ショタコンじゃないけど 1
昼休み。私は窮屈な学食で一人日替わりのアジフライ定食を食べていた。
この小さなアジを分厚く脂ぎった衣で誤魔化してるのが何とも言えないジャンクフード感がある。たくさん食べる野球部や相撲部の連中を安く満腹にさせるために考えられたんだろうな。
学校では今日もマチリークについてクラスメイト達が話している。むしろ、あれから外務卿がマチリークの内情について部分的だが語っていたこともあり、議論はさらに白熱化している。
本当は本格的に戦争をする前の偵察に来ているとか、亡命マチリーク人の引き渡しを求めて来ているとか、あるいは東北全てをマチリークに併合する気だとか色々陰謀論を語り合っている。
信頼できる情報筋が言ってるわけじゃないのに、どこかのサイトが言ってる出まかせを鵜呑みにしてみっともない。マジでその気ならそんな機密情報、ただの学生の私達が知れるはずないでしょ。
でも、今日は昨日よりもそれらが不快に感じない。何故なら、私はマチリークの秘密を知っているからだ。日本政府もどこの国も知らない極秘の存在が、まさか私の家にいるなんて誰も想像つかないだろうな。
スリルや不安もあるけれど、それ以上に私だけが真実を知っていると思うと優越感が半端ない。他の連中はせいぜい少ない脳味噌フル稼働して練り上げた妄想に浸っているがいい。
「フフ……」
「何笑ってんの?」
思わず笑みがこぼれた時、隣に座っていた詩音が怪訝そうに私の顔を覗き込んだ。そうだった。詩音いるの忘れてた。
カミーリアが昨日弁当の分のごはんまで食べるから、私今日学食に来てるんだった。そうじゃなかったらこんなうまくもまずくもないアジフライを好き好んで食べには来ない。
「いや……思い出し笑い。昨日の……ほら、秘密のミンゾクショー面白かったなって」
「あー私も見てた。秋田県民はフルーチェにハチミツかけるくらい甘党な人が多いって言ってたね」
実際はその時間は私の家にマチリークからの刺客来てたけどね。朝から少し心配だったけど、どうやら誰も私の家で昨日何があったかは知らないようだ。そもそも私の家がどこだか興味ある人もいないだろうし。
「珍しいね。詩音が学食使うなんて」
「うん、兄貴昨日転んで頭強く打ったらしくて、帰ってくるなり痛すぎるって寝込んじゃったから、弁当の盛り付けできなかったんだよね」
そういえば昨日カミーリアに吹っ飛ばされてたな。今思えばあそこでもう力を使ってたのか。でも、それくらいで済んだのはむしろラッキーだったかもしれない。何しろ本気出せば家も軽く潰せるらしいし。
「あの弁当冷穏が作ってたんだ」
詩音が野菜炒めを頬張りながらうなずく。
「うん。学食はカロリー高いし得体のしれない添加物使ってるから食べるなって言ってくんだよね。の割に自分はよくポテチ食べてるけど」
溺愛されてるなー詩音。最終的に有機栽培の野菜以外食わせないとか言い出しそうだけど、まぁお互い唯一の肉親だし気遣うのもおかしくないし当然か。
いや、考えてみたら私も肉親母さんだけだから境遇は同じなのか。あんまり考えたことなかった。
「じゃあ今日は学校来てないの?」
「そう、でも千明の家には来るってさ」
「え? あっ今日か」
そういえば、今日は詩音と冷穏を家に呼んで一緒に夕食食べる日だった。
死んだ2人の両親は母さんの中学だか高校だかの先輩で、それで大人になっても交流があったから私と2人は双方の子どもということで幼馴染なんだ。
……母さん、まだ34なのに親もいないし、身近な人たくさんというかほぼ全員死んでるんだな。私の実の父さんも事故で死んでるし、まさか悪霊に憑かれてやしないだろうか。コナン君みたいだ。
「どうしたの? なんか急用できちゃった系?」
「いや、そうじゃないんだけど……ちょっと今父さんの知り合いの俳優の子どもを預かってて……」
