↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

スのカミ

作者: Lyric Lilly
掲載日:2022/05/28

「ようこそ、ニホンミツバチの世界へ」

先輩格の働き蜂からの挨拶。


ガードレールから飛び出し、車ごと崖を落ちて、ぼくは死んだ。

だが、死の痛みはなかった。

海にフロントから突っ込む車の様子が見えた。

律儀にシートベルトをしたままの運転席の自分の姿も見えた。


着水する瞬間から、時間は停止に向かうように遅くなり始める。

太陽は大空の一点で止まり、ただ点滅を繰り返す。

その真後ろからまんまるの月の輪郭が見える。

きっと太陽の方向に進めば、時は流れ、太陽から離れれば、過去に向かうのだろう。

時間の軸がぼくと太陽と月を結ぶ直線になっている。


そこへ真上から天使が降りてきた。

時間の軸と垂直に。

「あなた、生まれ変わるつもりはある?」

「あっ、はい。させていただけるのなら」

「上がいい? それとも下?」

「いまより幸せなら、上でも下でもかまいません」

「わかったわ」


「ようこそ。ニホンミツバチの世界へ」

「あっ、はい。お世話になります」

「ここは、それほど長くはいられないわ」

彼女の説明が始まる。


「きっとあなたは、すぐに次の世界に転生するはずよ」

「しっかり働いて、悔いのないように生きなさい」


「ありがとうございます」

「いいのよ。わたしたちは同じコミュニティの仲間なんだもの」


それから1ヶ月、ぼくは一生懸命に働いた。

巣の真ん中に女王がいる。

それだけで、なぜか安心だった。


人間として生きているとき、こんな安心感はなかった。

恋人がいても、仕事に恵まれても、心の奥の方に、拭い去れない疎外感があった。


ある日、両脚に花粉をつけたまま、ぼくは巣に帰れなくなった。

飛ぶだけの力が出てこない。

せめて、あとすこしだけ、仲間の近くでと思い、死期を見誤った自分を悔いた。


そこへぼくより若い雄の蜂がやってきた。

どうやら分蜂の季節のようだ。

同じく若い女王蜂が、ぼくの真上で周回するように飛んでいた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。