だから玄関から来い 1
あの後シャワーを浴びて布団に入ったけど悲しいことに不安で全く寝れない。
風呂も入ったのか定かでないから再び入ってしまった。カミーリアが首を傾げていたから二回入ったのが分かった。
既に一回経験したとはいえマチリークの標的にされるのも嫌だし、ジェスタフ殺害に関与してるのが日本警察にバレて捕まるのも嫌だ。殺されるのはぶっちぎりで嫌だ。
何で私がこんな目に。私悪いことなんて今までの人生でやったことで最大でも10歳の時に駄菓子万引きしたくらいしかないし、母さんに怒られたから清算はされたはずだぞ。
いや後悔してはいけない。これはカミーリアを守るためだ。ここで引き下がればカミーリアは2度と逃げられないよう厳重な監視下の中拷問まがいの実験を死ぬまでさせられる。そうした結果マチリークはさらに力を増す。
そう、私は今日本の未来を握っているんだ。だからこそプレッシャーが半端でない。これいつまで続くんですか? 吐きそうになってきた。せめてカミーリアを抱き枕にしたいけど今日は詩音に取られた。
言い忘れたけどあの2人は安全のためにしばらく家に住むことにした。まぁ2人が住んでるあの昭和からあるボロいアパートの家賃もウチが払ってるんだけどね。
私は体を温めたら寝れるかなと台所で白湯を沸かすために起き上がった時、ドアが開いて光が差し込んだ。
「あれ? まだ起きてるの?」
リュウだった。癖っ毛の白毛を指に巻きつけて私をじっと見ていたが、自分の胸を指でトントン叩いた。
「?」
私が疑問に思って自分の胸を見てみると、パジャマのボタンが第3まで外れて胸が大分露わになっていた。正直、最近また胸が大きくなってキツいからこの方が楽なんだけど。
「あっごめんねリュウ。どうしたの?」
私は仕方なくボタンを留めながらリュウの方を向いた。
「いや、千明が不安で寝れてなかったからかわいそうだから清香さんのベッドから抜け出してきちゃった。一緒に寝ていい?」
「えっ? そ、そりゃもちろんいいけど」
すごい。ピンチとご褒美が同時に来た。今まで母さんがずっとリュウを独り占めしてたから私はせいぜいハグくらいしかできなかったのに願ってもない展開だ。
私が単純なのか人間が図太くできてるのか分からないけど急に興奮してきた。ワクワクというよりムラムラの意味での。
リュウが廊下の電気を消すと周囲はまた真っ暗になった。その中でペタペタと足音だけが近づいてくる。そうして布団が捲られて、冷たい足が私のふくらはぎを撫でた。
「あっごめん」
思いの外リュウの顔はすぐ近くにあるようで、ほとんど耳元で囁かれたせいで思わず身震いした。この子私と2歳違いで、しかも男なのに何でこんな蠱惑的なんだ?
私は疑問に思いながらも横になった。
すると、リュウは私の横で寝るのかと思いきや私の上に覆い被さってきた。私よりも体重は軽いはずなので圧迫感はそんなにないけど、突然のことだから驚いた。
「ふふ、あったかい」
もぞもぞ動いて私の胸元に顎を載せてリュウが屈託のない無邪気な笑みを浮かべる。冷静に考えるとこれ夜這いなんだろうけど、私の方が過ちを犯してしまいそうで怖い。
「やっぱり眠れないんだね。大丈夫?」
「もしかして心配してくれたの?」
「そりゃするよ。不安そうな女の子を放置するのは僕も嫌だし」
リュウはそう言って、私の手をとって服を捲ると素肌の胸板の上に私の手を直に置いた。
「ひぅっ」
ひんやりとした感触と微かな心臓の鼓動を感じるけど、それに集中したら自我が暴走しそうなので頭の中で這いずり回るゴキブリや蜘蛛やダンゴムシとか気持ち悪いものを想像して踏み止まっていた。
むしゃぶりつきたいのを必死で堪え、私はリュウの体を片手で押さえてから態勢を横にしてリュウを私の傍に移動させた。
「そんなに心配しないで。何かあったら僕が助命嘆願したげるから」
「助命嘆願……」
暗闇の中、頭がぼんやりしてリュウの声がどこから聞こえてくるのか分からなくなってきた。もしかしてリュウ自体幻覚なのかもと思って、触れているリュウの胸から手をどかして思いっきりリュウを、それこそ肋を折る勢いで抱きしめた。
「あははは痛いよ千明」
すると、リュウは含み笑いをして私の背中をペチペチ叩き、苦しそうに足をバタつかせた。実在したのか。私はすぐさま力を緩めたけど抱き締めるのはやめなかった。
リュウの髪に顔を近づけると私と同じシャンプーの匂いがした。同じ匂いのはずなのに妙に色気を感じた。
「やっぱり怖いんだ。でも大丈夫だよ心配しないで。明日も学校なんだからちゃんと寝ないとね」
リュウはそう囁いて私の唇を指でなぞってくすくす笑うと、両手を重ねて枕にしてから私に顔を近づけて、鼻の先にキスをした。
「おやすみ千明」
「…………」
いやこんなんで寝れるわけねぇだろ……。アドレナリンギンギンだよ……。このテンション、やってないけど修学旅行で夜中ホテルから抜け出してカラオケに友達と行ったらこんな気分だろう。
リュウの方は平気なの? 客観視したら17歳の女子高生に今抱きしめられてんだぞ? 何とも思わないってことは私なんか眼中にないと? 何がおやすみやねん張り倒すぞ。
「つーかリュウもどうしたの? 寝れないから私のとこ来たの?」
私はリュウの冷たい御御足を私の足で撫で回しながら尋ねた。だんだん夜目に慣れてリュウが着ているぶかぶかの私のスウェットから見える鎖骨の妖艶さに気づいた。
カミーリアとリュウ、どっちが私のタイプなのかよく考えるけれど、ちょっと離れる素振りしたら焦ってすぐ近づいてくる子猫タイプのカミーリアと基本ずっと甘えてくる子犬タイプのリュウ。どっちがいいかなんて決められない。
あ、でも顔つきは大人びて男の子の顔してるカミーリアの方が好みかもしれない。リュウはちょっと美少女フェイスすぎて、若干嫉妬している気持ちが腹の中ではある。
「そうだな。僕基本的に寝る時全裸だからね。着衣して寝るの苦手」
でも、カミーリアと違ってリュウには気品があるんだよなぁ。片手だけどご飯の食べ方とか本を読んでる時とか、すごく洗練された雰囲気を身に纏わせ……ん? 今何と?
