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あいう  作者: かれーめし
15/56

ショタコンじゃないけど 2

 放課後、私と詩音は校門の前で待ち合わせして家に向かった。私は学校を出たので校則で禁止されてるカチューシャをつけたかったけど、机に家に置き忘れてしまった。

 でも、最近はポニーテールの方がうなじがすっきりして気分がいい。カチューシャ自体古いものだしもう卒業しようかな。


「結局、学校が休校になることはないのかぁ」


「まぁ戦争なるかもしれないみたいな予感で学校を休みにしてたらキリがないし、当たり前だとは思うけどね」


 帰りのホームルームで担任の木佐貫からは、マチリークと日本が交戦状態に入らない限りは原則通常授業とのことだった。

 ただし、今日本とマチリークは非常に繊細な政治問題に発展しているから、いつ何が起きてもいいように家庭内で備えろとも言われた。心配しなくても今日父親から刃物を渡された。


「そもそも戦争しに来てるわけじゃないし、あのジェスタフって人はマチリークが日本領として扱われたくないだけで日本とは良き友でいたいとか言ってたじゃん。戦争なんかないない」


 そもそもマチリーク自体、ここ6年は大規模な戦闘は起きてないとか新聞に書いてあった。小規模なら起きてるのかと頭ン中で突っ込んだけど。

 マチリークは他国と揉めるより国内の争いの方が忙しく、血で血を洗い続けて最近になってやっと反乱分子を片付け終えたらしい。どうでもいいから勝手に殺しあって自滅したらいいのに。


「でも、ジェスタフが帰ったあとマチリークの指導者に、あの国最悪っすわ。殲滅するより他ないっすわとか言ったらどうなるかわかんないか」


「なんか随分気にしてんだね。冷穏が結構ビビってる感じ?」


 どうでもいいけどあの国のリーダーって誰なんだろ。国土元帥とか文民大臣とか幕僚総長みたいな物々しい役職名は聞いたことあるけど、誰が指導者なのかは公安調査庁とかも分かってないらしい。外務卿も序列何位くらいの幹部なんだろう。


「いや……ほら、今日2組の小島って男子と1組の牛沢って女子、知ってる?」


「うん。顔と名前だけは、それが?」


 どちらも他クラスだけど小島の方は中学は同じだから多少は面識がある。お笑い芸人を目指してるとか言ってたけど今でも同じなんだろうか。


「仲いい子から聞いたんだけど、その二人転校したんだって。広島とカリフォルニアに。戦争が始まったら遅いからって」


「それはまた……気が早いね」


 宣戦布告されてから転校しても遅くないのでは? 


「私もそう思うけど、牛沢とはお互い家知ってるしよく原宿とか渋谷も行ってたし、当分会えないと思うと寂しいな……他にも私の友達が遠くに行っちゃうと思うと嫌だよ」


 友達多いアピールかな? と思ったけど普通に寂しがってるのかコイツ。若者の街とか言うけど原宿って乗り換えでしか降りたことないから何あるのか知らない。


「あ、友達多いアピールうっざって顔してる」


 詩音はしかめっ面になって、私の顔を掴んでこねくり回した。しまった顔に出ていたか。正直すぎてすまんな。


「つーか流琴さんは大丈夫なの? 遠くに引っ越そうとか言ってないの?」


「引っ越そうとかは言ってたけど、母さんに説得されてやめたっぽい。父さんこっちで仕事してるから支障もあるしね」


「そっか。千明はどっか行かないでよ。寂しいもん」


「ああ、うん。考えとく」


 私は抱きついてどさくさに紛れて胸を揉む詩音の頭を撫でた。

 子どもっぽいけど、私みたいなめんどくさい性格の奴にも親しく接してくれる詩音は大切にしなきゃな。むしろ詩音みたいな社交性のある人間こそどっかに行きそうで不安になる。


「いいからさっさと帰ろう。母さん気合入れてたくさん料理作ってるだろうから、夕飯まで一緒にゲームしよ」


 私は元からあんまり食べない上に昼に脂っこいもの食べたから全然腹減ってないから、夕飯は少なめでいいかな。


「あ」


 すると、詩音が前を見て声を上げた。釣られて私も正面を見ると、そこにはコンビニの駐車場の前で一人缶コーヒーを飲む冷穏がいた。何してんだ? アイツ……。


「兄貴ーそこで何してんの千明の家行かないの?」


「詩音か……千明もいるのか。いや、煙草吸いながら千明の家の前まで行ったらドアのとこに警察いたから匂い消えるまで待ってる」


 すごいチキンな理由だ……。一般人より警察に怯えてるというのは不良としてどうなんだ。


「へー危なかったね」


「前に喧嘩で補導された時は温情で学校に通報しないでくれたけど、次はないからなってきつく言われてんだわ」


「めっちゃビビってんじゃん」


 思わず声に出てしまった。冷穏は立ち上がると私を見下ろしてじっと睨みつけた。コイツに何を言われるかは簡単に想像がついた。


「お前、昨日俺を殴った? てか轢いた?」


「いや? アンタが勝手に転んだのなら見たけど」


「……俺、よく知らんけど腹にでかい痣できてたんだけどマジで何もやってないのか?」


「知らん」


「あの時いた子どもは?」


「それは……家にいる」


「え? さっき言ってた預かってる俳優の子のこと?」


 あ、まずいことになった気がする。やはり嘘ってつくもんじゃないな。私にはこの方面の才能がない。


「あ? ソイツ家に置いてんのか? てかあんなみすぼらしいホームレスみたいなガキが俳優の子なわけないだろ」


「うっさいな。しばらくは家においてあげようって話になったの。ただごはんあげたら追い出すのもかわいそうでしょ?」


「え? 千明、拾ってきた子どもと一緒に住んでんの!?」


 詩音が食いついた。私のことを少年性愛者だと勘違いしてるから、いよいよ極まるとこまで来たなとか思ってるんだろうか。


「そうか……だから今日学食でニヤニヤ笑ってたんだ。やだよ兄貴はともかく親友までブタ箱に送られるなんて……」


「大丈夫だって。まだ何もしてないから」


 朝のは父さんの邪魔がなかったらどうなるかは分からなかったけど、今の私はお風呂に入れて着替えさせるだけで達してしまいそうだから、捕まるような行為に及ぶことはないと思う。


