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エピローグ:華芽吹き、陽照らす

 翌日の放課後、あの公園であったことを全てかおりに伝えた。かおりはそれを純粋に祝福してくれた。


「で、どこまでいったの?」

「ふぇっ!?」

「オイコラ」

「ぐえ」


 私が決心できたのはかおりのおかげなので恩は感じているが、そうやって茶化すのは勘弁してほしい。私の恋人は小動物みたいに気弱だから、ちょっと揶揄うと面白い反応をするので気持ちはわかるけど。


 デコピンをくらってうめいている親友に呆れつつ、恋人の手をとって立ち上がる。


「行こっか、春華」

「うん。陽向」

「……そういえばなんで冬美ちゃんは名前呼びで、氷見さんは苗字のままなの?どっちかに統一するならわかるけど」


 親友の純粋な疑問に、私たちは目を合わせてからニコリと笑ってこう答えた。


「春華は春華って感じだから」

「陽向は陽向って感じだから」

「あー……恋人同士でしかわかんないやつかー」


 かおりは妙に納得したような素振りをして笑った。多分かおりにもそういうのがあるんだろう。親友に見送られ、私と春華は学校の外に出た。


 私は、恋人の春のような温かさと、華のような可憐さを知っている。普段は氷像の中に隠れて見ることのできないそんな少女を私は知っている。だから、私は恋人を春華と呼ぶ。春華もきっと、私に陽向らしさを見出してくれたのだろう。


 向かう陽気が春の華を照らす。少しキザっぽい表現だけど、私と春華の関係はまさにそれだ。周囲に生徒がいなくなった頃を見計らって手を繋ぐ。今日は寒いはずなのに、互いの手の温もりで私たちは春の陽気の中にいるように感じられた。私より一回り小さい彼女を見下ろすと、彼女もこちらを見ていたようで目が合った。そんな何気ないことに幸せを感じて笑い合う。


「今日はどうしようか」

「春華と一緒ならどこでも楽しいよ」


 冬の寒気の中、街路に植えられた桜の蕾はもうすぐ訪れる春に向けて、少しずつ芽吹き始めていた。

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