地をほっとく訳にもいかないし、お金も欲しいしで、言う方向に話はまとまったのだ。
で、その時に自分の存在を伏せて欲しいとお願いしてみようとなったのである。
「だから、情報源である私の事はふせて欲しいんです」
本当頼む。もいっちょ、理由をぶっこむぞ。
「それに私はまだ駆け出しの冒険者で、弱いです。今回たまたま知っている事が当たっただけでいっぱいお金もらえます。でもそれで目立ってしまったら、自分の身が危険になるのわかります。それってとっても困るんです。今の私では対応できませんから」
イリオーネの視線を痛いほど感じる。
イリオーネは私が魔法士だと思ってる。亜空間が使えるから実際そうなんだろうけど、私まだ魔法使えないから! 魔力を動かせるだけだから!
「お願いします!」
更に更にもいっちょの後押し。ティティは涙を浮かべて俯いた。
やなこと思い浮かべれば、涙は出るからな。ふへへ。
「この小さなレディはとても聡明なレディのようだ」
「そうね。とてもこの年の子が考えられることではないわね」
ヒースとブリアが口を開く。
はい! ブリア正解です! ジオルの年齢を足したら、二十歳越えしてるからね。それはしっかりしてるんだよーっと。
更に一押しか。
「色々考えないと、1人で生きていけないから」
「そうか」
カシミールが憐憫を目に浮かべて、こちらを見た。
イリオーネは無視だ。
味方の筈が、なんか敵になってるような気がするが今は追及するところではない。
「イリオーネ、名を伏せて報告は可能か?」
「難しいでしょうね。それでも一縷の望みをかけて、本人希望で名を伏せたいと申し出してみるのもいいかと」
「そうだね! 僕も、ご領主さまに、口添えするよ。小さなレディは信頼に値する人物であると」
「ヒース! 小さなレディっていう情報も与えてはだめよ! 侮られて信頼されないかもしれないわ」
そうだよ。子供であることと、女の子であること、2つも情報与えてしまうじゃないか。ブリアどうかその調子で、ヒースの口をしっかり規制してください。
庶民でも女性、子供は軽くみられる節が多々ある。上流社会でもそうなんだな。
本当頼む。ご領主となんて会いたくないよ!
カシミールはしばらく考え込んでいたが、やがて口を開いた。
「ティティ、私もお前の名を伏せて報告してみる。本人の希望もあって名を伏せたいというお前の希望を聞いてな。だが、それでも領主さまに追求されたら、逆らえない。この案件はこの地の行く末を左右するものだからだ。だからその時には名を出させてもらう、いいか?」
「はい」
仕方ないね。
「ティティの気持ちはわかるけど、この件はこの地方にとって現在の最重要案件です。ティティから直接話を聞きたいと言われる可能性は高いです。覚悟だけはしておいてください」
イリオーネからも念押しされてしまう。
「わかりました。ではせめて私の名前を告げるのは、領主さまだけにしてもらえないでしょうか」
「領主さまだけというのも難しいかもしれん。が、できるだけ最小限の人間にしかもれないように掛け合ってみる」
「お願いします」
<名を伏せるのは無理そうだな。後は領主の器量次第か>
今まで黙って話を聞いていたスヴァが、心話で呟く。
元魔王さま。上から視線が半端ない。でも本当にそうだ。
最初はなんかこうして、ギルド長や城に勤めてる人と話してると、身の危険があるのということが現実味を帯びてきた。
どうか、植物スライムの事話したことを後悔させないでくれよ、ご領主さま!
いよいよ次100話です。