「よし! 今私今年に入って一番ワクワクしてる! その千明が執心してるという子がどんな感じの子なのかすっごい気になってきた! 早く行こう!」


 そう言って、詩音はダッシュで私の家に向かっていった。走るほどもう遠くないのに忙しないなぁ。さっき、私はカミーリアと話さないでと詩音に言ったけど、ちゃんと覚えてるんだろうな。


「ところで、何でお前の家の前に警察いたんだ?」


 50メートルくらい先で小さくなった詩音が息を切らしてへばっているのを見ながら、冷穏は疑問に思って当然のことを聞いてきた。

 これは正直に言っていいものか迷うな。父さんが痴漢で捕まったと言おうとしたけど普通に在宅してるし。


「実は昨日、家に泥棒が入って。一応父さんが追い払ったらしいけど犯人まだ逃走中だから警察が見張ってる」


「マジか。まぁお前んちデカいし狙われるよな。大変だったな」


 普通に心配された。どうやらカミーリアにやられた昨日の傷が痛んでテンションが下がり気味らしい。 


「まぁ生きてたら犯罪に巻き込まれることに3回や4回あるでしょ」


「そうだな……」


 私と冷穏はお互いに家に向かって、ゆっくりと歩き出した。


 ***


「なんで歩いてきた私達に追い付かれてんの詩音」


「い、いや……ゲホッ……ちょっ、と3ヵ月ぶ、ぶりに全力疾走したから身体が悲鳴を……」


「孫と公園で遊んで腰やるジジイか何かか」


 そういや詩音、めちゃくちゃスタミナなかったんだった。多分身体弱いわけじゃないけど歩道橋を登って降りるとそれだけで5歳は老けて見える時がある。

 当然持久走大会での順位はビりに近い。むしろ参加しただけでも褒めるべきだ。


「とりあえず早くその子と会わせてよ。どんな顔してるのか見てみたい」


 詩音は兄の飲みかけのコーヒーを一気飲みしながら、ドアを指さして私に開錠を促した。


「はいはい」


 私はプリンのストラップ付きの鍵をポケットから出すと、鍵穴に差し込んでドアを開けた。ちらりと横の犬小屋を見ると、らいおんは中でチョコレート大福みたいに丸まって私に肛門を見せつけていた。誘ってんのか?


 そう思いながらドアを開けた。 


「ただいまー」


「お邪魔しまーす」 


 私が大声で帰宅を告げると、母さんが欠伸をしてリビングから出てきた。


「ふぁ……おかえりー。あ、詩音と冷穏ももう来たんだ。ちょっと待ってて。カミーリア? 早くこっち来て」


 母さんがリビングにいると思われるカミーリアを手招きして呼び寄せる。

 すると、不安げな顔で親指を咥えてカミーリアがおずおずと出てきて私を見た。


「え? 嘘……めっちゃかわいい……」


 詩音が口元を手で覆って感嘆する。

 しかし、その姿は朝のカミーリアとは大分異なっていた。腰くらいまであった髪を肩先辺りで切り揃え、おかっぱ頭に整えてある。前髪は私の水色のヘアピンで分けてあった。


「ほら、カミーリア。帰ってきた人には何て言うの?」


 母さんがしゃがんでカミーリアの両肩に手を置くと、気恥ずかしそうにこの子は口を開いた。


「お、おかえり。チアキ」


「うああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 刹那、我を忘れて私は靴も脱がずに四つん這いで廊下を這ってカミーリアを全力で抱き締めた。まさか子犬が半日で天使になるとは思わなんだ。

 いや、もはや私を堕とすためだけに存在する堕天使となってしまっている。


「……」


「うわ……」


 背後で何やら冷たい4つの視線を感じるけど気にしてる暇はない。母さんもいい仕事をする。よし、これはもう今すぐ一緒にお風呂に入ろう! それしかない。

 と思った時、カミーリアの髪から嗅ぎ慣れた甘い香りがした。私が使ってる2200円のグレープフルーツの香りのシャンプーの匂いだ。私は光のない目で母さんを見上げた。


「母さん……?」


「ん? 風呂なら私が入るついでに入れたわよ」


「ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 私はショックのあまり、カミーリアを抱き締めたまま床に拳を叩きつけた。私が今日一日、カミーリアとの入浴を楽しみにしてたと分かってて風呂に入れたとしか思えない。

 怒りでどの道我を忘れそうだ。私は裏切られたんだ。唯一の肉親に。今、地獄とは死後の世界にあるのではなく、人の頭の中、精神の中に根付き存在するのだと私は悟った。


「キッズの頃のアンタと違って髪切る時も洗う時も全く暴れないから死ぬほど楽だったわ」


「憎い……」


「チアキ、苦しい」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 風呂場の下りで一緒に入ってほしいような入ってなくて焦らされる感じが良いのか、みたいな 好き [一言] 食堂の下りとかでしっかり物語が作り込まれているといったような良さを感じる
2021/07/10 22:35 退会済み
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