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今日も今日とて、護衛騎士。





「……ん、もう朝かしら?……うわっ!」


目が覚めた私がチラリと横を見るとレオと目が合い思わずみっともない声が漏れる。



「お早う、ティア。今日も可愛いね」


流石イケメン。朝からキラキラと輝いている。

私は朝起きると大抵顔が浮腫んでいるのに、どうしてこんなにも違うのであろうか。

ええい、神を恨むしかない。



「お早う。もう、レオびっくりしたじゃないの」


「はは、ごめん。寝ているティアが余りにも可愛くって。一時間くらい見つめっぱなしだった」



一時間!?そんなに変な顔で寝てたかしら……。

そう言えば以前メイドに「お嬢様、今朝白目を向いて寝ておりましたよ」と言われたことがあったような。は、恥ずかしい。

今日からアイマスクでも付けて寝ようかしら。







今日も昨日と同じく、レオが「公務なんて行きたくない。一生ティアとふたりぼっちで居たい」

とゴネるのを慰め送り出す。

私もブラック企業に勤めていたから、その気持ちが痛い程分かる。

ちなみに、今日の朝食はマフィンであった。

言うまでもなく美味しくて三個も食べてしまった。

……運動はするから、大丈夫よね。





そうして腹筋を始める。昨日は20回だったから今日は30回ね。前日からの筋肉痛のせいで昨日よりキツかったが、やる気で乗り越える。

そうしているうちに、恒例の昼食受け渡しである。

今日は玉葱のスープと、グラタンだ。アツアツで美味しそう……。



私は戸棚奥から新品のお皿とスプーンを持ってグラタンの半分をそちらへ盛る。

そして、『宜しければ一緒に食べて下さらない?』とメモに書いて向こうへそれを渡す。



すると直ぐに『お辞め下さい。レオナルド様に話すなと言われております』と、昨日と同じことを書かれてメモが戻ってきた。

くうぅ、一筋縄では行かないわね。でも、ここで諦めないのが私である。

私はスプーンでグラタンを掬って一口食べる。



「そう?じゃあ一人で頂くわね。……ん、美味しい!チーズがとろけて牛肉と混ざりあって、アツアツでこのグラタンとっても美味しいわ……!!ああ、これを食べない人なんているのかしら……チラッ」



大声でわざとらしく食レポをする。ふふふ、どうだ。お腹が減ってきたであろう。

そして極めつけは『レオナルド様には黙っておくからお食べなさいな』という悪魔の囁きのメモを渡す。




それから数分後、返ってきたのは真っ白なお皿と『本当に黙っていて下さいね。美味しかったです』

というメモだった。

ふふふ、この勝負セレスティア・ヴァニラの勝利である。しかし、私は根っからの悪女。ただで黙る訳が無かろうに。私はニヤリと悪役顔で笑う。そしてまたしてもわざとらしく大声で扉の向こうへ言った。



「ええ、どうしましょう〜。口が滑って言っちゃうかもしれないわ〜。でも、貴方が私の話し相手になってくれるなら黙っていてもいいけれどね〜」



どうだ、必殺『先生に言っちゃうぞ』作戦である。

前世の小学生の頃の私はこれを言われると途端に素直になっていたものである。

するとすぐさまメモが此方に渡ってきた。



『騙しましたね……。でも話し相手は無理です』



なかなか相手も手強いわね……。でも、グラタンを食べたということは同罪よ。私はめげずに声を張る。



「じゃあ言っちゃうわよ〜。貴方が美味しそうにグラタンを食べていたこと!!」



我ながら自分の悪女っぷりにクラクラしてきたわ。

ふふ、当然慌てているだろう。というかレオはそれだけで怒らないと思うが、相手は皇太子だ。

向こうにも『怒らせてはいけない』というイメージがあるのだろう。



すると今度は一分程経ったあと、


『分かりました。けれど絶対に言わないで下さいね』


というメモ。ご丁寧に『絶対』の所だけ下に二重線が引かれている。交渉完了である。

私には話し相手ができたのだ。使えるのはメモだけであるが。



「まあ!嬉しいわ。約束する、絶対に黙っているわよ。あと私のことは『セッちゃん』と呼んでね。あと敬語も要らないわ」



するとまたメモで『そんな不敬なことできません』と言われたが、もうすっかりお得意の「じゃあ口が滑っちゃうかも〜」でどうにか解決させたのであった。








それから一時間程私は言葉、相手はメモでの会話を続けていた。今までアレンとレオと実家の人以外にこんなに沢山話した事が無い私は、嬉しくてつい舞い上がってしまう。

話した感じ、向こうは40代男性って感じね。

好きな物を聞いた時、『仕事上がりの一杯と、休暇っす』……と、なんだか趣味がおっさん臭い。




というか敬語を外せと言ったのは私だけれど語尾が『~っす』なのは驚いた。

流石にリアルでは言っていないだろうが。それから向こうが王家直属の騎士であることと、そこそこ偉い立場の人だと分かった。

因みに好みのタイプは『ボインのねーちゃん』、

独身だそうだ。……なんとなくそんな気はしていた。




「ええ〜、好きな人は居ないの??」

と私が茶化し気味に聞くと、『居ないっすね、惚れられることは多いんすけど』と簡潔にメモが渡された。突然のモテるアピールに私は少しイラッとしたが、まあ20年くらい前の話だろう。