うまい嘘をつけた。カミーリアのことを包み隠さず言ってもデメリットしかないし、詩音はそれほど口が堅い子じゃない。それに、知らない方がいい時もある。軽はずみに巻き込んで何か起きてからじゃ遅い。
「ふーん、その子かわいいの?」
「うん。かなり。何でそんなこと聞くの?」
「だって千明、ショタコンじゃん。重度の」
「え? 違うよ?」
いきなりふざけたこと言うなぁ詩音は。私はただ弟が欲しいだけで少年に劣情を催したことはないというのに。そんなに。
「え? そうやって自覚ないところに本物の素質あるよ。中学生の頃の文化祭で千明、露骨に幼稚園児や低学年の小学生にはでれでれしてたじゃん。普段ほとんど笑わないくせに」
「いや、あれは小さいのに一人でかき氷買いに来れて偉いねーって褒めてあげたくなっただけであって、それ以上の感情はないから勘違いしないで。というか子犬が盲目的であるように小さい子に庇護欲が掻き立てられるのは人として当然だから、母性本能は男にもある原始的な感情だから、むしろ頑張ってる子どもを愛でたくならない方がおかしいから」
「めっちゃ喋るじゃん」
こういう誤解はきっちり解いとかないと後々めんどくさいからね。というか美少年が嫌いな女性っているんだろうか。ネッシーより少なさそう。いや、ネッシーはまずいないのか。
畜生どうしよう。喋ってたらカミーリアに会いたくてムラムラしてきた。この渇きを癒すには今日も一緒に風呂入らなきゃ。
「で、その男の子がいると何か問題あんの?」
詩音がそう疑問に思うのも当たり前だけど、まぁシンプルにカミーリアを私と母さん以外の女と会わせたくないだけです。特に詩音クラスの美人は特に。カミーリアにとって害でしかない。
でも、そんなことを正直に言うわけにもいかない。
「ま、まぁただでさえ知らない家に泊ってるから、知らない人が来たら混乱するんじゃないかって思っただけだけど、多分だ、大丈夫だとお、思う……」
「すごい歯軋りしながら言うじゃん」
何か今一瞬、詩音にカミーリアが奪われるビジョンが脳裏をよぎった。それは朧気で精彩を欠いていたにも関わらず、私の脳に絶大なダメージを与えた。
大丈夫、カミーリアは人間不信。それほど簡単に初対面の人間に心を許さないはず。それに詩音の男の趣味とカミーリアは合致しない。二人を会わせても何も問題ないはず……。
「詩音」
「ん?」
私は紙パックのぶどうジュースを啜る詩音の両肩を掴むと、ぐいっと私の方に顔を向けさせ。私は詩音と額を擦りつけると、声を低くしてこう言った。
「その子、私以外には懐いてないから、詩音が話しかけても無視されて不快だろうから話しかけない方がいいよ」
「わ、わかったよ。そんなにかわいいんだね! 誰にも触れさせたくないんだねその子」
「……まぁ」
色んな意味でその通りだ。それでもリスクを承知で家に上げるのは詩音が数少ない友達だからに他ならない。だからこそ、詩音は巻き込みたくないし部外者のままでいてもらいたかった。
武装組織マチリークの軍事機密が家にいると知るより、くだらないけど私がショタコンでカミーリアにベタ惚れしてると思わせてあげた方が幸せなのかもしれない。
ちょっとだけカミーリアの力を見せて驚愕する詩音の顔が見たいという気持ちもあるけど、堪えなくちゃ。
そもそもカミーリアにとってあの力は嬉しくもなんともない代物だというの思い出したところで、昼休み終了5分前のチャイムが鳴った。
***
一方その頃カミーリアは……。
「カミーリアの耳、耳垢溜まりすぎて綿棒先っぽしか入らないんだけど」
「え?」
「耳垢ギッシリで耳かきができない」
「は?」
「み!み!か!き!で!き!な!い!! 何これ!? 耳垢って溜まりに溜まると耳遠くなんの!?」
「あ?」
「うるさい大声出すな。近所と業者の人に迷惑だろ」
清香によって耳かきをされていたが、浮浪児の不潔さというものを彼女は舐めており、カミーリアによってそれを嫌というほど思い知らされた。




