明け方の夢 10
ジェスタフは警察が来た際の事後処理などを考えて少し焦り始めたのか、次第に攻撃に転じるようになった。俳優でもある流琴は肉体改造に制限があるため、腕力では断然彼の方が上だった。
それでも流琴は少しでも彼を追い込み、劣勢になった瞬間に彼を一気に叩こうと食い下がるが、5合と斬り結べない。
攻撃を弾き返されるので鍔迫り合う最中は腕以上に足に力を込め、それでジェスタフが膝蹴りで引き剥がそうとすれば、同時に彼も何度も膝蹴りして抵抗する。
だんだんジェスタフの癖や戦闘スタイルなども見抜けるようになり、それによって僅かながら自信も湧いてきた。
さっきも手応えは浅かったが脇腹を打つこともできたし、彼の攻撃もほとんど捌けている。このまま疲れるのを待てば勝機はあると思った。しかし。
「足だけに力を込め過ぎだ」
刀とトンファーで力比べをしている最中、ジェスタフは突然柳葉刀を握り締める左手を離し、空いたその手で流琴の顎を殴り、痛みで彼が仰け反るとトンファーを掴んで股間を蹴り、再び奪い取ってしまった。
「そもそも理解できないんだが、この武器は遠心力を利用するものだろ? 力で俺を押し切ったとしてもどうにもならんぞ? もっと先端を削るとかナイフを仕込むとかしたらどうだね。それ以前にお前はどうやってミハイルに勝った? 筋は良いがこの技量でヤツが負けるとは思えない」
「……勝負はついた。殺せ」
流琴はそう言うが、実際は彼が近づいた時を狙って射殺しようと、シャツを捲り尻の方に手を伸ばしていた。
「まぁ急くな。お前は今自分の武器が貧弱だから俺に太刀打ちできないと思っていないか? 思ってるだろ? 鈍器と刃物だと誰でもそう思いがちだ。逆に刃物と銃器でも同じことを思うものだがな。そこでだ」
ジェスタフはそう滑舌滑らかに言うと、何を考えてか右手に持つ自らの得物を流琴に向けて放り投げた。
「貸してやる。ほれ、かかってこい」
そう言う自分はトンファーをバッターのように構えると、これではないと思ったのか腰だめ撃ちの姿勢で構えを取り直した。どうやらトンファーを初めて使うらしい。
「後悔……するなよ」
流琴は刀を拾い上げる。想像より遥かに重いものだったので顔には出さないが驚いた。彼はフェイントで一度斬りかかる振りをすると、ジェスタフの姿勢にも力が入った。
だが、それもすぐに解除すると、トンファーをだらしなく手にぶら下げたままとことこと笑みを浮かべて流琴に歩み寄る。
舐めてかかるならそれはそれでと流琴が刀で喉を突こうとすると、太刀筋を見切られて軽く逸らされ、逆に喉をグリップの角で挟むように喉笛を突かれてしまう。
「うぐっ……」
だが、屈することなくジェスタフに挑むも悉く斬撃を弾かれ、彼が外す度に肺や頭を叩かれる。かなり間合いを詰めているので反撃するにも刀の刃渡りが長すぎて対処しづらい。
トンファーの闘い方ではない。でもこの男、棒術の心得まであるようだ。ついには膝を曲げられ、その際に手首に強烈な打撃を食らって刀を叩き落とされた。
拾う間も与えずジェスタフは背後に回り、トンファー全体で流琴の首を絞めると、腰にある拳銃を抜いてから彼を正面にとんと突き飛ばし、容赦なくふくらはぎを撃ち抜いた。
「ぐ……あぁっ……!」
「な? 単純に腕と経験の差だ。おや、中国製か。日本は銃規制が厳しいと聞いたがどうやって入手したんだ? まぁどうでもいいか」
そう言ってトンファーを放り捨てると、銃のマガジンを抜いて薬室内の弾も排莢してから本体を分解して真後ろにバラまいた。
流琴は肩と足を撃たれ、もはや本当に戦闘不能だった。千明も守れず自分も守れない己が情けなくて歯軋りした。
そんな彼を、ジェスタフは脇腹を蹴って無理矢理突っ伏させる。
「ぐッ!」
「さて、もうお前を部下にする気も失せたとこだが、冥土の土産にいいことを教えてやる。俺はこの後カミーリアを本国に引き渡すんだが、その後カミーリアをどう利用するかだ」
「あ?」
