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あいう  作者: かれーめし
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人間とオーロラのハーフ

「じゃ、じゃあいってらっしゃい……」


「ああ」


「毎朝のいってきますのチューは?」


「あ? やったことあったっけ?」


「ないけど。まぁたまにはいいじゃないの」


 いつものように眠そうな顔でヒルズの中にある劇団の事務所に向かう流琴を清香は見送ると、リビングに戻って朝ドラを仲良く並んで見ている千明と冷穏とリュウとカミーリアの横でわざと咳き込んだ。


「朝ドラなら夜もまたやるから3人は早く準備して。リュウは朝ごはん食べ切るまで椅子から離れないの」


「はーい……」


「普通税理士の沢城とヒッピーの幸田だったらいくらちょっとわがままでも沢城の方と付き合うだろ。頭お花畑かよこのヒロイン」


「いや、やっぱり一緒にいて楽しい方を選ぶでしょ。沢城と一緒にいても春奈は束縛されて幸せになれないよ。第一歳の差エグいし」


「19歳と30歳……」


 体育座りで朝ドラを凝視する3人を見て、清香は思わず笑いが込み上げてきた。


「……アンタ達の歳で朝ドラの内容を議論するのはババくさいからやめなさい。いいから荷造り終わった?」


「とっくに終わったよ。別に高飛びするわけじゃないんだから。ただ葛西臨海公園行くだけじゃん。日帰りで」


「まぁそうだけども。何かあるか分かんないでしょ。ただでさえまた家壊されたのに昨日今日でまたやられたらたまんないのよ」


「俺が悪いのか」


 さっき電話で、リウとアナスタシアの兄でジェスタフの弟が今から家を訪ねたいが構わないかと言ってきた。清香は一瞬断ろうかと思ったが、彼の家族を保護してやってる以上いつかは来ると思っていたし、突然押しかけるのでなく電話で一度伺う姿勢は好感を持てた。

 相変わらず電話番号を知られていることは怖いが、流琴に告げたら余計な心配を生みそうなので、人払をして自分だけで解決しようとした。

 3人は遠くに行かせて夕方まで帰らないように言った。


「別に兄さんはシアと違って見境なく暴れたりしないから大丈夫だとは思いますけどねぇ」


 リウはクラムチャウダーを息を吹きかけて犬のように啜りながらそう言った。汁まみれになった口周りをアナスタシアが拭う。


「私も分別はあるけど」


「分別ある人はよその家の戸をドロップキックで蹴破って乱闘おっ始めたりしないの! アナスタシアちゃんは朝ごはん食べないの?」


「敵からの「施しは受けないって言ってます」」


「……リュウと違って面倒な子ねー。こっちは皿とかガラスとか弁償してほしいんだけど」


「……」


 アナスタシアが目を閉じて耳を塞いで顔を背けた。


「あっ無視した」


「ところで来る予定のお兄さんってどんな人なの?」


 朝ドラが終わって千明が冷蔵庫を開けてオレンジジュースを飲みながら、リウに尋ねる。リウは数秒黙ってから口を開いた。


「今年で32歳なのに使い走りや軍用犬の世話とか倉庫の荷受けとかばっかやらされてる枝」


「枝」


「年中似たような服着てて、子どもに舐められてるのを好かれてると勘違いして蹴られたりつねられたりして喜んでる」


 アナスタシアはそう言った。


「ジェスタフ兄さんが多分僕より将来を心配してたと思う。流されやすいし傷つきやすいし人が良すぎるし」


 リウにしては珍しく悪口だったが、基本他人には心を開かないというリウが本音を言うあたり、嫌ってはいないのだろう。どちらかと言うと心配しているようだ。


「それでも日本には来てるんだ」


「兄さんマチリークではめちゃくちゃ費用がかかる運転免許を普通車大型大型特殊で3つ持ってるから運転手として来たんだと思う。あとはまぁ……射撃はうまいからボディーガードかな」


「大人しいタイプの人なのね? なら良かった。今度は家財道具は無事で済みそう。リュウも家族と会えるの楽しみでしょ?」


「それは……うん」


「きゃっ……きゃわ……んぐっ」


 清香がそう言うと、リウは照れ臭そうに半笑いで俯いた。やっぱり好きらしい。それが壮絶に可愛らしかったので千明が思わず抱きつこうとしたら、アナスタシアに手で阻止された。


「あ、あとキス魔」


 リウがふと思い出したように言ったことに千明が目を丸くした。


「え?」


「キスに抵抗がないのかな。流石に上司とかにはやらないけど僕とかシアとか家族にはみんなやるし、小さい子とか若い女の子にも下心抜きにやってる」


 浮かび上がったはそれをどこかうんざりした口振りで言っていたが、千明はよく自分の頬や鼻先にキスをしてくるリウを思い出し、そのDNAが受け継がれていることを確信した。


「何かアレね、32にもなってちょっと気持ち悪いわねあなた達の兄さん」


 清香が率直に思ったことを言うと、アナスタシアとリウが互いに顔を見合わせた。


「ま、会ってみれば考え方も変わると思いますよ。間違っても口よりも手よりも先に銃が出るタイプじゃないので安心してください」


「まぁ何かあったらリュウの銃で撃とうと思うけども」


 清香は台所の棚からリウが持っていたのを借りたベビー・ブローニングを出して、ポケットにねじ込んだ。

 なんだかんだで腹を空かせているアナスタシアに食べかけのバターロールを食べさせているリウに、千明は不安に思ったことを尋ねた。


「ところで、まさかお兄さんと帰ったりしないよね」


「連れ帰るけど。みんなマチリークでリュウを心配してるんだから」


「そういえば引き取りに来ますってお兄さん言ってたっけ……」  


「へぁ……?」


 アナスタシアが即答し、清香がそう漏らした時、千明の目の色が瞬く間に変わった。表情も恐怖と焦りが歪に浮かび上がった、ピラニアの池に放り込まれた鯉みたいな顔をしていたので、流石にリウとアナスタシアもぞっとした。


「え? 嘘嘘でしょ!? やだやだやだまだ話したいことや一緒にやりたいことあるのにこんないきなり別れが来るなんて無理無理無理! ダメ今から一緒に水族館行こ!! 会わせないから許さんから絶対リュウはここで生きてくんだから!!」


「お前、ビルから放り落とされた時より取り乱してるな」


「そんなことあったのか。うおおお前こんな力あったのか?」


 露骨に取り乱してリュウの肩を掴んで無理矢理を外に連れ出そうとする千明を、冷穏が羽交い締めにして抑えるが馬力で押し負けてむしろ引きずられ、アナスタシアが頬を鷲掴んで押し退けようとしたが、それも負けつつあった。


「はぁ……」


 錯乱した千明の顔の前にカミーリアは椅子からテーブルに飛び移って両手を突き出すと、掌から空気を出し、それを思いっきり叩きつけた。

 瞬間、銃声をさらに複雑にしたような渇いた轟音が部屋中に木霊した。それを間近で聞いた千明は白目を剥いてへたり込んだ。


「猫だまし」


「よ、よくやったわカミーリア。冷穏、今のうちに千明連れ出して!! ほらお小遣いこれ半分に分けて!! 間違っても引き返すような真似させないでよ!!」


 冷穏は気絶した千明を引きずり、清香は彼に万札を渡すとそれにカミーリアもついて行って家から消えていった。


「アンタの娘やばいね」


「……否定できない」

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