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あいう  作者: かれーめし
33/56

宣戦布告 3

 マチリークと日本の軍事境界線にある竜飛岬海上自衛隊特別司令部。

 マチリークと戦争が始まった場合は真っ先にここが戦地となる。それを見越して、普段から高い警備体制が敷かれていた。

 陸自と連携して一個師団が常駐しているだけでなく高射砲や自走砲などの大型兵器、さらには虎の子のイージス艦も停泊して危機に備えている。もちろんいざとなれば近くの駐屯地からも増援が来る手筈だ。

 その特別司令部だが、たった今陥落して今は火の海である。


「これ大丈夫なんだよね? ちゃんと予告してから襲ったから騙し打ちとかじゃないんだよね? あ、まだ生きてら介錯介錯」


 そう不安気に横の女性に聞く若い男性のマチリーク兵が車の下敷きになって死にかけている自衛官に向けて銃剣を銃本体ごと投げつけて殺す。


「黙りなさい馴れ馴れしい。アンタは私の弟であるけど一方で部下でもあることを忘れるな。アンタはこのまま生き残りを見つけて、助かりそうなら治療、それから捕虜にして」


「フッフッフ姉さん、人質を取るのは劣勢の方がやることだよ」


「それ誰の言葉よ」


「僕」


「やかましい!! アンタ今の言葉将軍や上官には絶対言わないでしょ馬鹿にしてんの!?」


「分かりましたよご無礼をお許しください姉上」


「チッ……しかし、やりすぎね。軍艦は鹵獲しろと言われたのに、何でそれが陸地で横転して宿舎を潰してんのよ」


 姉が咥えた煙草に弟が火をつけつつ、2人は目の前に広がるもはや芸術的とすら言える惨状に首をすくめた。

 海に浮かんでいたはずのイージス艦が200メートルほど離れた先の4階建ての宿舎まで飛んでいて、空手チョップを豆腐に見舞ったように建物に船尾が建物にめり込んでいる。

 今はイージス艦が三日月形に歪んでいるせいで圧力は地面へ逃げているが、やがて艦の自重に耐え切れず宿舎は倒壊するだろう。たった今も大きな亀裂が壁を走った。

 その付近をかつて人だった肉片が元からそこにあって当然だと言わんばかりにあちらこちらに散乱している。


「まぁエルベンストラレさんだけでよかったよねこの作戦。姉さんなんか持ってるその刀一回も抜かなかったろ。あの人今どこ行ったんだろう? あ、信号弾上がったよ。あそこか。後始末も済んだっぽいね」


「ラスカロフもいないわね? アイツは?」


「ああ、さっきこことは別のツガルってとこにある駐屯地を潰しに行くって部下の人達引き連れて行っちゃったよ。ケータイに連絡あった」


「は? アイツ本当命令無視ばかりするわね……自殺願望でもあるのかしら。てか止めなさいよアンタは!」


「仕方ないじゃん僕なんかの言うこと聞かないよアイツは。兄貴を殺された失態の汚名挽回しないとアイツも後がないんだ。多めに見てあげなよ」


「……ま、死んでも自己責任だからどうでもいいか。しかし、これから日本と戦争するわけだけど自衛隊よりこの国は警察の方が脅威らしいわよ。コイツらは災害救助が生業だから、警察の特殊部隊の方が実践慣れしてると資料に書いてあった」