「俺達は石油をロシアから購入している。だが、アイツら足元見やがって法外な値段で石油を売りつけてくるんだ。だが、マチリークから北の方にあるロシア領の島には油田がある」
「……サハリンか」
「正解。そこのコルサコフ軍事境界線をカミーリアには壊滅してもらう。さっきのあの威力なら申し分ない。そして樺太を併合して油田を接収する。そうすればロシアの顔色を伺う必要もない。無論ロシアと戦争にはなるだろうが、負ける気はしないね」
ジェスタフは勝利の一服と言わんばかりに満足そうに煙草を蒸かした。そしてリボルバーを抜くと、彼の頭に照準を向けた。
「よし、じゃあ死のうか」
「俺はそんなことに加担する気はない」
「何?」
振り返ると、入り口を通ってカミーリアが自分の元にやってきていた。彼が足を前い進めながら両手を後ろから前へと伸ばすと、そこら中のテーブルのナイフとフォークが浮き上がり、小鳥の群れのように彼の周りを漂った。
「まだ立ち上がる力を残していたのか。しかし吐血した痕があるが、そんな様でこの俺に勝てると思うか?」
ジェスタフは刀を拾うと刃こぼれがないかを調べる。
「どうだろうな。だが、少なくともお前も道連れにはできるぞ」
「ほほう」
彼はそう言ってほくそ笑むと、視線はあくまでカミーリアに固定したまま足元で倒れる流琴の胸に躊躇もせず発砲した。白い煙が銃口から漏れて彼は微動だにしなくなった。
「な……」
そしてジェスタフは柳葉刀の刃を固定する純金の鍔へ手をやると、そこを捻って刃を半回転させた。そうすると、柄は瞬く間に3倍以上の長さに伸長し、柳葉刀からいわゆる薙刀へと変化した。
ただリーチが伸びただけなのに、持ち主の闘志や自信の表れなのか一層禍々しさを増す武器となった。
「それなら俺も本気で相手してやろう」
「この鬼畜が……!!」
カミーリアの瞳が鮮やかに赤く染まり、蛇のように虹彩が尖る。
「そうだ。あの子もどっかに隠れているのか? そろそろ野次馬も群がってくるだろうからな。早めに決着をつけようか」
ジェスタフが言い終わるよりも前に、カミーリア付近の空間が揺れて甲高い音と立てて無数の食器を飛ばし、一気に彼の全身へ飛来させる。
ただ一直線なだけでなく、何本かは左右から回り込ませており、ちょうどフォークのような形でジェスタフを襲った。
「フン」
普通なら死なない程度に串刺しになるところだが、彼は薙刀を両手で高速で回すと、そのまま左右180度に腕を振って向かってくる食器を全て弾いた。1本丁度いい角度で弾けたナイフがあり、それは逆にカミーリアへ打ち返した。
「クソッ……」
返されるナイフの中で1本だけ飛んでくるナイフに気づけず、手首に深々と突き立った。
「やはりガキだな。お前のその力がどんなものか俺はよく知っている。分かってさえいれば対処は容易だし、当然対抗策も用意している」
「何だと?」
ジェスタフは足元に散らばった皿の破片を足で払うと、防弾チョッキの弾倉を入れるポケットの一つから仰々しい黒い小箱を取り出した。
中を空けるとちびた両刃のナイフが入っていたが、刃に比べて円柱状のグリップが異様に太くて大きい。一目見て分かるくらい妙な刃物だ。
「液体窒素ナイフだ。本来どういう用途で使うのかイマイチよく分からないが、このグリップボンベにはそれが封入されている。この液体窒素の温度は-196℃。触れた物質はほぼ確実にカチコチに凍る。切れ味は良くないが、いくらお前でもコイツで心臓を刺して凍らせれば仮死状態になるだろう」
「またしょうもないものを……」
「突き刺して刃が押されたら。開いた穴から噴射される仕組みだ。正直、これの製造費で家買えるらしいし、万一漏れ出たら俺が危ないし、2つの意味であまり持ち歩きたくない代物なんだけどな」
ジェスタフは箱をテーブルに放ると、そのナイフを先端の石突の方に紐で巻き付けて着剣した。
「さて、こっちは準備完了だ。これで心置きなく殺し合いができるなぁ。ええ? 小僧」
「ああ」