「リュウ、今のもっかい言って」
「うん。僕寝る時裸族なんだよ。でも清香さんと一緒に寝てる時に裸になるわけにもいかないし、困っ「うんじゃあ私の前でなら脱いでいいよ」
気づいた時、私の口は勝手にそんなことを抜かしていた。いわゆる脊髄の反射で身体が勝手に動いたことは珍しくないけど、お口が勝手に喋るのはこれが初かもしれない。
二重人格って都市伝説と思ってたけど、もしかすると存在するのかなと1人でに口走った自分の口の歯を舌で舐めながらぼんやり思った。
「それなら千明も裸になってよ。不公平じゃん。恥ずかしいし」
「えっ」
てっきり奔放なリュウのことだからあっさりマッパになるんだろうなと思ったら意外な返事が返ってきた。
うーんこれは我ながら危ない橋を渡っちゃうな。リュウはマチリーク最高幹部の息子で交際できるような相手じゃないから、そう遠くない内に帰ってしまう。しかし、こんな美少年の味を覚えたらこの先普通の恋愛で満足できる自信が私は1ミリもない。
ここはやんわりと拒否してやり過ごすのが得策か。
「よっしゃちょっと離れて今脱ぐから」
気づいたら私は毛布の中でズボンを下着ごと脱ぎ捨て、上もボタンを引きちぎるように引っ張って外してブラジャーまで取って5秒で全裸になった。
性欲には勝てなかった。後悔はしていないしする気もない。もう知らん。楽しければもう何でもいい。後は野となれ山となれの精神で行く。
「意外と積極性あるんだねぇ千明」
リュウは呆れ半分で起き上がると、片手で不器用な手つきでボタンを外し始めた。待ちかねたのとあと見かねて私がそれを手伝うと、リュウは片手でするりと下も脱いだ。
電気をつけるべきか迷ったけど
「ごめん。僕流石に洗っても人の履いたパンツ履けないタイプだからノーパンだった」
むしろご褒美である。
しかし本当綺麗な肌してるな……。光を帯びてるようにすら感じる。この腹が出てるわけでも腹筋が割れてるわけでもなく、かと言って痩せすぎてるわけでもない体型もどうやって維持してるんだろう。
だからこそ片腕がないのがかわいそうだった。五体満足だったら本当に完璧な容姿をしていたのに。色白なのも周囲の視線が気になって外出せずに日に当たらないからなのかもしれない。
「千明っておっぱい何カップあるの?」
「身体測定でそんなとこ測らないから知らないけど多分EからGくらい?」
リュウの方は私の裸をどう思ってるのか気にはなるけど、恥ずかしいから聞けない。しかし、平然としてるあたりあまり良くは思ってないのかもしれない。リュウってモテそうだし女の裸も見慣れてそうではある。
何かモラルが麻痺してきてバスト聞かれたくらいじゃ何とも思わなくなってきた。脳内麻薬がドバッドバ出て幻惑してきた。
「とーっ!!」
ぼんやり私が脱いだ服を適当に床に追い払っていると、横合いからリュウがいきなり飛びかかって私を押し倒してきた。そして、そのまま足で毛布をかけて2人で包まった。
「あっ……あっあっあっ」
な、何だこれ……瞬間冷たかったけどすぐにリュウの体温を感じて身体はじんわり暖かくなり、心まで満たされてくる。柔らかくてすべすべしたリュウの身体を、遮るものもないお互いに一糸纏わぬ姿で密着するというのが、こんなに快感だとは。
気持ち良すぎて軽く達してしまった。全く、リュウは私に素晴らしい経験を与えてくれたものだ。
そういえば母さん、17歳で私を産んだんだったっけ。あれ? 17歳で妊娠したのか? いやどうでもいい。まさか奇しくも同じ歳に私も新しい世界の扉を開いてしまうとは。
母さんごめん。そしてありがとう。私が今から大人の階段を登ってしまうのを、どうか許してほしい。今からリュウと別の意味で寝ます。
私は胸の谷間に顔を埋めるリュウの髪を撫でると、リュウもその気なんだろうなと彼が私に何がしてくるのをじっと待った。
「……ん?」
「くかー」
コイツ寝てやがる。え? 本当に全裸じゃないと熟睡できないだけ? 私完全に今からアダルトな展開になるんだとばかり。
私はリュウの体の温かさを感じながらも頭が冷めていく思いだった。そうですか。リュウはやはり見た目に違わず汚れを知らない純粋な子で、私は汚い女だったということですね。
願わくば、私の心がこれで浄化されることを願うのみです。私はリュウの手を取ってせめてもの慰めに指を咥えながらぼんやりと夜が明けるのを待った。
これから寝れる気は全くしなかった。いっそ時間を有効に使うために受験勉強でもしようと思ったけどリュウを引き剥がしたくはなく、煩悶するだけだった。
でも、マチリークへの恐怖とこれからの心配は忘れることができた。