向こうも変に警戒心が無くなり、すっかり打ち解けた様であった。

この世界に来て恋バナなんて初めてだ。

ついテンションが上がってしまった。

というか好みのタイプがボインのねーちゃんって。確実におっさんじゃないか。でも、話していて気が楽だ。

なんだか庭師のヒューリーさんを思い出すわね。




すると一枚のメモが渡されて来た。

『そう言えば昨日そちらの部屋がうるさかったんすけど、何してたんすか』

と書いてある。私は馬鹿正直に答えることにした。


「ああ、盆踊りを踊っていたのよ。こう……エッサッサ!!エッサホイサ!!……みたいな感じで」



すると向こう側から「ぶふっ……!!」と吹き出す声が聞こえて来た。何だか嬉しくって私はまた歌い出す。



「エッサッサ、アラヨット!!」


すると震えた文字で、『もう勘弁して下さいっす』とメモが渡された。ドアに耳を当てると、向こうでで小さく笑う声がまだ聞こえてくる。なんだか可笑しくって私も笑ってしまう。




「今、笑ってるでしょ。分かっちゃったわよ」

と私がニヨニヨとしながら聞くと、


『セッちゃん、もっと高貴な人だと思ってたっす。レオナルド様からアンタが誰かは聞かされてないけど』



と、返事が返ってきた。その文字もまだ震えている。私はそれにまた笑う。

……なんだか、前世の高校時代を思い出した。

何気ない事で友達と笑っているときの私を。

まあ、この人の顔も声も知らないんだけどね。

知っているのは笑い声と筆跡と性別と職業と、好きなタイプだけ。……結構知ってるわね。




「ええ、別に私は高貴じゃないわよ。ここももうすぐ出て行くことになるだろうしね」


『それは寂しいっすね。こんな変なやつの護衛、初めてだったんで』


「私も、貴方と話してると楽しいわ。一人でこの部屋で過ごすのは寂しいもの」




そして、二人で色々なことを話した。

近頃流行りのものとか、美味しかった料理とか。

家族の思い出とか……。最中に向こうが

『仕事が辛いんすよ』とポロリとメモに零したので、私まで前世を思い出して辛くなってしまった。

その業務内容は、明らかにブラックだったからだ。



「え!?朝から晩まで私の部屋の前で護衛してるの!?貴方一人で!?!?最悪じゃないその騎士団……いや、悪いのはこの宮殿ね!!」


私が思わず声を荒らげると、メモが慌てたように素早く渡される。


『しっ!誰が聞いてるか分かんないんすから!』


と、叱られてしまった。でもその後、


『でも俺の為に怒ってくれたのはすげえ嬉しかったっす。ありがとう』


と返ってきた。私は「いい??辛い時は休んでもいいのよ」と言葉を返した。

休まなかった結果が、今の私だからだ。

仕事が全てだと思ってはいけない。




そこからまた、たわい無い話を沢山した。


『あ、そろそろ三時のおやつっすよ。俺も食べたいな〜』




すっかり馴れ馴れしくなった扉の向こうの人に

「しょうがないわね」と笑いかける。というかもう三時間も経っていたのか。井戸端会議の気分だ。

よし、お皿を持ってこないとね。




……と、戸棚から皿とフォークを取り出そうとした時であった。


「う、……高い位置で届かないわね」


背伸びをした瞬間。カーペットで足が滑り、一瞬の浮遊感に見舞われる。


「きゃああ……!!」



ズッドーン、と辺りに音が鳴り響いた。そしてお皿の割れる金属音。

とても大きい音が鳴ってしまった。この歳になって転ぶなんて恥ずかしい。私が体制を持ち直そうとすると、扉が勢い良く開いた。



「セッちゃん、大丈夫っすか!?!?」






そこに居たのは━━━━━━━。




金髪に琥珀色の目を持つ美男子であった。





……だれ?この人。

私が固まっていると、向こうも同じように固まっている。そのまま数秒間沈黙が流れた。

するとイケメンが驚きながら叫んだ。



「え、セッちゃんってオバちゃんじゃなかったんすか!?!?」




……また数秒間の沈黙。するとイケメンはその場に蹲る。ん、『セッちゃん』??

ひょっとして、この人。……扉の向こうのおっさん??



蹲っているその人は、どう見ても10代後半から20代前半だ。え?私の想像していた気のいいおっさんはどこ?というか『オバちゃん』って、向こうも私の年齢を勘違いしていたの!?



頭が混乱する私が青年を見ると、その美丈夫の顔が真っ赤に染まっていた。

レオが黒髪正統派イケメンだとすれば、アレンは俺様系赤髪イケメン。この人は甘いマスクのチャラ男系金髪イケメンって感じね。



「えっと……。扉の向こうの人かしら?」


「え、あ、うん……。君は、セッちゃんなの……?」


「ええ、私がセッちゃんよ」



その蜂蜜色の瞳は潤んでおり、じっと私を見ている。すると口元を手で抑え、甘い声で言った。



「やべー、超タイプっす……」


「えっ」





今、このイケメンなんて言った??




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