「子どもを痛めつけるのは本意ではないが、仕方ない!」
ジェスタフはそう言って足元の食器を蹴って飛ばすと、それを振り払うカミーリアへと突進し、斬りかかる。
「そう思うなら何故、あの施設の存在を知りながら黙認どころか協力までした!?」
「さっきも言っただろう!? 国家の安寧のためには必要な犠牲だった。俺達は世界中のどこにも味方がいない。今この瞬間にもどこかの国が攻めてくるかもしれないのだ。だからこそ抑止力が必要なんだ! どこの国だろうと、俺の祖国には指一本触れさせんッ!」
跳躍してカミーリアに向けて刃を薙ぎ払う。斬るための遠心力を用いて回し蹴りを繰り出し、彼を斬ったと同時に遠くへと吹き飛ばした。
「俺には息子がいる。あの子が物心つくまでにマチリークの明るい未来を見せてやりたい。俺とは違う死の恐怖など感じない人生を送らせてやりたい。だから俺はお前の殺処分見送りに同意した! お前も理解しているはずだ。お前がいれば我が国は安泰だということに」
喋りながらも攻撃の手を緩めず、大きな薙刀を軽々と振り回してカミーリアには攻撃を一切許さない。
彼の寒気すら覚える凄絶な斬撃の速さは、まるで薙刀が鞭のようにしなっていると感じられるほどだった。しかも、これほど障害物の多い部屋なのに難儀している様子がない。
この男、本当に子どもだろうと全く手加減しない。むしろ加減していたのは流琴の方だった。それほどカミーリアを警戒しているのだ。
「知るか! 忠誠を誓うような恩義を感じたことはない! 一度もな!」
カミーリアは足元に空気を放って天井へと飛び、火災探知機を掴むと上からジェスタフを攻撃する。一撃で椅子を粉砕しコンクリートの床を凹ませる威力があるが、彼には見切られて悉く避けられる。
空気砲は避けようと思えば避けられない速さではないというのはカミーリアも知っていた。薙刀だけでも壊そうとするが、それもうまくいかない。これの力は精密さには欠けるのだ。
「降りてこい! 俺が攻撃できねェだろうがッ!!」
「チッ」
そう言う割にリボルバーを抜くと引き金を引いて火災探知機を壊し、カミーリアを叩き落とした。咄嗟に彼は空気を射出するが、それは放たれたもう1発に破壊され、それどころか撃ち抜かれた先にある彼に着弾してしまった。
「ギャァァッ!!」
「空気なんだからな。所詮はもっと高威力のものをぶつければ霧散するものだ。おらよッ!」」
そうして落下したのを待ち構え、テーブルに飛び乗って高く跳ねると、彼の反撃など当然待たずに腹部に薙刀を全力で叩き込んだ。
「ごほッ……」
床に叩きつけられたカミーリアが嘔吐する。苦しいのはそれだけでなく、さっきの弾が肺に当たってうまく空気を出せない。
ダメだ強い。所望したわけではないけど、所詮は与えられた力と練り上げられた力では後者の方が上というわけか。それにあの男は俺の特性を熟知している。
「……?」
だが、あれほどキツいのを何発ももらったのに出血はない。そうか峰で打たれたのか。殺せたのに。やはり俺を生け捕りにしたいということか。
カミーリアが散乱するナイフを鷲掴んだ時、ジェスタフがやってきて彼の腰が蹴り上げられた。吐瀉物を撒き散らしながら転がり、自動ドアを割って外のテラス席に出る。
「げぁッ!?」
「吐いてるのに仰向けになる馬鹿がいるか。きちんと気道を確保しろ。全く……まさか持ってきた弾を全て使い切るハメになるとは思わなかったぜ。でも、意外とあっけなかったな」
ガラスで切れた箇所が見る見る内に治癒していくのを見て、ジェスタフが口を開く。
「さっき恩義など感じたことはないとかほざいていたが、その恵まれた力は誰から与えられたものだ。忘恩者め。まぁいい。これでお前の楽しいぶらりニッポン巡りも終わりというわけだ」
そう言って、薙刀の液体窒素の方をカミーリアの顔に突き出すと、ゆっくりと位置を心臓の方にずらした。確かにナイフの切っ先に小さな穴が見える。ここからボンベの中身が噴射されるらしい。
「お」
