口論チート!notチート!? ~超限定条件下で発動する即死能力はチートですか?~
転生先の異世界に現代日本の常識を持ち込みすぎだしそれで通用しすぎ、異世界の歴史と文化ガン無視かよってことに不満を覚えた作者の自己満マジレス短編です。
俺は転生者だ。特に神側の不手際もない事故死を遂げたものの、何やら適性があるからということであれやこれやといううちに女神に使命と“ある能力”を押し付けられて異世界に放り込まれた。
こんなありきたりでつまらない回想をしているのは目の前の奴が原因だ。
「おいお前!奴隷にしている人達を解放しろ!」
「そ、そんなことを言われましても、私は王国からしっかりと認可を頂いて奴隷商をやっておりますので…」
今までソロで冒険者をやっていたがそろそろ上を目指すにしろ一人でこなすのはキツい。その上、前世からのコミュ障はあまり改善されずパーティーメンバーの募集は難しい。なのでいっそのこと元冒険者の奴隷でも買ってパーティーメンバーを揃えようと奴隷商に向かってみればこいつがいた。
一々脳内で奴と呼ぶとややこしくなってくるので次からは解放マンとでも呼ぼうか。
そんなくだらないことを考えながら、非常に面倒ではあるが仕方がなく、恩を売っておくことも兼ねて奴隷商の店主に助け船を出しておく。
「おい、そこのお前。」
「なんだ!今僕は理不尽に奴隷にされた人達を解放す…」
「道の往来で喚くな、周りの迷惑だろ。」
そう伝えると、解放マンは一旦冷静になったのかさっきまでの義憤に燃えたような雰囲気を静め辺りを見回す。
行き交う人々は奴を奇異の視線で見ながら避けるように歩いている。中にはくすくすと嘲笑うような声も聞こえる。
「~~~!」
言葉にならないような唸り声を上げて解放マンが顔を真っ赤にする。ここらが頃合いかと思い怒り心頭の奴に声をかける。
「まぁまぁ落ち着いて。ちょっと向こうで話さないか?」
すぐそこの路地裏を指差し、解放マンに移動を促す。顔を赤くしたまま悔しそうに頷く奴を連れ、奴隷商の店主に軽く謝罪しつつ路地裏に向かう。
「それで、話ってなんだよ。」
苛立ちを隠しもせずに解放マンが会話を切り出す
「単刀直入に言うぜ、お前も転生者だろ?」
「お、お前なのか!?」
俺の言葉に動揺する解放マン。自分以外の転生者はいないものだと思っていたらしい。そして本題である、なぜ奴隷商の前で奴隷を解放しろと叫んでいたのか聞いてみる。
「なぜかだと!お前には人の心がないのか!奴隷は前世では禁止されてるし何より理不尽に奴隷にされてる人達がかいわいそうじゃないのか!」
あぁなるほど、そこからなのか。
この世界では奴隷になるというのは更正の余地ありと判断された犯罪者や、家族を養わなければならないが仕事先がないような人が出稼ぎのような形で自分を売ってくるパターンの2種類だ。それ以外の奴隷や性奴隷なんかは非合法なものとしてどこの国でも厳しく取り締まっている。
余談ではあるが俺を転生させた女神が神託という形でこの世界に頻繁に干渉しているからなのかナーロッパな世界観にしてはどこもかなり治安がいい。
とりあえずこの世界の奴隷とは悲観的なものではなくむしろ買う側、買われる側双方にとって前向きなものであることを懇切丁寧に伝えてみる。しかし、返ってきた言葉は俺の聞きたかったものではなかった。
「それがどうしたっていうんだ。奴隷はいけないことだろう?だから僕がみんなを解放して自由にするんだ!」
このセリフを聞いた瞬間、俺はこいつはもうダメだと悟った。典型的ななろう主人公のような思考回路だ。
異世界には異世界なりに歩んできた歴史がありそこから形作られた文化や習慣、あるいはルールがあるのにそれらを否定し、前世の日本ではいけないことだからだとか、前世の日本のようにしたほうがよりよくなるとか、あたかも現代日本の思想や文化が崇高なもののように考え世界を歪める異端者共。俺に勝手に課された使命、その執行対象だ。
「お前の考えは正しいんだろうさ、お前の中ではな。」
「お前…!同じ転生者として許しては置けない!ここで僕が倒す!」
少し挑発してやれば、解放マンはすぐに激昂して腰の剣を抜き俺に襲いかかってきた。
「うおおお!僕のチートスキルをくらえ!絶対切だ…ゴポ」
そうして襲いかかってきた奴がチートスキルを発動させようとした瞬間、血を吐いて倒れた。
「な…なにが…、お前…何をした!」
「俺が何かしたんじゃなくてお前が勝手に引き金を引いたんだよ。冥土の土産にお前が知りたいであろうこと、全部話してやるよ。」
「まず最初の前提として、この世界に転生者は2種類いる。俺みたいにこの世界を管理する女神によって転生させられたものと、お前みたいに他の神に転生させられたものだ。」
「お前達は他の神が女神への嫌がらせ目的で、明らかに強力なチートスキルを持たされてこの世界を歪めるために転生させられる。君は勇者だとか好きに生きて幸福になれとか唆してな。だが女神はなかなかに寛大でな?この世界に余計な影響を与えないのならばお前らみたいな他の神が転生させた魂も受け入れるそうだ。そして、受け入れるかどうかを見定めるのが俺みたいな女神側の転生者ってわけ。」
「どうやらお前のチートスキルは“絶対切断”、物体だけでなく概念みたいな曖昧なものも切れる攻撃系チートの王道だな。でも相性が悪かったな。女神側の転生者はお前達みたいにわかりやすく強力なスキルは与えられない。」
「しかし、それを補うようにこちら側のスキルには他の神が送りこむために選ぶ精神的に未熟なやつの心理をつくような条件を持った、転生者にしか効かない即死スキルが与えられる。それこそが俺の持つスキル“話死合い”だ。」
「なんだよ…それ…ゴホッ。僕のより、チートじゃないか…!」
「いいや、そうでもない。発動条件は単純なようで難しいしなによりお前達他の神の転生者にしか効かないからな。俺の場合、他の神が送りこんだ転生者と会話をし、こちらに一切の非がない状態で相手にこちらを攻撃させる。効果はさっき言った通り即死、しかもそっちが与えられる即死耐性すら貫通する即死スキルだ。」
「なぜ単純なようで難しいかというと、発動条件は転生者の前世での欠点に起因するからだ。普通はせっかく転生して第2の生を得たんだから前世の欠点は改善するよな。俺の場合だと前世コミュ障だったから、会話をすることかつ被害者にならなければいけないってこと。」
「幸か不幸か、俺は転生してもコミュ障がなかなか治らなかったもんでな。他の女神側の転生者と比べれば比較的発動条件を満たしやすいんだ。さらには俺程度の話術で逆ギレするんだから、お前この世界で生きるのに向いてないよ。それに今回みたいにお前みたいなやつの対応を頻繁に任されるんだからいい加減にしてほしいよ、本当。」
「もう聞こえてないようだけど最後にこれだけ言っておく。」
良い来世を
こうしてこの世界を歪め得る一人の転生者の命が燃え尽き、誰もが知らないうちに世界の平和は守られた。
練習作です。