「そうだ。あくまで自衛隊は訓練主体。弾雨を疾走し血煙を吸ってきた我々の敵ではない」


 2人が話していると、海上自衛隊の服を着た男がいつのまにか背後に立ち、2人の真ん中に割って入って肩を叩いた。


「ただ、だからこそ舐めてかかるな。彼らが身をもって教えてくれたように半端な者から死んでいくのがこの世界だ。お前らのほどの精鋭からしたら釈迦に説法だろうがな」


「い、いえ……まぁ……」


 そう言って足元の結婚指輪がついた腕を拾い上げて、燃えている車の中に放り込んだ。


「とりあえずこれから俺は東京に行く。正直将軍のお叱りが怖かったから帰らずに済んで助かるよ」


「あ、僕も東京行きます。父さんの運転手やらなきゃいけないんで」


「そうだったな。テレビに映らないようにしろよお前は目立つ。閣下より目立ったら恨まれるぞ。なんかあったら俺の送迎も頼みますよ中尉殿」


「ええ……あ、ヘリの駆動音が聞こえる。増援来ましたね」


 3人が雑談をしていると、南東からヘリの駆動音が近づいてきた。見ると上空を比較的低い位置でヘリコプターが旋回していた。


「マスコミとかいうのだ。どうせこの有様を見たらすぐ帰る。でも念には念をで殺しとけ。頼むぞアリーフ」


 男はそう言って青年の肩を叩くと、彼の姉と共に歩き出した。


「ラスカロフのヤツは血に飢えすぎていていかんな。あれじゃ30を迎える前に死ぬぞ。君から体を労るよう言ってやったらどうだ。そこそこ付き合いは長いんだろう?」


「いや……彼が言うことを聞くのは将軍と私の父くらいだと思います。あれとオフでも仲良くしてるアリーフが信じられないです」


「やれやれ。兵としては三流武人としては一流のヤツは本当にタチが悪いな」


 男がそう言って欠伸をした瞬間、真横にある金網が貼られた運動場のど真ん中にヘリコプターが墜落し、2人の進路方向に泣き別れたプロペラが突き立った。


「危ないわね!! もっと気をつけなさいよ!!」


「ごめーん」


「さてと、俺達雑兵はお国のために働きましょうかね……どうせあのガキを拉致すりゃ即座に停戦だろう。悪口じゃないが今時弔い合戦なんかしても一銭にもならんよ」


「表向きは難癖つけて弔い合戦、本当は生体兵器の回収ついでに国土拡大。誰が指揮を執るんでしょう。人員を割くのもそうですが日本人を手懐けるのも時間がかかる」


「ま、あまり細かいことは考えるな。とりあえず目先のことだけやっておけ。あまり頭使いすぎると若くしてボケるぞ」


 ***


「あなた方は私達の国の幹部を殺しておきながら自殺と偽装し、それだけに飽き足らずまるで息子を軟弱なように言っておられる。到底許すことはできません。我らを甘く見た咎を償っていただきます」


 会議室のテレビに映る竜飛岬の惨憺たる有様、それを報道しに来たマスコミが生放送で撃墜される光景を音で聞きながら、アルベルトは宣戦布告の告知書を突き出した。

 官房長官が真っ青になって弁明する。


「ま、待って……お待ちください。自殺は本当なのです。決して私達が殺したわけでは……」


「それなら遺体を防腐処理して……いや、写真を一枚残すだけでいい。本当に首を吊ったなら首に痕があるはず。それすら提示できずに火葬したという時点で自分達が殺したと認めたようなものではないか!」


 ボルトロノが対照的に真っ赤な顔でテーブルを叩いて官房長官を恫喝する。太っているからか怒鳴るとよく響く声をしている。


「落ち着きなさい外務卿。恐らく青森県は遅くとも明々後日には落ちるでしょう。ご心配なく、民間人には極力危害は加えません。強姦や略奪などが起きた場合は厳しく処分します。ただ属人主義に則り我々の国の法律でですがね」


 アルベルトはそう言って初めてコーヒーに口をつけた。


「不満ならあなた方も我々の国に攻め込めばいい。ジェスタフが言ったはずです。我々は好意には好意で返すが悪意には敵意で返すと。我々に弓を引いた以上どうなるかは覚悟の上だと拝察致しておりますが」


「何が、望みですか。国連総会でマチリークを国として認めるよう他国に働きかけることがお望みですか?」


 アルベルトは微笑む。


「今更特に惹かれませんね。望みですか。マチリークを日本領にするのも楽なことじゃありませんし、ジェスタフが流した分血を流してもらうだけで大丈夫ですよ。我々は焦土と化した道を引き返して帰るのみです」


 そうだった。コイツらはこういう連中だ。利益追求のために戦争をするのでなくしたいから戦争をする。厄介な奴らが隣にいるものだ。こんなのを生み出した責任を取らず崩壊したソ連が恨めしい。

 住吉官房長官は事の度合いがあまりに巨大すぎたせいで、むしろ普段よりも冷静になっていた。かと言ってどうしたらいいか分からない。説得の通じる相手ではないのだ。


「とりあえず用事は済みましたし我々は引き上げるとします。しばらくはホテルヨシクラに滞在するので何がありましたらフロントに連絡してください。いつでも遠慮なく」


 そう言って立ち上がって両手を叩くと、外務部長がドアを開けてアルベルトとボルトロノは部屋を出て行った。官房長官はそれを黙って見送るしかなかった。

 わざと自分の逮捕について口にしなかったのは、できるならやってみろということらしい。


 ***


「お疲れ様です!!」


 外で待機していた兵士達がアルベルトを見た瞬間に一斉に頭を下げる。機動隊員達も一応は要人であるため同様に頭を垂れた。

 そうして兵士達に一言ご苦労と言って悠然とリムジンに乗り込むと、兵士達もトラックの幌の中に収容されて行った。


「さてと、これから忙しくなりますね。楽しくやりましょう。踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損です。日本国民の皆さんを退屈させないようにしなければ」


 トラックに囲まれたリムジンを通行人は立ち止まって怪訝な顔で見つめながらも、すぐ私用を思い出して歩みを再開していった。

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