すると、ジェスタフは突然背後を振り向き、うなじに振り下ろされた酒瓶を柄で防いだ。
「う……あわ……」
「チアキ……」
「さっきからテーブルの下を潜って近づいていたな? ハハ。褒めてやる。よくあんな目に遭ってまだ俺に歯向かおうと思えたな? 部下に欲しいくらいだ」
彼に不意打ちを仕掛けたのは千明だった。しかし、彼と彼女では圧倒的に戦闘経験の差があり、千明からしたら勇気を振り絞ったことでも、ジェスタフからしたら無謀なことだった。
「とりあえずお前は後」
「うぎゃ!!」
ジェスタフは薙刀を軽く下へ振って酒瓶ごと彼女を斬って追い払った。傷は浅いが衣服が切れてへそから胸元の無垢な肌が剥き出しになり、蚯蚓腫れのような赤い傷から血が滲んできた。
「お前はこの騒乱の証人だ。殺すのは俺が疑われるしマチリークに連れて行く。この償いはしてもらうからな。身体で」
そう言って指差すと、再びカミーリアに向き直った。
「よし、散々邪魔されたがこれで終わりだ……ん? あぁっ」
ジェスタフは薙刀を両手で持って振り上げようとしたが、その際に何か違和感に気づいてとどめを中止すると、瞬く間に顔面が蒼白になった。
彼の右手が完全に凍っていた。
「ああああああああああぁ!! 俺の右手が……な、何てことしやがるんだこの野郎ォォォーーッ!?」
見ると右手の他にも薙刀や彼のスラックスも凍っている。凍結は進んで最初は指先だけだったのが、僅か10秒ほどで肘まで凍り始めていた。
「弱い……空気しか出せなかったが……そのおかけでうまく刀身だけをプッシュすることができた……ありがとよ。いい教訓になった。弱いからって使い道がないわけじゃないんだな」
「う、嘘だ……クソ……」
カミーリアは立ち上がると、涙目になって必死の形相でどうにかしようと慌てふためくジェスタフをじっと見つめた。
「こうなると誰でも取り乱すもんだな。もっとも同情なんかしないが」
そう言って、指先をくねらせて付近の空気を吸い寄せた時、ジェスタフは突如気が触れたのか押し黙って真後ろの壁に腕を自ら強打し、この世に2本しかない大切な腕を自分の手で切断してしまった。
腕がこびりついたままの薙刀が手すりを飛び越えて下へ落ちていく。肉片とは思えないほど重厚な音を立てて腕の一部が飛び散った。
「な……正気かお前!?」
「甘いんだよ。俺は公務員だぞ……? むしろ40手前まで生きて今まで五体満足でいられた方が……おかしいくらいだ。少しビビったが、凍ってるから出血もなくていいな」
そう言ってカミーリアを蹴り、硬い靴底でガラスの壁に押し付ける。
「うぐっ」
「手こずらせやがって!! よし勝ったッ死ねッ!!」
そして、左手でポケットに手を突っ込んで千明が持ち込んだフォールディングナイフを抜き、カミーリアの心臓に向けて腕を振り下ろした。
「あ!?」
しかし、後僅かなところで刃はカミーリアには届かなかった。千明が彼の膝に飛びついて転ばせたからだった。前のめりになって倒れるジェスタフは、すぐさま彼女を蹴って引き剥がす。
「きゃっ!」
「邪魔をするな……! あ」
ジェスタフはなくした右手で立ち上がろうとしてずっこけ、床に顎を打ち付けた。そうした中で前を見ると、裸足の子どもの足が鼻っ面にあった。
上を見上げると、カミーリアが心底から侮蔑する眼差しで彼を見下ろしていた。
「ぐおおおおおおおお!?」
ジェスタフは立とうしたがすでに遅く、カミーリアが出した空気砲によってテラスの角まで紙切れのように吹き飛んだ。
ジェスタフの額から血が流れ、右手の切断面も溶けて血が出てきた。それにより想像を絶する苦痛が脳を支配する。
しかし、本当の絶望はここからだった。
「……あ?」
全身が全く動かない。息苦しい。何故だ? 彼が前を見ると、カミーリアが自分に向けて両手を突き出していた。それに気づいて汗が噴き出て顔が凍りつく。それと同時に耳元でガラスに亀裂が入る音がした。
ま、まさかこのガキ、今度は俺をここから落とす気か……?
