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今日も今日とて、修羅場である。



そうしてレオと昼食をとることが習慣となってきた頃、私の料理の腕はメキメキと成長していた。

今では簡単なコース料理だってお手の物である。

自分で言うのもなんだが、初期よりもだいぶ味も良くなったと思う。

レオは相変わらず「世界一美味しい」と言ってくれるが、いつかそれをお世辞ではなく本心から言わせるといつ野望を抱いてる。




ちなみに今日は中にベーコンとチーズを挟んだマフィンである。朝に屋敷の人達に試食をしてもらった所、メイド達だけではなくロータスにまで太鼓判を貰った力作である。




入学から3ヶ月が経った今では、無理に話しかけられることもなくすっかりクラスで私はいないものとなっていた。

まあ、これでいいんだけどね!!ほんとにいいんだけどね!!

幼馴染であるアレンは私以外に友人がいないようだから少し心配だ。




でも、ゲームの設定とは変わっているという点では良いことなのかもしれない。

毎時間休み時間になると私の教室へ来て無理やり一緒に昼食をとろうとするアレンから逃げるということを3ヶ月間繰り返している私からすれば少し厄介だが。

死んでもぼっちになりたくないという執念がすごいな……。

ぼっちは受け入れるものなんやで……。と私が遠い目をしているとチャイムの鐘が鳴り響いた。




今日のマフィンはできるだけあつあつの状態でレオに食べて欲しいな。

そう思った私は、近道の中央廊下を通っていつもの庭園へ向かう。3ヶ月間全ての日をアレンから逃げ切っていたため完全に油断していた。




まさか、アレンに捕まるとは。



「やっと、捕まえたぜ。ティア?」


そう言うアレンはこめかみがピクピクと動いており、端正な顔立ちを曇らせている。

私はできるだけ刺激しないように務めて笑顔を保つ。



「アレン、久しぶりね!私これから用事があるの。手を離してくれないかしら?」

「久しぶり??ハッ、お前が俺から逃げてんだろうが。いつもの『ユウジン』のとこ行くんだろ?」


アレンは苦虫を噛み潰したような顔で吐き捨てるように言う。


「ええ、友人を待たせてはいけないわ」

「お前のトモダチは俺だけだろ??」



最近のアレンの口癖だ。

そんなにぼっちが嫌なのか。なら私以外に友達を作ればいいのに。難儀な男である。



「私が誰と仲良くなろうがいいじゃない。それに、アレンだって私以外に友人を作ってもいいのよ。」

「は??なんだよ、それ」



アレンは傷付いたような顔をする。昔からアレンは実は泣き虫だ。



しまった、友達を作らないのではなく、できないのか。

私は気づいてしまった。

(アレン、今まで察してあげられなくてごめんね……。)




私は慌ててフォローに回る。


「大丈夫よ!友達を作るペースは人それぞれよね!これからゆっくり作っていけばいいのよ……!」

「俺はお前以外要らない」



友達がいないからってムキになるとはなんだかどこまでも可哀想に見えてきた。アレンはドス黒く、どこか焦点の合っていない目で私を見つめる。




私はなんだか、前世で読んだ友達の出来ない悲しきモンスターの絵本を思い出して、無意識にアレンの頭を撫でていた。



「アレン、よしよし」

「……!」



アレンは少し頬を赤らめ私に頭を預ける。

なんだか大型犬みたいだな。前世は大きな犬に憧れて、犬を飼っている友人の家に遊びに行っては構っていたなあ。……犬の方から好かれたことは無かったけれど。



「よしよーし」


わしゃわしゃと頭をブラッシングするように撫ぜていく。アレンは段々と落ち着いたのか、目も光が入ってキラキラとしてきた。私は保育士さんではないのに、すっかり手馴れてきてしまった。




「やっぱり、お前には俺だけ。俺にはお前だけだな」


アレンは子供の頃と変わらない笑みを浮かべる。

乱暴で子供っぽいけど、笑顔だけは昔から変わらない。

彼のそんな所に何処か安心する。



「もう、アレンったら……『ティア?』……レオ!?」



まだそんなこと言ってるの、と言おうとした瞬間、レオがいつの間にか私とアレンをべりっと引き剥がしていた。

……なんだかいつもと雰囲気が違う?

いつも穏やかに緩ませた口は固く閉じ、なんだか無機質に感じられた。



「レオ!?どうしたの!?」

「オイ、何すんだこの目隠れ野郎」



全身から「怒ってますオーラ」を出すアレン。

ただ1人の友達との交流が中断させられて悲しいのだろう。

アレンは今まで以上のブチ切れである。

私は大型犬が急に吠える映像を思い出した。






「何って、ティアが困ってたから助けただけだよ」



レオの方をチラリと見ると今まで見たことのない雰囲気を纏っていた。

長い前髪の下から怒りの様な感情が読み取れた。

いつもはニコニコとしている為か、怒気を孕んだ口調に私は少しゾッとしてしまう。



「……『ティア』?お前今、確かにそう言ったよなぁ??」




アレンの顔から表情がすとん、と抜け落ちる。

あ、やばい。

これは、アレンの地雷を踏んだときにだけ見せる表情だ。

過去に「アレン早く婚約者作ったほうがいいんじゃね?」ということを遠回しに伝えた時に見たことがある。1つ言えるのはこうなったアレンには手がつけられないということだけ。



「……お前が、ティアの『ユウジン』か……」

「そうだけど、何?」



お互いの背後からドス黒いオーラが出ているような気さえする。

アレンはいつレオを殴ってもおかしくなさそうだ。人を殴ってはいけない、なんて教えなかった私も悪い。

いや、普通の人は教えなくても分かるのだけれど。

ああもう、早く止めないと!



「アレン!落ち着いて!」

「うるせぇ!!こいつが居るから、お前は俺を見てくれないんだろ……?」



アレンはどうやら友達を取られた嫉妬をしているようだ。なんだか幼稚園児のようだな、と内心苦笑してしまった。

私が説明しようと口を開けると、レオが冷たい声色で言った。



「アレン、レオはね……」

「キミより、俺とティアの方が深い関係だからさっさとどこかへ行ってくれない?」


レ、レオーーー!今のアレンにそれは禁句よ!

しかし時すでに遅し。現実は非情であった。

『飼い犬に手を噛まれる』とはこの事かしら。



アレンはブチ切れを超えてブチブチ切れだ。

ああ、なんでこうなるのだ。

私はただ美味しいマフィンを食べて欲しいだけなのに……!!



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