私達のやらかし 1
アンドレイ・ジェスタフとの騒乱から2ヶ月、あれからマチリークは静観の構えを取ったまま気味が悪いくらい音沙汰がない。
私、大葉千明は何事もなく普通に登校してお母さんの家事の手伝いもこなして日常の平穏さを享受している。
最初の頃は父さんも報復を警戒して枕を高くして寝れなかったし、私も夜中に地震が起きた日には軽く漏らして飛び起きたもんだけど、人間図太いもので今は毎晩熟睡している。
カミーリアを攫われた時に巻き添えで車に轢かれた詩音と冷穏も無事に退院した。
というか、あれから5日くらいしたら急に2人とも傷が完全に治癒していたらしい。医者も若い人は元気だからと首を傾げつつ現に回復したのだから納得するしかなかったようだ。
2人には一応カミーリアのことも伝えた。それに一応2人の、死んでないけど仇は取ったことも。
かなり驚いていたし、カミーリアがマチリークが開発した生物兵器だということは流石に飲み込み切れていなかったようだけど、それでもカミーリアに同情して恨み言一つこぼさないでいてくれた。
カミーリアも少しだけ嬉しかったのか照れ臭そうにその時隣にいた私のスカートベルトをぎゅっと掴むので、理性を保つのが大変だった。
そういえばカミーリアは本当は18歳らしいけど私的にはあの子は10歳なので私がそう思ってるからカミーリアは10歳だ。
何はともあれジェスタフの件は私の長い人生のほんの一部で、もう二度とマチリークと私が関わることはないだろう。
と、私はあの時カミーリアと風呂に入っている時は思った。思ったのだった…。
「あーもうこのエリアスナイパー強すぎでしょ! 男らしくショットガンでタイマン張る気ないの!?」
私は学校から帰ってきてプレステでゲームをやっていた。いわゆるFPSゲームだ。これからマチリークと戦争が始まるかもしれないから予行演習というわけではなく、単純に最近ハマってるだけ。
シャワーのように弾をばら撒いて画面上の敵兵を蜂の巣にするのがいいストレス発散になる。撃たれると当たった箇所から血が噴き出たり、キャラごとに違う声で叫ぶのがまた面白い。年齢制限?何ですそれ。
「あーまた回線切れた、負けそうになったからって抜けないでよ……最期まで戦い抜くでしょ普通」
オンラインプレイで5対5でバトルしていたら敗色濃厚な辺りで1人抜けてまた1人抜けて、強制的にバトルが終了してしまった。負けても5キルしたから気分は良い。
「はーやっぱりオフラインの方が安心して遊べるな……リュウが一緒にゲームできたらいいんだけどね」
「ほーなの?」
私はオフラインのストーリーモードで、プログラム通りの動きをする接待用のほどよい弱さの敵兵を射殺しながら、テレビの音に耳を傾けながら私の背中にもたれかかる少年に話しかけた。
「そうだよ。こういうのは一緒にやるから楽しいんだから」
「そうなんだ」
リュウは一言淡白にそう返すと、体を私の方に向けて髪を一房掴んで匂いを嗅いだ。むず痒くなって集中できない。今ボスの装甲車と戦ってるのに。
リュウは何度か鼻腔をひくつかせて私の髪の匂いを嗅いでいたが、やがて持っている髪をぱくりと口の中に入れた。
「リュウ、それやめてって前言わなかった?」
「だってお腹すいたんだもん」
「口寂しいから私の髪をしゃぶらないでよ」
まだ変声期を迎えていない上擦った声でそう言われるときっぱり嫌だと言えない。しばらく耐えてプレイしてたけど、耳元の咀嚼音のせいで集中できず、装甲車からのレーザービームに殺されてしまった。
「あーあー負けた負けたやーめよ」
私はコントローラーを置いて代わりにリウの隻腕を引いて抱き寄せる。柔らかくてあったかい。この点はカミーリアにはないものだ。
見知らぬ男の子に髪をしゃぶられる。普通なら嫌悪感を感じるべきなんだろうが、正直全く感じない。
それは何と言ってもリュウが度肝を抜くほどの美少年だからに他ならない。日中陽に当たらなせいか肌は透けるように白く、甘すぎて胸焼けしそうな愛らしいマスクと華奢な体つき、特に折れそうなくらい細い腰と指は劣情すら催す。
そうして青天のような蒼さを湛えた瞳に見入られて、桜色の唇から漏れた吐息を浴びせられると脳細胞が死滅しそうになる。
「リュウの髪の方がしゃぶり心地よさそうだと思うけど?」
癖っ毛の髪は乳白の白毛で、ここまで来ると宇宙人が攻めてきた時に私とリュウが同じ種族だと気づかなそう。それくらいの美少年だ。
「千明の髪の方がシャンプーのいい香りがして好きだな」
今こんなに密着されて彼にむしゃぶりつかない自分が我ながら誇らしい。なんだこのおっぱいのない美少女は。
多分原宿とか連れてったら確実にスカウトされる。原宿でなくてもスカウトされる。
そんで、この子はどこの子なのか気になる人もいるだろう。ホームステイ中の留学生?違う。母さんの友達の息子?違う。父さんの知り合いの俳優の子?それも違う。
答えはアンドレイ・ジェスタフの24歳差の弟。リウ・クレバノフ。あだ名はリュウ。15歳。顔は全く似てないし苗字も違うから聞いたら異母弟らしい。
よりによって私とカミーリアが倒した男の忘れ形見がウチにいる。危険極まりない存在なのは分かってるけど、こんな美少年を追い出せるほど私と私の家族は人でなしじゃないし、やったらやったで後が怖い。
なんでこの子がウチに来ることになったのかを説明したい。もっとも最初に出会った時は私はその場にいなかったから一部脚色はあるかもだけど。