「や、やめろふざけるな!! 幹部の俺を殺したらどうなるか分からないのか!? 本国が必ず報復してくるぞ!? そうなればお前のせいで何人もの罪なき人間が死ぬ!! それは避けたいんじゃないか!?」
ジェスタフは本心では無駄かもしれないと思っていたが、必死でカミーリアの説得を試みる。しかし、それも虚しく喉から熱いものが込み上げてきたと思えば、口から激しく血を吐いて片目が潰れた。壁の亀裂も広がっていく。
千明が固唾を飲んで彼の最期を見届けようとする。
ダメだ……内臓をやられた。どっち道もう助からん……。
「クソが……せいぜい後悔しろ!! この卑しい矮小な小僧がァァァァァァァァッ!!!」
彼が呪詛の言葉を吐く共に弾のないリボルバーを抜いた時、背後のガラスが粉々に砕け、丸腰のまま寒風吹きすさぶ外へ放り出された。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ……」
そんな……これ絶対助からない高さじゃないか……。まさかこの俺が、こんな閑静な街中で……戦争もしてない国で死ぬのか……? 信じられん。俺が死んだら家族はどうなる?
ジェスタフは死の恐怖から逃れようとしたのか単なる走馬灯なのか、彼の脳裏には今までの人生の様々な出来事が鮮明に蘇った。
いつしか、彼の魂は10年以上前の、まだ若く駆け出しの新兵だった頃に戻っていた。
***
……部隊とはぐれた。まさか土地勘のない市街地での戦いがこれほど混乱するものとは思わなかった。アイツらも無事でいてくれるといいが、仲間より今は自分の心配だ。
ジェスタフは路地裏に潜んで部隊と合流の機会を窺ったが、それも難しそうだった。
どこか遠くで銃声が聞こえる。これが戦場じゃなかったらポップコーンの弾ける音と見分けがつかない。
「いたぞ!」
背後で敵兵が自分に気づいて発砲する。彼はその場で倒れて死んだ振りをすると、仰向けの姿勢のまま彼を射殺した。
しかし、自動小銃なのに弾が2発以降出てこない。引き金を引き直しても同じだ。どうやら弾詰まりを起こしたらしい。整備を怠っていた銃を支給されたのかと彼は憤慨する。
この銃はもう使えない。ジェスタフは自分のを捨てて死んだ兵士の持つ拳銃を奪い取ると、予備の弾倉を抜き取ってそっちと素早く交換してからスライドを引いた。
すると軍靴の足音が立て続けに自分の方に向かってきた。銃声を聞きつけてやってきたようだ。
彼は壁にぴったり身体を寄せると敵がやってくる時を今か今かと待ち構えた。その時は想像以上に早く来て、敵が一人頭を覗かせて自分と目が合って声を上げた。
ジェスタフは歯を食い縛り、敵の頭に向かって引き金を引いた。
銃声が鳴り響き、ジェスタフの身体を背後からの無数の弾丸が貫いた。挟み撃ちにされていたのだ。
何ということだ。自分の心臓が止まるのがハッキリと分かった。腹が裂けて腸が飛び出すのも分かる。彼は四肢で脚1本を残しただけの無残な姿でよろめき倒れた。
ちくしょう……せっかく国立出たのに……。俺を殺した奴はどんな顔してんだ……? 俺の、人生……。
血だまりの中でそんなことを考えていると、やがて何も見えなくなり、彼の魂は二度と戻れない暗闇の中に溶けていった。




